長編 | ナノ


ひびのせいかつ【志摩兄弟】02


「この日、俺オフや」
「俺もや」
「おいゴラ廉造、お前なんで兄ちゃんらがオフの時に坊を連れ出すねん!」
「そんなんこれ決めた先生に言うてや!」

丸い机の真ん中に紙っぺらが一枚。そして各々の前には自分のスケジュール帳がある。そしてそれを照らし合わせて言った感想が上記である。
勝呂は授業中に今回の試験に実技試験が組み込まれていることを聞かされていた。いざという時、暴走した半魔獣を抑えられるかが育騎士としての試験になるということも。もちろん何事もなく終わればそれは問題ないということで試験は合格とされるらしい。

「大丈夫やろか。志摩、いけそうか?」
「はぁ、まぁどうにかなりますやろ」
「どうにかてお前…」

勝呂は心配だった。廉造はあまり実戦で獣スタイルで戦ったことがない。それをいきなり「はい、魔獣になって。はい、戦って」と実際にできるものなのだろうか。こればっかりは自分が半魔獣ではないからわかることではない。

「なんや、学校ではやってへんのか」
「主と半獣の予定が合わんとあかんからなぁ。各自でやれって言われてたやん」
「おお、そう言えばそうやったな」

半魔獣の暴走は主もしくは親しい者でないと止めることは教師とて難しい。それ故に授業ではそこまで実戦に近づいた授業ができないというのが現状だった。金造が入学した時のこの実践テストでは勝呂がまだ中学生だったために柔造が主代理として参加したという経緯もある。

「どないしよかな」
「なら俺らの任務に同行すればええんちゃいます?半魔獣としての仕事見れるし、楽そうやったら廉造にも手伝わせれるし」
「…………それ、目から鱗や」
「えー!ちょ、あかんあかあかんあかん!」

勝呂が目から鱗と称した案を廉造は断固拒否する。
もしそんなことが実現されれば任務を手伝わされるわ勝呂といる時間をとられるわで廉造にとって不利益しかない。学校の試験のためのものなんてきっとレベルの低い悪魔を狩るだけのものだし、どうもせずとも合格できるだろうと簡単に考えていた廉造は慌てて止めるように勝呂に言うが、勝呂は早速柔造と金造に予定を聞いている。

「柔造のこの任務、どうやろか」
「それなら一人足手まといがついてもどうにかできます」
「任務期間は3日間か…。志摩、任務のためやったら学校休んでええで」

ずる休みはあかんけどこれは学ぶことあるしずるちゃうで、と別段安心させて貰いたくない箇所をフォローされて廉造は半泣き状態だ。廉造も勝呂も大学があるということで長期任務は貰わない。そのため日帰り、長くても一泊二日の任務だ。なのに兄の任務にわざわざついて行って仕事を手伝って(きっと仕事を見てどうやったやらなんやらと任務後も面倒な事を言われるのだろうと廉造は踏んでいる)3日間主の勝呂と離れ離れ。まだまだ半魔獣としても祓魔師としても自覚の足りていない廉造からすればそれはタダの嫌がらせだ。

「嫌や、絶対に行かん!行くなら坊もついてきてください!」
「ちょうど真ん中の日は俺自身の日帰り任務あるから行きたくても無理や」
「なんやお前一緒に任務出来ん言うんか。せっかく柔兄がやらしてくれる言うねんから行っとけ」
「せやかてそんなん……」

どうにか逃げ道を探そうとする廉造に柔造は言う。

「ほんなら優しい兄ちゃんからお前に選択権やるわ」
「え、なになに!?」
「その1、俺と3日間必死の任務。その2、いつも通り生活して試験を受ける…ただし不合格になった場合その場で実家暮らしが確定。ほらどっちや?」
「坊!柔兄が苛める!!」

苛めるもクソもあるか!と柔造は吐き捨てる。勝呂に抱き着こうと思えばすでに金造の手が回っていてそれも叶わない。

「まぁ、柔造が正しいわ。きばって来い」
「ぼぉおおんんん………」
「頑張って帰ってきたら一緒に散歩行こ、な?」
「あ、また坊廉造ばっかり贔屓しとる」

これは贔屓ちゃうやろ、いいえ贔屓ですぅ、えー、代わりに廉造と柔兄おらん間俺休みなんでいっぱい遊んでくださいね、なんて会話する勝呂と金造が輝いて見えてしまう。

(あかん…ほんまに、ほんまに坊渇望症かなんかの病気で倒れてしまいそうや…)

実家に帰るという可能性を限りなくゼロにしたい廉造は結局3日間の柔造との任務を承諾した。よう決断したな、と頭を撫でられて少し浮上した気持ちもすぐに上の兄、金造が勝呂と二人きりの時にあそこ行きましょうやここ行きましょうという計画を立てていて打ち砕かれる。

(終わったらめっちゃ甘やかせてもらうねん、俺絶対甘えんねん!!!)







3日間しっかりしごかれ、実技テストもちゃんと受かりました。


<了>


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