長編 | ナノ


ある晴の日01【しますぐ】


ああやってもた、と廉造は思った。



「坊…ちょっとだけやから、大人しゅうしとって…っ」
「やめ……っろ」

いつもはオールバックにされている髪の毛は、抵抗を繰り返している内におりて額を隠した。勝呂の抵抗する手は押さえつけられ、腰の位置で馬乗りに乗られているため蹴り上げることもできない。自分の首に生暖かい感触がして声を漏らしてしまうが、その声の弱さたるや。自分の声ではないようなそんな声でうっすら涙を浮かべてしまう。

「堪忍、坊、少しだけ…」
「なに、が…少しじゃ!ええ加減に……んむっ」

拒否を言葉にする口は許しを言葉にする口で塞いだ。潜んでいた舌は熱くぬめり、勝呂に馬乗りになっている廉造をさらに興奮させるのには十分だった。その舌を堪能しつつ、片手で勝呂の着ていたシャツを捲り上げた。胸の突起を手探りで見つけ、そこを捏ねくりまわす。すると徐々にピンとなるそこに廉造はより深い笑みを浮かべた。

「坊……感じてはるん?ここピンってなった」
「あほぉっ……」

自分と廉造の唇が唾液の糸で繋がった。どうしてこんなことになってしまったのか、勝呂は混乱した頭で考える。けれどこうなった理由は全くわからなかった。



一時間ほど前のことである。ちょうど勝呂と廉造が任務を終えて部屋に戻った。一人での任務だった子猫丸は任務が長引いてしまい、どうしても今日中に帰れないので泊まりになってしまうという連絡が来ていた。つまり勝呂も廉造も今日はこの部屋に二人きりだということはわかっていた。二人きりというのはこの生活が始まって以来初めてで、けれど幼い頃からずっと一緒にいたため緊張なんて言葉とは無縁だった……少なくとも勝呂は。廉造はその連絡を受けてまず子猫丸を恨んだ。なぜそうなってしまったのだと、勘弁してくれと。天変地異でもなんでも起きて素早く子猫丸をここに呼び寄せてほしかった。
廉造は自分が勝呂のことを恋愛対象として見ていることに自覚があった。高校では毎日一緒にいれるし同じ部屋で過ごせるということで幸せだった。それは子猫丸もいるし三人で仲良くできるから幸せだったのだ。けれど、二人きりになるだなんて聞いてない。この生活をして勝呂に触れたいと何度も思っては消し思っては消しを繰り返していた廉造にとって二人きりの時間というのは正直生殺しである。
さらに勝呂は偏頭痛で体調が悪く、睡眠作用のある薬を服用したためか夢うつつ状態だった。ご飯を済ませ、風呂に入り、いつものように勉強をしていたが、まったくはかどっていなかったため、廉造が見かねてもう休みましょうと言って肩を貸してベッドまで連れて行った。
その時だ。ベッドに寝かせようとしたのだが、勝呂の腕が廉造の首にひっかかったままで、勝呂の上に被さるように廉造も倒れてしまったのだ。濃い勝呂のにおいに、その温かみに、頭痛と自分の重さに顔を少し歪ませるそれに廉造は我慢がきかなくなってしまい冒頭に至る。



「坊、顔まっか」
「あ、当たり前やろ……っなんなん、冗談は…」
「冗談ちゃいます。俺本気です」

さらりと言われた爆弾発言に勝呂はあいた口が塞がらなかった。
冗談でなく本気?それこそ冗談にしてくれ、と心底願った。男の自分をこうやって押し倒してキスをして愛撫するような手つきで触って、それが本気だなんて。ガンガンとまだ治らない頭痛も手伝って勝呂はくらくらとしてくる。このまま意識を失いたいとすら思うが、失えば失ったでなにをされるか分からないとまたそれが心配だ。

「志摩……落ち着け」
「はぁ」
「本気ってなんやねん……」
「本気ってそりゃ……坊のこと好きってことですやん。本気で坊のこと好きで好きでたまらん」
「お前女好きやろが!」
「女の子も好きですけど!坊も好きです」

ほら俺の本気伝わりません?と廉造は自分の手を勝呂に握らせた。そこはじわりと汗が滲んでいて、少し震えていた。もう片方の手は胸に。ドキドキと早鐘を打つそれは緊張をまるで隠さずにいる。にやにやと笑っていると思っていた廉造の顔も、よく見れば切羽詰まったような顔で苦笑いが良いところだろう。さっきまでは抵抗していてそんなところまで見れなかった。

「……」
「こ、こんなんする気ぃなかったんですえ?やけど、その…事故やけど坊の上乗っかったらなんかぷっちんしてもて」
「……」
「あの、俺ほんまに坊のこと好きなんです」
「……………あかん、頭追いつかん」

少し待て、と言うがいつまで待たれても頭の中を整理できるとは思えない。いきなりすぎて勝呂は何から考えていいのやら迷った。こいつは一体いつからこんな風になってしまっていたのだ。廉造が自分のことを好きだということは完全にではないが少しは信じれた。いつもへらへらしている廉造が汗を滲ませ手を震わせているのだ、これで演技なら相当な演技力だ。高校生活に入ってもこいつはいつもと同じように振る舞っていたし、さして変なところはなかった。こんな好意を持っているなんて思わなかった。こういうのには敏感なはずなのに、と勝呂はため息を落とした。廉造も子猫丸も勝呂に近すぎた。近すぎて分からなかったのだ。

