長編 | ナノ


とても静かな狂想曲【金勝】


キングサイズのベッドで眠っている御方の傍に近寄る。
この方は寝ていても気配は察知できるが、それが見知った奴の気配だとそのまま眠ったままだ。それ以外がドアノブを触ろうものなら枕の下に置いてあるだろうお気に入りのリボルバーに無意識にでも手がいくだろう。

「坊」

起きない。知っとる。その気の知れたんが部屋に来た場合、睡眠は深くなるということを。絶対的な信頼が築かれとるからや。キングサイズのベッドに腰を掛けて、寝とる次期頭目を見る。まだまだ幼い顔つきやけど、徐々に大人びてきていると思う。背も体重も追いこされてしまった。まぁ、本業については絶対に追い越されへん(否、追い越させない)けど。

肩まで被せられていた布団を少し退けて自分が入る。そしてそっとそっと、起こさないようにそっとその左胸に自分の耳をつける。とくんとくんとくんと、血液が流れて心臓の動く音がする。俺はこの音がすごく好きだった。坊が生きている証拠が音にして聞こえるというのはすごく喜ばしいことだった。耳を澄ませば心臓の音、寝息。感じれば体温。このベッドは酷く心地が良い。

「ん……金造か」
「おはようございます、起こしてまいました?」
「いや、もう時間やから起きただけや」

俺が調子に乗って抱きしめるとそれを受け止めてくれる。ああなんて甘い御人やろう!それでもその甘さにさらに調子に乗る俺も俺やけど。

「今日もお勉強会ですか?」
「おう。あと今日は語学とな。金造は…今帰ったとこか」
「はい」

俺がこうやって寝てる坊のところに行くのは大抵仕事が終わった時、それは坊も承知しとる。

「どんな仕事やったんや?」
「んーまぁ、ばーっとする仕事でしたわ」
「皆殺しか」
「その通りです」

首筋にキスを何度も何度もする。そこにキスマークなんてものは付けない。そんな事恐れ多くてできない。自分の主に傷をつけるだなんて。こうやって触れてるだけで満足(っていうか正直興奮する)。つけたいときはちゃんと許可をとる。俺ってめっちゃ優秀。

「ちゃんとできたんか」
「………はい、できました」
「なんやその間は。まさかまたやりすぎて柔造に叱られたんちゃうやろな?」
「……まぁ、」
「あほか。離れぇ」
「あーん、坊のいけず!」
「仕事出来ん狗に褒美なんぞやらんわ」

ああ俺ってめっちゃ阿呆。渋々離れるとなに物欲しそうな顔してんねんと笑われた。そんなに顔に出とったんやろか。まぁその通りなんですけどね。
今日はさすがにちょっとやりすぎてしもたって自覚はある。風呂入った後に緊急任務ってことで急いどって首輪を忘れた。それにまず苛々して、ターゲットがなんや下品でけったいなやつで苛々して、武器がぶっ放したら気持ち良いもので、とりあえず作戦もクソもなかった。

「朝食もう出来てましたえ」
「そか。ほんなら行こかな」

坊の着替えを手伝って部屋を出る。俺もそのまま飯もろてから寝よ。
この建物には似つかわしくない和装で絨毯を歩く。そして廊下に誰もいなくなった途端にぴたりと止まり、俺の首にある首輪の鎖をぐいと引っ張って唇にキスをくれた。

「ぼ、坊!?」
「今度はちゃんと仕事せぇよ」
「…」
「金造?」
「…あかん、たちそう」
「あほか」


あまい次期主に俺はめろめろ。




(お前な、この仕事の片づけ、どんだけ大変やったと思う?)
(すまん)
(警察来るまでに証拠消すのどんだけ大変や思う?なぁ?お前聞いとんのか?ああ?)
(じゅ、柔兄顔マジ怖いで…)
(ほんまは生け捕りやったん知っとるか?あ?)
(や、あの…)
(これでまた蝮になんか言われんの俺やねんぞ?)
(…(それが一番の原因かい!))



<了>

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