短編 | ナノ


幸せを感じる01【金勝】


「金造、もう出番やで」
「わーっとる」
「携帯見るよりお前は歌詞見てた方がええんちゃう?自分で作った歌詞でも忘れんねんから」
「今日は俺多分100点やで」
「いつも歌詞間違えるくせになにを……あ、そうか今日来るんか」
「え?なに、なに来るん?せん●くん?」
「あほそれ奈良や。金造が溺愛中の中学生」
「ほぉー…って中学生!?」

携帯のメールには「ちゃんと見とるから頑張り。めっちゃ楽しみ」と顔文字も絵文字もない返信が来た。それだけでめっちゃテンション上がる。
俺は今日この日を楽しみにしとった。大きめのハコでライブをすることになって、これは坊に見て貰いたいと思って誘った。対バンやから少ししか歌われへんけどって言うたら久しぶりに思い切り歌っている俺が見たいてすぐに返事をくれた。
そんなん気合いも十二分に入るっちゅうねん。もう楽しみなことがありすぎてにやにやする。久しぶりの大ハコでのライブ、そのあとの打ち上げ、そして一番は坊と一緒にビジネスホテルに泊まるってこと。ライブと打ち上げが終わってから帰ると結構遅い時間になる。めっちゃ綺麗ってわけちゃうけど、とりあえずシャワー浴びれて寝れる場所確保出来たらええし、高いもんやないし、打ち上げをする日はいつもこのホテルに泊まっとる。今回は夜通し坊と一緒にいれるとなると幸せすぎてなにか悪いことが起きるんやないかと思うわ。

「っしゃあ行くでぇ!」

でもまぁ、ライブで恥ずかしいところは絶対見せられへん、気合い入れていこう。







「きーんぞ、金造、先に風呂貰うで?」
「んあー……」
「風呂いっとる間に寝落ちすんなや?」
「らいじょうぶれすぅー」

ライブは大成功だった。坊もめっちゃ良かったと興奮気味に言ってくれたほどで、最高のテンションを維持したまま打ち上げやって。坊が打ち上げにいる、褒められた、ライブが成功という嬉しさと一気に押し寄せて酒はいつも以上に進んだ。自分でも結構酒には強いと自負しとるけど、解散するときはべろべろになっとった。坊に自分を背負わせるわけにはいかんからバンドメンバーにホテルまで送れと送って貰って今に至る。
さっきまでシャワーの音が聞こえていたのに、聞こえなくなった。坊、もうすぐあがってくるかな。せめてこのクソ重いブーツだけでも脱ごうとしたけど、あかん全然身体動かん。

「ほら金造、風呂空いたで」
「んんんー…」
「靴脱いで、ああそんなじゃらじゃらアクセつけたまんま…」

もぞもぞと体を動かすと、坊がブーツを脱がせてくれた。上着を脱がせようとしてくれたんか、その時に髪の毛を下した坊がめっちゃ色っぽくてそのまま腕を引いてぎゅっと抱きしめた。清潔な石鹸の香りがして、坊の体温が自分より少し低くて気持ち良かった。

「ちょ、金造!」
「あー、坊やぁ」
「なにしてんねん」

くるんと体勢を逆転させて坊に馬乗りになる。ここでようやく暑いと実感してジャケットとパーカー脱いでタンクトップだけになる。ついでに靴下も脱いだら結構楽になった。

「なん、その動きめっちゃやらしいわぁ。誘ってはる?」

俺の下から出ようとする坊の動きがめっちゃかわええ。つい口にするとあほか!と怒られてしまったけど。

「はよ退き…っ」

喋る度に動く唇を見ているとなんだか変な気持ちになってくる。そういえば前に坊に触ったんいつやったっけ?もう前過ぎて考えが追いつかん(酒で頭動かんだけかもしれんけど)。顎に手を当てて逃げれないようにしてから唇を合わせた。まさかキスされると思ってなかったんか、びっくりして口が少し開いた。好都合。遠慮なく舌も堪能させてもらいまっせ。
俺と坊はまぁそういう事を致す関係で。けどキス以上のことは2回だけ。数えてる俺も俺やねんけど。まぁ他の恋人同士から見たら、え、そんだけ?と思われる感じのペース。あんまり会えんっていうのと坊がこういうことに疎いっていうのがあるからしゃーないねんけど。

「坊、涙目や。苦しいです?」
「当たり前やっ、長い」
「やって気持ちええんです」

もっとさせてください、と言うだけ言って返事を待たずにまたキスをする。最初にこのようなことになった時、「俺はどうすればええか分からんから好きにしてええ」と言われているので自分本位にする。唇を食みたくなったら食むし、舌を味わいたかったら味わう。何分でもそうでそうやけど、んん、と坊が喘ぐと一度やめる。涙目ではふはふ息をするのがなんかそそる。もっと触りたいと思ったらすでに手は坊のバスローブの中に入っていっとった。慌てて坊がその手を掴んで静止させる。

「き、きんぞ……その、や、やるんか?」

小さい声やった。いつも凛とした声をしてはる人やのに、小さくて聞こえるか聞こえんかどうかの声。でも今はそれが彼の精一杯の声やっていうのを俺は知っとる。唇の端できらきらと唾液が光っていてそれを拭う。酷く扇情的。
坊から清潔な石鹸のにおいかな、なんか甘いにおいがする。自分をスンとにおってみるとライブハウスでついた煙草のにおいと汗のにおいと香水と酒と。

「あきません?今の坊めっちゃかわええから」
「か、かわええって、なんやねん」
「必死に舌絡めてくれようとしたり、その涙目も、キスしとる時に俺の腕掴んでくれたんもかわいいでっせ」
「……っ」
「めっちゃ愛したい」

こんな歯の浮くような台詞も本心やからすぐにぽろりと口に出してしまう。顔を真っ赤にして戸惑っとる。けど、俺の手は離さん。そんなところが可愛い。

「きん、」
「今、ライブ後で結構テンション上がってて、前より優しくできる気ぃせんのですけど……ええです?」

坊もライブで疲れたやろうし、嫌がることはしたない。それは自分の中の絶対であって、坊が良ければやりたい。坊が俺を求めてくれるんやったら。無理やりしてセックスっていう愛情表現を嫌悪なんてして欲しない。しっかり目を見て、真剣に言う。今なら多分ギリギリ引けると思う………多分な。多分。でもそんな俺の考えは杞憂に終わる。坊は少し目線をずらして、ゆっくりこくんと頷いた。



続→

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