長編 | ナノ


わんわんわん!【廉造+燐】


「あーめんどいなぁ」
「なにが?」
「授業や授業。面倒と思わんの?ずーっと主を守れだの主が変わったらすぐに順応しろだのもうええっちゅーねん」
「あー、まー確かに」

授業が始まる間、持ってきたカバンを枕にしてはぁと息をつく廉造。その隣には尻尾をふりふりしている燐が座っている。
廉造は今日からのことを考えて暗くなっていた。今日は授業をさぼりたいという気持ちが一層強かったのもその考えるだけで憂鬱になる出来事が待っているからである。兄たちが戻ってくる。それは廉造を奈落の底へと突き落すのには十分な出来事だ。
廉造の兄の柔造と金造。二人はともに祓魔師として活躍しており、騎士・詠唱騎士としてでも、半魔獣としてでも立派に任務を遂行していた。半魔獣としての称号も持っているため、重宝され各地に出張に行かされている。そう、現在も一週間の出張中であり、今日ようやく帰ってくるのだ。否、廉造的に言えば帰ってきてしまうのだ。

「はぁー今日ほんまに帰りたないいいいい」
「なんで?」
「兄貴が2人も帰ってくんねん」
「へーそりゃあ良かったじゃねえか!」
「よぉないわ!もおお俺と坊だけの平和な時間が邪魔されるううう。奥村くんはええわ、先生には自分だけやもんなっ」

俺の気持ちなんて分からへんわ!と廉造はその場で拗ねてしまった。燐はただ八つ当たりを喰らっただけであったが、もし主である雪男に自分以外の半魔獣がいたらいやだなぁと想像はできる。毎日一緒にいて自分のことに必死になってくれて(大概頭が痛いよといわれるが)、料理をすると美味しいと言ってくれて。弟として主としても良くできたやつだと思う。ただでさえ雪男は任務で忙しいし、最近は自分も少しは役に立つと思ってくれたのか単体での任務がある。高校時代と同じように一緒の家に住んではいるが、共有する時間は大分と減ったと思う。さらにそれを半分別の半魔獣にくれてやるなんてことは嫌だ、と思った。

「そのにーちゃんたちはいつまでいるんだよ」
「任務があればそっちすぐに行きよるけど…最近働き詰めやったさかい3日はゆっくりしとるやろうな」
「3日…は、辛いな」
「やろ?しかも俺らんとこ順位がはっきり決まっとるから」

廉造は狼タイプの悪魔との半魔獣だ。序列がはっきり決まっており強いものが偉い。自分は金造に従い、金造は柔造に従う。柔造が従うべき八百造はこの場にいないため、現在最も偉いのは柔造である。柔造の言うことは絶対で守らなければならない。勿論、八百造も柔造も勝呂家(主)が絶対であるが志摩家の序列は生まれた順に決まっている。今までなら勝呂と廉造の実質二人暮らしであるため、多少のわがままは許されていたし、甘えさせてくれていた。それが廉造はすごく心地が良くてたまらなかった。だがしかし今日家に帰ってからはその心地の良いものはすべて兄に奪われてしまうのだ。そんなもの、悲しくて切なくてどうしようもなく家に帰りたくなくなるではないか。一分一秒でも一緒にいて自分を甘やかせてくれればいいのに、勝呂はいつも通りそっけなく自分の教室に向かってしまった。

(白状もんや…坊のあほぉ)
「順位が決まってたらどんなことになるわけ?検討つかねぇ」
「そんなん雑用全部せなあかんし坊の隣におるだけでイチャモンつけられるし坊が一緒に勉強してくれんくなるし坊と二人きりの時間なくなるし坊とお散歩行けんくなるし坊が柔兄金兄に優しゅうしてんの見なあかんし坊が……」

そこからもまだぶつぶつと言っていたが、燐は途中から聞く耳をふさいだ。要約すると勝呂が構ってくれなくなるのが嫌なのだ、廉造は。
半魔獣として一番うれしいのは自分に愛情を注いでくれることだ。兄たちが帰ってくるたびに一人であったときの幸せを思い出し、次からの絶望に嘆く日々だ。

「あ、今日テストだった」
「そんなもん…そんなもん悪い点数とったんねん!!!」

まるで子供だ、と燐は思ったけれどそれは廉造のために黙っておいてやることにした。



<了>

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