長編 | ナノ


従うのはあのお方だけ!【金勝】


「は?」
「いや、やからな。そろそろ坊に3人の半魔獣を仕えさせるのは酷や思て」

金造の今日の仕事は京都の警邏だった。鍵ですぐに向かうことができるが、夜遅くに仕事が終わるとなると京都に一泊してから帰るようにしている。我らが主は日々勉学に励んでいるのに邪魔をしてしまったり寝ているのに起こしでもしたら大変だからだ。
その場合は志摩の実家で両親と一緒に夜にご飯を食べることは珍しくない。そこで兄弟たちの最近はどうだ、坊はどうだと色々と聞かれる。それに答えつつ明陀の方は変わりないかを聞く、それが京都での過ごし方だった。そして今、金造の父である八百造が金造のキャパを超えることを言い放ったのだ。

「ちょお待って。意味わからん全っ然頭に入ってけぇへんなんだわ」
「やから、お前の主を別に探そう思てんねや」
「いやいや俺の主坊やし」
「やーかーらー、坊に3人もてきついやろ」

勝呂は小さい頃6人の半魔獣を連れていた。志摩家の兄弟と宝生家の姉妹だ。しかし年を重ねる毎に主の争奪が少々過激になってきたということもあり、宝生家の姉妹は和尚を主とすることとなった(和尚は蟒・宝生家三姉妹・八百造と五人を仕えさせているが志摩家の兄弟のように血の気も多くないためうまくいっている)。最初の内は不満があったが、やはり男の勝呂と共同生活をすることは難しいし(宝生家の姉妹はそれでも良いと言ったが頑なに勝呂が拒否した)、結局坊を主にすることを志摩家に譲った。それからは3人で坊の半魔獣として仕えるようになった。

「昔6人で半分に減らしたやん」
「ちっこい頃はまだ子供の喧嘩で済んでたやろ。今主の争奪になってみぃ、どえらいことになるわ」

金造は昔の喧嘩を思い返してみた。
志摩家対宝生家で、あっちは蛇を出してこちらは錫杖で…というのは日常茶飯事だった。それはまだ子供であったからこそ許された範囲内で、仮にヒートアップしても勝呂がやめろと言えばすぐにやめた。彼に嫌われることは絶対に避けたかったからだ。

「争奪なんてせぇへんわ。志摩の順位社会の中におるねんから」
「やけどお前一番ストレス溜まる位置におるやろ」

その言葉に金造はどきりとした。
柔造は兄弟の中で一番力があるため、金造がいても廉造がいても勝呂は柔造と一緒にいる。柔造が何をしてもどうにもできないのだ。廉造は一番地位が低いが毎日ずっと勝呂と一緒にいる。朝起きて一緒に学校に行って。任務がもっと多くなれば変わるかもしれないが、大学に行っている間はずっとこのままだ。
金造が勝呂を独り占めできるのは柔造がいない時、けれど廉造がいれば勝呂は触れられるのを躊躇うため満足できるまで構っては貰えない。

「……」
「坊も3人も半魔獣おったら大変やろし、な?」
「…柔兄とか廉造とかはどうすんねん」
「柔造は坊をしっかりお守せんとあかんからそのままやな。廉造は柔造おらん間お守りできるやろし」
「俺だけ?」
「そや」
「ほー…」

目の前にある食べ物を全部食べ終えて箸をおく。腹もいっぱいになったし頭の中も整理できた。

「どうや」
「おとん、俺を舐めんといてや」
「あ?」
「俺の主は坊だけや!坊が大変や思うなら柔兄に俺らの一緒にいる時間の割り振りでもしっかり計画するように言うて!ほな、今日もう仕事ないよな?俺向こうに帰るわ」
ごっそさん!と食器をすぐに片づけ、そそくさと荷物をまとめて勝呂のいる家へ行ってしまった。
「………ま、そらそうやわな」




「ぼーん!!」
「金造?お前今日京都ちゃうんか?」
「坊に会いたぁて会いたぁて帰って来ました。あれ、柔兄と廉造は?」

きょろきょろと見るが風呂にもトイレにもいる気配がない。ついでに言うと靴もない。

「ああ、廉造があんまりにも勉強せえへんから外でしばかれとる」
「また廉造は…」

なにしてんねん、と廉造を叱咤したくなるが、それと同時にここには自分と勝呂しかいないとわかればすぐさま勝呂に飛びついた。

「うおっ!……どないしてん、らしくないな」

いつもなら尻尾をぶんぶんを振り回して腰に抱き着いてきてそのままキスを強請ったり服を捲ったりと忙しない行動をとるというのに、今は腰に抱き着いてそのままだ。

「んー…ちょっとおセンチになってるというか、なんというか」

いつもと違う金造に驚きながら、ゆっくりとその金色に染まった髪の毛を梳き撫でる。するとくすぐったそうにしてぴょこんと犬のような耳が出てくる。

「あっちでなんか言われたんか?」
「まぁ……そんなとこです」
「何言われたん」
「……んー」
「金造、言え」

あまり紡がれることのない命令系の言葉が甘くその頭に響く。こんなこと、自分よりも幼い主に言うようなことではないが、主の命令は絶対だ。

「俺の主を代えようかって話になってました」
「は?…またなんでや」
「坊に半魔獣3匹も多いやろて。3匹もおったらその分絆が薄くなるんが普通です。…やっぱり数少ない方が坊と一緒におれる時間長くなるし、今一番坊とあんまりおれん俺に声かかったんです」

勝呂も思うところがあったのか、眉間のしわを深くした。ああ、そんな顔をさせたかったわけではないのに、と金造は少し悲しくなった。

「……俺のせいやな、すまん」
「そんな!坊のせいやあらへん」
「……」
「俺、十分です。坊の傍におれるだけで、坊をお守りできるだけで十分なんですえ?そらたまに我儘言うてしまうこともありますけど」

今度は金造が勝呂の頭を撫でる。勝呂は自分を責めた。優秀な育騎士であれば不満を抱かせずにできるんじゃないか、自分がもっとしっかりしておけば金造にそんなことを聞かせなくてもよかったのに。

「金造は、なんて答えたん?」
「ちゃんと断ってきました。俺が坊以外の命令聞くとか、ありえへん」
「ほんまか?」
「はい。やからこれからもちゃんと俺のリード握っててくださいね」
「当たり前や」
「ほんでいっぱいご褒美くださいね」
「なにが欲しいん」
「勿論、坊に決まってますやん!」

そのまま金造は勝呂を押し倒し、キスを雨を降らせた。勝呂はそのまま笑って受けていたが、その数分後、帰って来た2匹によって大変なことになるのはまた別の話。




従うのは坊にだけでっせ!



(まぁ、そうなるやろなぁ)
(和尚!)
(八百造も今から違う人のとこ行け言われたら嫌やろ?)
(な…っな、な、な、なん、なんでそんな事言いますの…!)
(ちょ、泣かんでもええやんか!)

志摩家は勝呂家直属!


<了>

Back
×