とても静かな狂想曲【京都組+奥村兄弟】 「よぉ!」 「あれ、奥村くんやんか。なんやこんなとこで会うなんて珍しなぁ」 元気よく声をかけられて何事だと思えば見知った顔つきが2人。どっちともスーツやけど、真面目の堅物である弟はやっぱりきっちりで兄の方は着崩している。それでこそ奥村兄弟、というところやけど。 とある巨大会社の地下、そこのソファに俺らは座って待っとった。上階となんら変わらへん造りになっとるけど、一階にメインホールがあるのにその下にまた規模は小さいけど同じようにホールがある…まぁちょっとおかしいけど大体がごく普通の会社。デスクワークしている社員がいたり、会議室があったり。ただ圧倒的に人の数は少ない。しかし間違えて地下に来てしまってもまさかそこで世界に広く点在しているお抱えの殺し屋のマネージメントをしているなんて誰にも分からん。 「この支部に任務ついでの届け物だよ。そっちはなんか会議か?」 「今坊と柔造さんと金造さんが会議に出てます。僕らはここでお留守番や」 「へぇ…志摩と子猫丸はこれから暇なのかよ、飯でも一緒に食おうぜ」 「あーあかんあかん。俺らこれからまた仕事入ってんねんしっかも長期ばっかり」 世界一周できそうなスケジュールやで、とげんなりしながら俺が言うと大変ですねとセンセが気の毒そうな顔で苦笑いしていた。前はもっとちゃんとしたシフトが組まれとった。せやけど最近ときたら西へ東へ北へ南へ、どこでも行きますみたいな体制をとられとって正直構成員は結構疲れる。ま、俺は坊のモンやから坊が行けいうなら北極でも南の国でも敵ビルの金庫の中でも行くけど。 「なんだよーせっかく会えたってのにさぁ」 「あはは、今度みんな誘って会いましょう。神木さんたちにも僕ら最近会うてないんです」 「まゆげたちは相変わらずだぜー。じゃあ今度誘ってみるわ」 そこから最近の武器の流通の話、マフィア等の情勢、注意人物と物騒な話を明日の天気はなんやろなぁみたいな軽い感じで話していく。密輸が多くて困るだとか、銃のオススメをし合ったりする。奥村くんは銃よりもっぱら日本刀とかの話やけど。注意人物に自分の兄弟である金兄の名前が上がったことには苦笑いしかできない。 「つかやっぱり明陀の名前はすげぇよ」 「ええ、規模は小さいですが上質な集団だと好評価されていますよ」 「おおきに〜。ま、柔兄や蝮姉さん、あと金兄の悪名のおかげやけど」 どんなジャーナリストでも探せないような情報を掴み、裏社会を隅から隅まで調べつくしている蝮姉さん、予期せぬ事態にも冷静に対処し計画をすぐに思い切って白紙に戻し練り直して実行できるように指揮する柔兄(そして金兄に唯一作戦を分かりやすく伝えられる人物)、明陀の中でも一番の殺傷能力を持って無理難題をいう柔兄の計画を実行に移せる金兄。この3人はこの世界では有名だ。 エレベーターが開いたと思えばいきなりの言い合い。その言い合いの主こそ、俺の主人である坊や。坊の前に柔兄、後ろに金兄。言い合いしているおっさんの方にも同じように2人護衛がついている。柔兄が浮かない顔というか、疲れた顔というか、面倒くさそうな顔をしてるって事は話し合いがうまくまとまらんかったんかな。まあこの言い合い見てたら誰だってわかるか。 「廉造、帰るで」 「えー…と、帰ってええのん?」 俺がそういうわけは、坊とおっさんの言い争いはまだまだ白熱しているからだ。俺の問いに金兄は「こんなん話つかんわ」と飽きれた様に両手を上げた。 俺らの組織は大体がこの支部から仕事を回される。最近支部長が変わってからなんやおかしい思てたけど、まあこうなるわな。 「俺んとこの組織はお前らの傘下になった覚えはないわ!『協力体制をとる』っちゅーことで話ついとるやろ。協力体制をとるだけで俺んとこのモンをそないにこき使われてたまるか。今までの仕事は全部やったるけどこれからは容赦なく降りさせて貰うわ」 「なんだと…!」 「まぁ俺も引継ぎの段階やし?そちらさんの指揮もあんたに代わって最初は大人しゅうしとこう思てんけど。ええ加減にしとかんと本部の方に殴り込み……って奥村やないか」 「おー久しぶり。すっげー機嫌悪そうだな」 「まぁな。悪いけど時間押しとるからまた今度ゆっくり話そうや。すまんな」 「お、おう」 柔兄が子猫さんに坊と先に車に行っておくように指示した。坊らがその場からおらんくなってようやくおっさんに向かって話し出す。 「とりあえずあの方が今までの仕事はやるて言わはったんできっちりやります。けどこっちもヴァチカンばっかりにも構てられへんのですわ。堪忍です」 「それは承知の上だ。…そういえば志摩と宝生の名は留まることを知らないな、いろいろ活躍を聞いているよ…どうだ、お前たちがこっちへ来ないか」 おーっと、まさかのスカウト!まぁ正直ヴァチカンのここの支部はいまいちええやつがおらん。共闘の話も持ち上がってはいるが全部こちらから蹴っている。一緒に戦うなら見知ったやつでも面倒なのに、足手まといがつくなんてそんなリスクを背負わされること坊は絶対にさせへん。この支部が明陀に助けを求めるのもわかる気がするけど、こっちも名前が有名になるにつれて敵も増えてきてて自分らの身ぃ守るのも大変なんよな。 「はは、遠慮させて貰いますわ」 「あんな小僧に付き合ってやることはない。あの餓鬼は少々頭が固いところがあるし扱いにくいだろう。私のところにくれば今よりももっと良い環境と……っ」 そこまで言うとホールの空気が変わった。この場にいる連中はほとんどが死地を知っている人間だろう。みんながみんなこの空気の変わり様に手が一斉に自分の獲物に触れる。奥村兄弟なんて構えも完璧でいつ何が起きても対処できる状態だ。俺でさえ、スーツで隠している拳銃に手がいってしまった。でもこの空気を変えた殺気の正体は知っとる。金兄の殺気や。 「これ以上あん方の事小僧や餓鬼や言うたら許さんで」 「金造、やめぇ」 「せやかて柔兄」 「ここには話し合いに来たんや、ええ加減にせえ」 「……」 分かった、と一言いうて両手を上げるとその空気はまた前のように穏やかになる。武器に触れずにここまで殺気を見せつけられる人物なんてこの世に金兄だけちゃうやろか。 「ほな、そういう事でよろしゅうお願いします。金造、廉造行くで」 「はいはい。ほなセンセに奥村君またな」 「おう。お前の兄ちゃんとマジ戦場で会いたくねぇよ」 ひらひら手を振るとちゃんとメールしたら返事くれよ!とまるで高校生にでも戻ったかのような答えが返ってきた笑えた。 最後におっさんは「この勝呂の狗が」と捨て吐いた。 はは、それ俺らに対しての最っ高の褒め言葉やで。 (奥村君らと話せませんでしたねぇ) (…ええんや。ほんまに時間おしとるし、また電話する) (っていう割に凹んでますね) (言わんでええねん!) (はは) (……) (…?) (あんな言い方したら気ぃ悪するやろか) (ぶはっ!) (笑うな!子猫丸のあほ!) <了> |