「坊」
「お前、まず一回退け」
「………嫌です」
「はぁ?」
「っちゅうか、無理……やなぁって」

廉造は持っていた勝呂の手を自分の下半身にやった。そこはなにもしていないのにすでにズボンの上からでも見えるほど高ぶっていて、触れば瞬間に理解できる。男であればそれをどうしたいかなんてすぐにわかる。

「な、な………なんってもん触らせるんじゃ!」
「なんてもんて失礼な!坊ほんまお願い、続きさせてください」
「つつつ、続きて」
「どもり過ぎてすえ」

こういうこと、させてほしいんです。
先ほどまで手で弄っていたつんと尖ったピンク色の突起に顔を近づけ、そのまま舐めた。ころころと舌で転がすようにしていたと思えば、ちゅっと吸い付いてくる。

「や……やめぇ!なにしてんねん!!」
「ん……、ん」

ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて、吸い付いて目を合わせるとこれ以上にない程羞恥に染まった顔が見れる。見たことのない勝呂の顔に廉造は心弾み、さらにもっとというようにもう片方も手で触る。爪で弾くように、押し潰すように、いろいろな触り方をした。口の中でも吸い付いたり、舐めたり、ほんの少し噛みついたり。何度も形を変えて勝呂に快感を与える。

「ちょ、……ほんま、ぁかん……っ」
「うわぁ、坊も感じてはる……」
「ん、ぁっ!」

自分の重い腰を持ち上げ、手をそろそろと勝呂の下半身に伸ばす。すると自分ほどではないが興奮していることがわかるほど形になっていた。ズボンの上からしっかりと形を知ろうとするように触られ、腰が震えた。
頭が痛くてガンガンするし、胸の疼きが下半身に直結して頭の中もからだもぐちゃぐちゃだ。ずずっと鼻をすすり、抵抗しようと力を込めると廉造も手の力を込めるため結局無力となってしまう。

「……っ」
「坊、ぬきっこだけですからやりましょ」
「ぬ、脱がすなや!」
「坊寝てるだけでええんで。全部俺がやるんで少しだけ、少しだけ、ね?」

いつの間にか流れていた涙を拭ってまるで子供をあやすようにして頬を撫でられた。その手の温かさに若干の安心を抱いたと同時に下部の布をすべてはぎ取られてひやりとした空気に触れた。

「うぉっ」
「まず坊の育てましょ」

いつの間にか廉造は勝呂の足の間に位置していた。勝呂はとりあえずこいつを一発殴るという物騒なことを考えながら上半身を起こしたのだが、廉造の罪悪を感じていながらもなんとも言えない幸せそうな照れ臭そうな…そんな顔を見ると殴るなんて出来なかった。目が合うと、大丈夫です、と優しく囁いてくる。ふるりと首を振ると大丈夫、大丈夫と背中を撫でた。
嫌なら殴れば良いじゃあないか。男の、しかも信頼していた友人に組み敷かれてこんな淫らな行為を強要されたのだ。本気で殴って蹴って逃げるなんて訳はないことだ。なのに勝呂は殴れなかった。


「ぅああ……」
「カウパー出てきた……坊かいらし」

あかん、ほんまにかいらしぃてあかん。
自分のものと勝呂のものをくっつけてそのまま二つをぐちゅぐちゅとまるで一つにするようにしごいていく。勝呂は初めてのその刺激に戸惑いを隠せず、対面している廉造の肩に手を置いて拳を握ることしか出来なかった。

「あかん……っ、ぁ、あ」
「あかんばっかり言うて…っ気持ちよさそうですえ?」

鼻先ですりっと勝呂の頬を撫でてそのままキスをする。歯の先へ舌の先へもっともっと勝呂のことが知りたくて廉造は食べるようにしてその咥内を貪った。呑み込めなかった唾液が口の端から漏れるのも厭わずただただ味わう。
そして廉造の手が早まり、互いに思い切りその手に精を放った。

「…っ、…ぁ……は、……」

(一人でするより何百倍も気持ちかった…坊のしごいた、触った)

廉造はうっとりとその手についた精液を見た。そして考えた。

(…っていうか、俺めっちゃ大変なことしてもたんちゃう?)

「あ、あの…坊」
「……と………がええ?」
「は?」
「グーとパーどっちがええ?」

その顔はまだ真っ赤で、息も荒いが見たこともない殺気立った雰囲気を醸し出している。ちょっと待ってくださいなんて言えるような空気は一切ない。逃げ道もくれないこと言葉に、廉造はとりあえず一言言った。

「で………できればパーで」

首が曲がるんじゃないだろうかというほどのビンタを喰らい、ベッドからも落ちてしまった。廉造はパーでと言ったはずなのに耳に届いたのはパンという乾いた音でもなんでもなくゴッと鈍い音だ。そんな痛さにもめげず急いで許しを請おうとしたが、すでに勝呂は背中を向けて寝ていて「喋りかけんな」と一言言われたものだからどうすることもできなかった。


ある曇った夜空の日。



続→

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