長編 | ナノ


わんわんわん!【志摩兄弟+坊】


「ほな先生も奥村もまた明日」
「明日僕たちは公欠ですよ。任務旅行してきます」
「はは、お疲れさんやな。なら宿題メールしますよって」
「ありがとうございます。では。兄さん、行くよ」
「おう、じゃーなー」

授業が終了してから半魔獣の授業を受けていた廉造と燐はすぐに魔育を学んでいる自分の主のもとへと走った。辺りが暗くなってきてすでに街灯がついている。今日の授業はこれまでであるためすぐに帰路へと向かった。

「坊〜ちょっと遠回りして帰りましょう〜」
「なんでやねん。もう柔造と金造帰ってきてんねんで?はよ帰らないかんのに」

(それが嫌やっちゅーねん!)

「せ、せやけど…」
「任務帰ってすぐやのに飯の準備までしてくれてるて、申し訳ないわ」

どうせ坊への点数稼ぎだろう、と歪んだ感想しか考えられない廉造はため息をつくしかなかった。
志摩家は順位社会。自分より順位の高い柔造や金造になにかを言われても反撃する余地もない。無駄に吠えると「自分が弱いんが分からんようやなぁ」とその場で力ずくで自分が最下位だということを思い知らされるのだ。

「坊がいじめる」
「はぁ?なんでや」
「俺が嫌な理由くらいわかりますやろ!自分の主とられてわーいて喜ぶ魔獣がどこにおりますの!」
「やって言うても柔造と金造の主も俺やもん、今のところ」

しゃーないやん、と泣き言をすっぱり一刀両断される。足が重くゆっくり帰ったつもりなのに近いがためにあっという間にマンションへと着いた。勝呂たちの部屋はすでに灯りがついている。

「ただいまー」
「柔兄っ坊帰ってきたで!」

お久しぶりですーっと金造は坊に抱き着き、自分のにおいを移す様にすりすりと頬を擦り付けた。自分の主に久しぶりに会ったということで興奮したのか、イヌのような耳と尻尾が生えていた。

「興奮しすぎや、耳と尻尾出てんで」
「家の中やし構いません。ご飯できてますえ」

リビングに行くと柔造が最後の皿をテーブルに置いたところだった。

「坊!おかえりなさい」
「ただいま。任務後やのに飯作らせてすまんな」
「いいえ、勝手にしたんです、気にせんでください」

金造よりか大人しい柔造であるが、勝呂を見たときに耳と尻尾が出てきてしまっている。それとは正反対に耳も尻尾も出ない廉造は勝呂の後ろで喋ろうともしない。
丸いテーブルにたくさん盛られた料理はどれも美味しそうで食欲がわく。すぐに飯にしょうか、と勝呂は手を洗いに洗面所へと向かった。

「おい、俺らが留守中なんもなかったやろな」
「なんもあらへんわ」

ツンとしてそういうと生意気やなこいつ、と金造にプロレス技をかけられる。周りからは恥ずかしがり屋の金造が廉造に構いたいからちょっと手荒な真似してんねんで、と言われるが本人からすれば迷惑以外の何物でもない。

「廉造もそろそろ一人前にならんとあかんで。金造も授業受けて半年くらいで一人任務してんから」

このような話は勝呂がいる時には滅多にしない。半魔獣同士の話、というものだろうか。
勝呂が聞いていたらゆっくりでええからしっかり学べ、というだろう。だが志摩家からすればそれでは困る。勝呂に危険な任務が回ってきたとしても十分半魔獣として守れるようになっていかなければならない。そのために主である勝呂の元を離れて主より多くの危険な任務について、どんな任務でも冷静に対処できるようにならなければ。

「……そんなこと言うて、ほんまは坊の傍におれる俺が羨ましいだけやろ!」
「当たり前やろが!なんっで俺が他人の命守って坊の命守れへんねん!意味わからんやろ!」
「金造、すぐ本音いうな!」
「なんややっぱり2人帰ってくると賑やかやなぁ」

久しぶりの4人に機嫌が良い勝呂が丸テーブルの定位置の場所に座ると、すぐさまその脇を固めるように柔造と金造が隣に座った。

「あー!俺坊の隣がええ!!」
「あほ言いな。手ぇも洗ってないやつがなに言いよんねん。なぁ坊」
「ほんまや、はよ手ぇ洗ってきぃ」

ばたばたと手を洗ってきてじゃあ隣行かせてくれとせがむともうご飯食べよんのになに今更席替えすんねんと突っぱねられ、結局仲良く今回の任務について話し合っている3人を眺めるようにご飯を食べる廉造であった。



(やから帰ってくんのいややねん!あほ!)



<了>

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