短編 | ナノ


【志摩家だけ♀/勝呂・子猫丸は♂】


「絶対うちがなるべきやわ」
「あほか、そんなんうちやろ」
「柔姉さん、そろそろ夢見るのやめた方がええんちがうの?年考えてみ?」
「おいゴラ廉お前ちょっと外出ぇ」
「ごめんなさいめっちゃ悪かった」

茶の間、丸い机に女三人が神妙な顔つきでそこにいた。互いに目配せをしてこれだけは譲らないという気迫がびりびりと伝わってくる。

「よう考えてみ?10歳差と5歳差と差ぁなし。どう考えても差ぁない方がええやろ?」
「あほ言いな。10歳の経験の差で旦那フォローできるうちが一番ええわ」
「やー、やっぱりちょっと年上の5歳差までやろ。10歳はきっついで柔姉」
「よっしゃお前表出ぇや」
「ごめんうちもめっちゃ調子に乗ったごめんごめんって」

うちが、うちがと話は進まないが本人たちは真面目な顔で言い争っている。そこへ子猫丸が現れ、どないしはったんですか、と聞いたものだから3人は子猫丸をその円の中に入れる。

「そんな真剣な顔して。…まさかなんかあったんです?」
「子猫、真剣な問いや。よお考えて答えてほしい」
「はい」
「この中で、坊の嫁は誰が一番ええと思う」
「………」
「絶対うちやろ?」
「そんなんずっと一緒におるうちやんなぁ!?」
「ちょっと年上のうちやろ?」

子猫丸を円の中に入れたが、結局は言い合いになってぎゃいぎゃいと賑やかに喧嘩になっている。子猫丸は声をかけたことに心底後悔した。八百造さん、通ってくれんかなと廊下をちらりと見る。この喧嘩は今に始まったことではない。前々からの喧嘩になっていて志摩家の付に一度の行事と言っても良いほどの頻度で行われる。これが終わるのは誰かが任務などで呼び出されたときか、八百造が通って怒る時のどちらかだ。

「なんや、どないしたん?」
「「「坊!!」」」
「…(ああ坊なんてタイミングの悪い時に来はって…)」

こっちきとくれやす、と笑顔で円の中に入れられると若干の不安を感じつつも子猫丸がいる安心感からそこに座った。しかしちらりと覗いた子猫丸の顔がお世辞でもあまり良い表情をしていないことからしまった、と自分の選択ミスを悔いた。

「な、なんやねん」
「もうこうなったらはっきりさせましょう」
「なぁ坊、この中やったら誰と結婚したい?」
「勿論、うちやんな?」

ずずい、と勝呂の手を握って迫る金。

「そんなん、同じ年のうちですやろ?」

姉妹一の巨乳をアピールしつつ迫る廉。

「遠慮せんでええんです、うち選んでもろて全然構いませんえ?」

断固たる年上の威厳を持って迫る柔。
どうでっか、と凄まれて勝呂も八百造が来てくれることを祈るが、それは叶わなかった。ここで選択を誤ると後々面倒なことになるのは分かっている。そのため適当なことを言うことはできない。というか、全員自分が良いと思っているため、誰か一人を選ぶと後の2人から非難を浴びることになるのは分かっている。つまり選んではいけないのだ。

「…そ、僧正家と座主の血ぃ……混ぜたらあかん…気が……する」

これが勝呂が考えだした答えだった。最小限の傷だけで済む考え方だと思う。僧正家は僧正家、座主は座主で常に血を守ってきたからここで混同させてしまって良いのだろうか、とそれらしいことを言うと志摩家の姉妹はううんと唸った。

「ほ、ほな俺勉強あるから行くわ」
「あ、ずる…やなくて僕もご一緒します」

ばたばたと去って(逃げて)行った2人を追いかけようともせず、3人はそこの正座したままだ。3人は過去にそんな事そういえば聞いたことがないと頭の中で悶々と考える。僧正家と座主の子は座主と呼んで良いものなのか、さらにいうなら勝呂家は一人息子だ。勝呂以外に兄弟がいれば話は変わってくるが、一人息子を僧正家と、なんて難しい話なのかもしれない。

「完全に考えが足らんかったわ」
「うち、そこまで考えずに坊と結婚したいと思ってたわ」

志摩家は永遠に僧正家やもんなーとうつ伏せた廉と金とは違い、柔だけはまだ考えていた。そして結論に辿りついた。

「妾…か」
「「それや!!」」
「それでもうちが一番やけどな!」
「ぺちゃぱい金姉は黙っとって!うちやろ!」
「あほ言いな、こんなんは年功序列やわ」

そしてまた初めのような喧騒になる。



<了>

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