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【志摩兄弟+伽樓羅】


志摩家の柔造、金造、廉造は面白くなさそうに勝呂の上に乗っている鳥を見る。その鳥は目の前のテレビでやっていることを逐一勝呂に問いただしている。勝呂も嫌な顔せずにそれに答えていく。そんなことをずっとしている一人と一匹を横目でじっとりと見ているのが三人の志摩家だ。

「竜士、ちょお挨拶しにおいで」
「あ、すぐ行くわ」
『ここに残るぞ、良いな?』
「かまへん」

祓魔師として日々頑張っていると言っても普段は旅館の息子だ。贔屓の客やなじみの客等が来たりすると挨拶をさせられる。勝呂にとってそれはごくごく普通のことであるため、身だしなみを整えてすぐに部屋から出て行った。

「……なぁ、なんでいっつも頭の上におるん」
『我に話しかけているのか?』
「当たり前や」
『我がどこにいようが志摩の小僧らに関係ないだろう』

ツンと3人を一瞥してからまたテレビに目を移す。勝呂が説明してくれたバラエティ番組の面白さがまるで分からないが、人が箱の中で喋っているのを見るのは楽しい。しかも視点が一瞬で切り替わる。それは素直にすごいと思うしそれを見たいとテレビにかじりついている。

「あかん柔兄、この鳥調子乗っとる」
「俺も思とってん…なんや坊の頭の上を巣にするなんて許せへん」
「つーか鳥、お前和尚ンときはそんなにいつも外出てへんかったやろ。なんで坊の時は出てんねん」
『達磨の時は我を隠すことが条件だったからな。竜士はそうではない』
「今もわざわざ出んでもええやろ」
『それも我の勝手だ、口を出すな』
「こ、こいつ…!!」

完全に舐められている、と廉造は拳を握る。柔造と金造などもうあと一息で手が出そうだ。それを見て伽樓羅は嘲笑にも似た笑いを浮かべながら自分の身体を人型へと変化させる。

『竜士の寺の者だ、この姿でなら手加減して相手をしてやれるが?』
「ああ!?おいこら鳥ええ加減にせぇよ」

堪忍袋の緒が切れた、と金造が伽樓羅に喧嘩を売った。廉造はよっしゃいってまえ金兄!と応援する(が、自分はその場から動かない)。柔造は伽樓羅に睨みをきかせている。

『不角の一族も変わらぬがお前らも変わらんな』
「ああ?」
『座主のために怒り、憎み、笑い、愛情を注ぐ。まるで変わっていない』
「とーっぜんや」
『頭の悪さと猪突猛進さも変わってないがな』
「この…!」

もう手を出す、というところで勝呂が部屋に帰って来た。それを一斉に見たものだからきょとんとした顔で「どないしたん」と一声あげる他なかった。

「なん、全員立ってんねん。つか伽樓羅が人型にってなんぞあったんか?」
『なにもない。竜士、座れ』

ここで手を上げるとこちらが悪者になってしまう、と金造は大人しく同じ場所に座った。しかし苛々を隠そうとはしない。勝呂が座るとその後ろから伽樓羅が勝呂を抱きしめ、頭の上に自分の顎を置いてまたテレビを見だした。

「なんや伽樓羅戻らんの?」
『この姿でも見れる』
「はは、なんや子供に戻ったみたいやなぁ。昔柔造によぉしてもろ…じゅ、柔造?」

呼ばれた柔造は俯き両拳をギリギリと血が出るんじゃないかというほど握りぶるぶる震えさせている。そしてギッと伽樓羅の方を見て言い放った。

「こン鳥表出ろや!坊を後ろから抱っこは俺の専売特許やってんぞ!!!!」
「え、柔造?」
『ふん、竜士より小さいお前が何を言うか』
「………金造、錫杖貸せ!」
「よし来た!」
「え、ちょっと待てお前ら。なにやって…いやほんまなにやってんねん!」

落ち着けという言葉も志摩家には聞こえなかったらしく、いつも手合せしている場所で伽樓羅対志摩家というどちらも勝呂家を守るために必要な存在が戦っている。否、伽樓羅はひらひらと逃げかわしており志摩家が一方的に攻撃している状態だ。
最初はやめろと何度も声を張り上げたが、少し経つと無駄だと分かりテレビの前に行った。そして少し時間が経ってちらりと覗くが決着がついていないため風呂でも入るかと風呂に入り、予習復習を済ませ、寝る準備までしてようやく一声かけた。

「伽樓羅ぁ、俺もう寝んで」
『我も行こう。また遊んでやるよ、志摩の小僧ども』
「お前らもはよ風呂入って寝ろや」

汗ひとつかかずにいた伽樓羅はいつも通りの小さな赤い鳥の姿に戻って勝呂の頭に乗っかった。すたすたと行ってしまった勝呂を見てからその場に立つこともできなくなっていた3人がようやく声を出す。

「い…一発もまともに入れられんかった……」
「なんなん…ほんまなんなん」
「炎ちょっぴりでも使わしただけ上出来やろ」
「あほか!勝たな意味ないやろ、坊をあんだけ良いようにされて!」
「昔は俺やって坊よりでかかったんや…今も頑張れば頭に顎くらい…!!!」
「柔兄、気ぃしっかり持って!コールタールめっちゃ寄ってきてんで!」



「で、結局お前らは何しとったんや」
『なに、少し遊んだだけよ』
「よう意味わからん」
『ずっとあの一族も見てきたがこうして姿を現すなんてことは一度もなかった。…ふ、楽しいものだな』
勝呂はもう一言言おうとしたが、伽樓羅が本当に楽しそうな口調をしているのでそれを飲んだ。
「あんまり苛めたらんでや、根に持つで」
『それは宝生の方が怖い』
「宝生家?」
『不角の子孫は知らんで良いよ』

これもいまいちよく理解できなかったが、とりあえず頷いておく勝呂だった。



<了>

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