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小話04


【独身おっさん志摩×既婚おっさん勝呂のなんちゃってシリアス】


あの方は子供をつくらなあかんのは十分わかってる。せやから結婚するのも止めへんかったし、子供をつくるんやって寧ろ賛成する。それが座主としての使命やねんから、受け継いでいかなあかん血やねんから、仕方がない。坊の血を持った子供とか見てみたい気もする。

「子ぉ、つくらなあかんて言われた」
「へぇ……ならはよ子供こさえてくださいね」
「っ」

結婚してなお、俺との関係を続けているこの人は一体どういう気持ちなんか俺には分からん。笑顔で「ご結婚おめでとうございます」と言って嫁に笑顔を向けた俺の気持ちも分かってないやろうから御相子や。
やけど今確実に傷ついているというのは長年の勘で分かる。分かる。俺が一番傍におってこの人のすべてを見続けとってんから。誰よりもなによりもこの御人の事は俺が一番よくわかっている。

「子供こさえたらもうあの女に全部任せたらええですやろ?子供に情とか湧かせんといてくださいね。あんたはとっとと子供つくってはよ俺んとこに戻ってこればええんです。ね?俺はあの女に坊を貸すだけや、やったつもりなんてさらっさらあらへん」
「志摩」
「そうでしょう?ちゃいます?坊は俺のもんちゃいますの?」
「……」
「ちゃうかったらすぐに言うてください。俺は明陀を離れますから」
「……っなんで、いつもいつもそんな事言うんや」

その顔でその言葉を吐くんか。ダン、と壁を殴りつけると俯いていた坊がびくりと震えて俺の顔を見た。きっと今俺は酷い顔しとるけどまあええわ。この人はなんもわかってへん。俺がどんな思いであんたを好きになって、今どんな気持ちでおるかどうか。

「こっちが逆に聞きたいわ。なんなん?なんでいっつもこんなこと俺に言わすん?こんな…むごいこと!俺には坊しかおらんの、あんたが一番よう分かっとるやろ?俺やって捨てられたなくて必死やっちゅーねん。やから結婚も理解あるフリしたわ。子供なんて俺と坊の間には絶対できへんねんからこれも我慢するしかないやろ。そうやって自分の中で押し込めてんのに、なんで坊が傷ついた顔してんねん」

本心をつらつら述べてやれば、坊はまた傷ついた顔をする。ああもうこういうところは腹が立つ。被害者は自分か。もう十代やないんや、傷は当の昔にいっぱい作ったやろ。昔に、こうするて決めた時までに抉ったような傷も擦り傷もなんでも一緒に負ってきたやろ。俺は自分を被害者やとは思ったことはない。この恋愛についてもできるだけ後悔せんようにしてる。
やけど、いろんなもん背負ってる坊はいろんなもんを捨てられへんで平等に愛そうとするから面倒なことになる。俺みたいに坊だけを見て生きているのとはちゃう。寺とか、門徒とか、嫁とか、子とか……いろいろ。全てに愛を注ごうと必死になって一番を作れんでずるずるずるずる。そのいろいろが俺の地位を下げて嫁とかと同列にしていく。虫唾が走る。生まれた時から隣におる俺がポッと出の嫁と同じ扱いか。ふざけんのもいい加減にしてほしい。

「、すまん」

手に触れられる。
学生の頃はあまりなかったマメが潰れた痕、これも全部あんたを守るために作った。俺の人生、全部全部あんたのためにあってんで。あんたのために生きてきた。これからもあんたのためにこの人生を捧げる。捧げてみせる。別れられたら、俺の存在意義なんてこれっぽっちも明陀に見出せん。

「……」
「散歩、付き合わんか?」
「…、お供します」

こうやって、近所をぐるりと散歩するだけでもええと思えるまで丸まったことを褒めて欲しい。
夜に嫁とおることに苛々しとるけど我慢しとるのを褒めてほしい。
子供をつくるなんざクソくらえなんて言わん俺を褒めて欲しい。
ああ、もう。


切り離せん自分があほみたい。


<了>

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