長編 | ナノ


べったりスタイル


「坊ー、スケジュール書き込み忘れてますよー」
「ほんまや、すまん」

ぱたんと音が聞こえる程分厚い本を読んでいた勝呂は自分の手帳を持ってカレンダーの前まで来た。金造は自分が持っていたマジックを渡して、勝呂が書き込んでいくスケジュールを後ろから抱き着いた形で自分のものと照らし合わせる。
リビングに行く途中の左柱にかけられている大き目のカレンダー。左一列に日付が書かれていて、右手には金造と勝呂が予定を書き込めるように二列の空列があるものを選んで2人で決めて購入した。金造の列はすでに一か月の予定が書き込まれており、文字が所狭しと並んでいる。予定が入ればこのカレンダーに書き込んでいくというのは、共同生活をしていく上で互いの予定が分からないといろいろと困ると言って勝呂が考えた2人ルールだ。

「なんや…今回出張多くないですか?」
「おう、出張ばっかやで」
「そんなん!そんなん酷い!」
「出張ある分オフも多いで。……ほれ、金造と5日もオフ重なっとる」
「ほんまや!…今月酷かったですもんねぇ」

今月は丸一日一緒に過ごせるオフが3日しかなかった。本当はもう一日あったのだが、勝呂の仕事が長引いておじゃんになった。
金造は京都出張所の方で勤務しており、急な襲撃や結界の綻びがなければ大体は定時に帰れる。しかし勝呂の方は京都出張所希望だが現在はヴァチカン本部勤務となっており、大きな仕事が毎日のように舞い込んでくる。勝呂(と通っていた祓魔塾の仲間たち)は周りが驚くほどの力をつけてすでに中堅クラスにいる者もいる。勝呂もその一人だ。上と下に挟まれて四苦八苦しながら仕事をしている。そのため仕事に忙殺されて家に帰れないだなんてこともあるのだ。

「やけど少ないのには変わりないですぅ」
「そんなん言うな。俺がオフの日は飯作って待っとくから。な?」

うーん…と言いながら金造は勝呂の肩に顔をうずめて考える。
正直、今月の勝呂とオフの重なっていないスケジュールは自分に酷だった。来月もたった5日しか丸々一日いれない。しかも勝呂の任務によってはこれから減る可能性も大だ。しかし、よくよく見れば、勝呂は出張こそ多いがオフも多い。となるとそのオフの時に毎日は無理だとしてもその半分は自分のためにご飯を作って待っていてくれるということだ。そして夜ゆっくりとこの家で2人で寛げる。

「……坊、俺めっちゃ幸せです」
「ほぅか、なら良かった」
「絶対ご飯作って待っててくださいね、嘘ついたらあきまへんえ?」
「そんなウソつかんわ。まぁ俺は……」

そこまで言いかけて勝呂はぴたりと止め、考えてからやっぱり何でもないと言葉を濁した。金造がなんです?と問いかけてもなんでもないと言われる。

「なんですか、そこで止めんでくださいよ」
「いや、なんもない、忘れろ」
「嫌です、めっちゃ気になる!」
「ほんまになんでもない!なんでもないから忘れろ!!」

顔を赤くしてソファに行くが、金造も勿論追ってソファまで行く。そして顔を赤らめた勝呂の上に乗って逃げ場をなくしてからもう一度問いかける。

「言うまでこのままですえ?」
「くそ、」
「坊の言うことは何でも聞きたいんです。なに言おうとしたんです?まぁ俺は、の続き」
「ほんま大した事ちゃうで?」
「はい」
「最悪、一緒に飯食えんかったり休みの日に会えんくてもまぁええかなて」
「……坊、俺めっちゃ泣きそう。俺が…いつも嘆いてんのに、こんだけしか会えんくて嘆いてるのに!坊は会えんでええんですか!あほ!俺は使い捨てですか!」
「ちゃう!なにが使い捨てや!やから!……その、同じ家におるから…深夜でも帰ってきたら寝顔くらい…見れるやん」

一人暮らししとったときは、そんなこともできんかったやろ。
勝呂と金造は2人で暮らす前は互いに一人暮らしをしていた。互いに仕事から帰ってきて時間があれば連絡をとって会いに行くのだが、なかなかお互いの予定が噛みあわずに会う事さえ難しいときが何度もあった。その過去を思うと勝呂は寝顔だけでも、その金造の息遣いだけでも聞けたらそれで良いと思ったのだ。

「坊…俺、幸せすぎて泣きそうううう」
「結局泣くんか!」
「使い捨てちゃうって言ってくれた事と、俺の顔見たいって思てくれてることのダブルパンチの幸せで…あかん、往生する」
「すんなら退け」

俺は恥ずかしーて顔から火ぃ吹きそうやわ、という勝呂に金造はとろとろにとろけた笑顔で顔にキスをふらせる。金造は嬉しくなったら自分にキスをする癖のようなものがあると勝呂も分かっているため、口では退けと言うがそのままなすがままにされておく。

「今日、これから一緒に晩飯作りましょうね」
「……ん」
「そんで一緒に食って皿洗いも。風呂も一緒に入って、今日は俺のベッドで寝ましょう」
「…なんや、ずっと一緒やんけ」
「ずっと一緒です。いやです?」
「………そうは言うとらん」

その言葉が勝呂の精一杯だと知る金造は余計にうれしくなってキスをする。今度は唇に。きっと勝呂もそうしたいと思ってくれていると信じて。




べったりスタイル(それが俺のスタイルですわ)



<了>

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