長編 | ナノ


とても静かな狂想曲【柔勝】


「そないに根詰めて仕事せんでも大丈夫ですよ」
「柔造…」
「お茶お持ちしました」
「すまんな」

深夜、まだ俺の最愛の人の部屋から光が漏れていた。
パソコンの前で何かを考えているそぶりをしている次期頭首。今現在引継ぎの段階であり、正式な頭首とはなっていない。引継ぎを終えてももう少し待つつもりや。坊はまだ若すぎる。この国の暴力団と違って、この業界はまだ若さは関係ないとはされるが、トップに立つ人間が10代だとさすがに箔がつかない。せめて三十路とはいかないがその近くまで年をとってもらわなければ。
最近若い連中の力のつけ方が異常だと思う。坊も勿論やけど、子猫もそうや。機械に疎い俺にはよう分からんけど蝮がほんまに子猫丸は逸材やで、と褒めるくらいだから相当使える人材なんだろう。廉造も失敗もなく任務を成功させとるようやし、銃の腕も磨いている。多分銃だけで勝負すると金造と良い勝負をするやろう(金造は接近戦を好んどるけど)。あとヴァチカン本部におる兄弟。あの藤本さんの子供だという事もあって活躍する噂をよく聞く。これはこっちもうかうかしてられん。

「なにかお悩みです?」
「んー…この依頼やねんけど」
「どれです?ああ………んーこれなら廉造でいけますやろ」
「一人でええんか?」
「そうですなぁ。一応金造つけましょうか。やけど廉造も高校卒業したんやし自立してもらわんとあきません」

分かった、というと同時に廉造のシフトに丸が増えた。内容は「外国人マフィア4人の殺害及び匿っている店の爆破」。外国人マフィアが経営している店が高跳びしてきた犯罪者を匿う温床となっとる。そのためその店も潰しておかなければのちのち面倒や。

「はぁー…」
「お疲れやないですか」
「それ言うなら皆や。…ヴァチカンの任務は海外が多いから皆に長丁場で苦労かけてまう」
「みんなは平気です。それよか坊が倒れられた方がきついですわ」
「はは、倒れへんわ」

坊は生真面目やから自分の仕事は自分でやってしまう。たまにはこっちに回してくれれば良いのにと蝮が嘆く程や。蝮は蝮で情報を売り買いしているから坊もあんまり声をかけんのやろう。実質、明陀がここまで復興できたのも蝮が情報を売ってできた金があったからと言えるし。

「そういえば、オトンらがもうそろそろ帰れそうやて連絡ありました」
「ほんまか!」
「ええ。でも坊に連絡入れてへんのやったらまた二転三転しそうですけど…。そうなれば少し楽になりますやろ」
「なに言うてんねん。長期任務やったんや、帰ってきてゆっくりして貰わな」
「ほな坊はいつ休むんです?」
「みんなに比べたらしんどいことあらへん」

ああまた嘘ばっかり。最近碌に寝ていないくせに。目の下の隈が日々色濃くなっているなんてこと、毎日毎日坊を見ている俺はすぐに分かってしまう。こうなれば最後の手段しかあらへん。

「坊、ちょっと失礼しますえ」
「ん?なにを……ぉ、ちょおなにしてんねん!」

坊の腋と膝裏に手を差し入れて持ち上げる。横抱きにしたままデスクを離れてベッドにそうっと下した。靴を脱がせ、上着を脱がせる。風呂も入り浴衣姿であるからこれで寝る準備はできたことになる。

「もう寝る時間です」
「いや、俺はまだ……」
「あきません。これ以上するというなら俺も隣で作業させて貰います」

そういうと坊は言葉に詰まった。自分は無理してでもするくせに、他のやつが無理をすると怒る。そういうお方やからついていきたいと思うねんけど。

「……寝る」
「はい」
「やけどもうちょっとだけ、おってもろてもええか?」
「坊が寝るまでおります」
「ん」

それから坊は昔話をせがんだ。俺は坊がこの話を聞くと余計に頑張ろうとするからあまり話したくない。幼い頃俺が死地に放り込まれた時の話が坊はお気に入りで、その話のあと必ず「俺も頑張らなあかんな、柔造は小さい時にそんな大変な思いをしとるねんから」と言う。十分頑張っていることをもう皆分かっているのに。

「坊はまだこの世界に入って間もないです。もっとゆっくり育ってくれてええんです」
「……話ありがとうな、行ってええで」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」

静かにドアを閉める。廊下には蝮がおった。もう寝るところだったのだろう、浴衣に着替えている。

「竜士さま、お休みになられたんか」
「なんや蝮も入る気やったんか?」
「まぁ。最近お仕事頑張りすぎてると思てな」
「今から時間あるか?ちょお付き合えや」
「なんや」
「坊の仕事についてや」

坊がなんでもすぐに覚えるからって詰め込み過ぎた。教育係に任命されとる俺と蝮の失敗や。坊に負担がいかん様にせなあかん。そこは蝮ともちゃんと意見が合うとるからそうなるようにこれから改善していかんとな。
ほんまは狗のこと聞いて頑張るなんて、そんなことせんでええんです。坊は坊の速度で成長してくれればそれで。狗なんて使い捨ての駒で感情なんて見んでええ。まぁ、それが出来ん主人やからこそ、自分から仕えたいと思うんやろけどな。


これからも狗は主人に尽くしますえ。










(ずっと思っとってんけど志摩ばっかり竜士さまの護衛ずるいわ)
(はぁ?)
(あてらも今後やっていく。その間にあんた事務作業せぇ)
(あほか。お前らみたいなひ弱な宝生に任せられるか)
(ひ弱!?これやから申は…なんも考えんと殺すだけの任務しかできへんくせに)
(なんやとお前…!)
(やるんか?)
(おおやったろうやないか!)
(お前らうるさい寝られへんやろ!)
((すみませんでした))





<了>



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