長編 | ナノ


とても静かな狂想曲【しますぐ・02】


*勝呂さん出番なし/しますぐ/反社会的以下略推奨してませんご注意ください。


皆は「明陀の中でお前が一番キレると怖い」という。
殺傷能力だけで考えると多分俺が一番なんやろうなぁと自分でも思う。でもそれを強みとして思ったことは一度もない。自分で言うのもなんやけど、俺は頭が悪い。作戦を覚えるのにも一苦労やし、短気ですぐにぷっつんしてまうからそこは正直殺し屋には向いてないなぁとも思う。せやけど、何もない場所でタイマンで戦えと言われればきっと俺は有利に働けると思う。けれど現実世界のお話はそういうわけにはいかん。現実世界はセコイこと考えてトラップ考えて相手に合うた武器を持って。フェイントをかけてかけての騙し合いも兼ねとる。

「廉造」
「んー?」
「…坊、悲しんどったで」
「あぁ。そらそうやろうなぁ」

知り合い殺されるのにええ加減慣れなあかんよな。苦笑いでそう言うた。

ブザーが鳴り、廉造は前を見て銃口を向けた。人間型の標的に二点連射で撃ち込んだ。ダダッダダッダダッダダッ。リズミカルに音は弾む。高速で動く的の急所を的確に狙えとる。ジャコンッ。弾倉を取り替える。そこはあかん、まだ遅いな。俺ならその隙にお前の頭に二発入れれとる。今度はセミオート。ダンッダンッダンッ。またブザーが鳴ると終了。

「まぁまぁやな」
「本気ちゃうし。重り付き」
「何キロ」
「両手で4キロ。最近重くしたから加減が全然分からんねん」
「足は?」
「つけとる」

新聞の見出し。『○○区アパート火災女性1人死亡』
ニュースでも新聞でも見る。昨夜あるアパートが燃えてそこに住んどった女が死亡。出火もその女の部屋で、精神安定剤や睡眠薬を服用しとって寝ている間に消し忘れた鍋が燃えたんちゃうかとされとる。

その女って言うのは俺らっていうか坊からしたら縁のある人やった。
坊が14歳の時、女遊びも覚えなあかん言うて相手になった人や。俺もよう覚えとる。坊に遊んで貰えるなんて羨ましすぎて羨ましすぎて血の涙が出るかと思たくらいやったもん。それから2、3回会うてそれっきりやったはずやったけど、まさかこういう形で名前を見るとは思わへんかった。

「火事やて」
「…ああ昨日の?なんや金兄食いついてんねやね」
「坊の童貞食った女の事くらい覚えとるわ」
「へぇ」
「あとお前が俺の前に彼女に会ったの知っとったからな」

廉造は今度は動かない標的を打つ。これもセミオート。ダンッダンッ。少しずれた。少し後ろにいる俺の方は見とらん。けど、そのずれた軌道がすべてを物語っとる。

「よう知っとるやん」
「偶然聞いたんや」
「あ、あの店の子らやろ?あかんわーお喋りな子がおるねんな」

もうあの店通うのやめたろ、とまた笑った。
女はあるクラブでNo.1を張ってた。まぁ坊の相手したときは「この子は絶対化けるから」と言われていたペーペーだったけど。最初は別の人が当てがわれていたはずなのに、坊は名も知られていない彼女を指名した。それが余計に嫉妬する原因だった気がする。
俺は一人で寝るのも寂しいから結構夜は遊びに出かけとることが多い。クラブや風俗遊びで夜を潰そうとふらふらしていたら気づかん内に彼女がおる店に入っとった。それはそれは華々しいNo.1という地位を得て。そこで廉造が一度だけ来ていることを知った。

「兄ちゃん聞いてへんなぁ、あん人と会ってたなんて」
「言う必要もないやん」
「坊に言うたろか」
「は?」

廉造はようやく俺の方を見た。「そんなん言うたら坊、余計気にするやんか」明るい口調でそういうけど、表情が作れてへんで、お前。俺がお前の兄ちゃんちゃうかったらここでその銃口こっちに向けてんのちゃうか。

「ちゃんと証拠消してきたんやろな」
「……」
「もしここで言うんやったら鳥頭な俺はここ出たら忘れるわ。やけど言わんのやったらずっと気になるやろなぁ」
「………証拠消したし、盛った薬もちゃんとあの女がずっと飲んどって医者から処方されたやつや。それ以外の人間は殺してへん」

吐いた。こいつマジでやりよったんか。正直ダメ元で聞いてみただけやった。最近こいつ夜遊びしとんなぁって思っとった。そんで昨日の夜も遊びに出かけてたみたいやし、廉造が会っとるって噂も知っとったからカマかけてみた。うちの組織は余計な殺しはせん。余計なことをすると余計な恨みを買うから。やのにこいつ…。

「お前、なに考えてんねん!」
「なにて、そんなんあの女が坊の相手した時から変わってへんかったわ。やってずっこいやろ?ずーっと傍におった俺らやないやつが坊に触れてんで?ありえへん。これで蝮姉さんとかやったら仕方ないって思えたんかも知れんけど。金兄も嫌がっとったやん。坊の初めてとるやなんてって」
「せやけど」
「これでもう余計な殺しせんから安心したって。ま、俺からしたらこれも余計な殺しやないけど」

ほな先に上がるわ、と廉造はそのまま射撃訓練場から出て行った。余計な殺しはしない、というのを掲げているが、絶対的な守りではない。なににでも犠牲は付き物だし、そんなことを絶対的なものにしたら俺含め何人ものやつが罰を受けなければならない。やから俺は言う義務もないし、さっき約束したためもう忘れなければならない。

皆は「明陀の中でお前が一番キレると怖い」という。
それは俺が一番キレる頻度が高いからやと思う。組織の悪口聞いただけですぐにぷっつんしてまうし、挑発にも簡単に乗る。柔兄は大人やから手を出して良い場所やないとキレん。廉造はなにを言われてもキレん…そう思ってたけど。

(一番大人しいやつが、一番怖い)

自分の弟に、寒気がする。廉造は5年越しの嫉妬をぶちまけた。ただそれだけ。



(坊、そんな凹まんでください)
(志摩)
(坊には俺らがいますよって)
(……お前らは死ぬなよ)
(もちろんです。ずっとずっとお側におりますえ)



<了>

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