長い一日

企画提出

「遊びに行かないの?」
「えっ?」

朝早い時間ボールを受けとめて、返して、受けとめてを繰り返しているとフェンスの向こうから声をかけられた。
太陽の光を浴びて青く光る髪とトレードマークの赤いメガネ。よく知る人物だった。その人はゆっくりと入り口に手を掛けて中に入ってきた。

「だって今日は練習なしのはずでしょ?」
「あ、そうだったね…」

そう、今日は久々のオフ。なのに体を休めるどころか痛めている始末。これじゃオフの意味がないというわけだ。
その一言に目をそらした。だけども相手は自分の視界に映るように体を潜らせてきた。

「朝からやってたでしょ、練習」
「うっ…」

一体いつから見ていたのだろうか?そう思わせる一言だ。流石にそれには返す言葉が見つからなくて、口籠もった。

「休みなんだからもっとのんびりしようよ!」

そう言ってニコッと笑った彼女の眩しさと言ったら、無邪気に近い。それにうんと頷けなくて、ふと疑問に思った。

「そ、そういう音無さんこそ何処か行かないの?」

そうだ。彼女だってオフなんだから、自分に構うより出かけたいだろう。なのに今は目の前にいる。これを疑問に思わずにいられるだろうか。
案の定疑問にあたふたとし、何故か顔が赤くなっていた…ような気がした。

「わ私はいいの!…はい!」
「…えっ?」
「きっとお腹空いてるだろうなー…って思って作ってきたの」

後ろからずいっと出されたのは、お皿に盛られたおにぎり。おにぎりと彼女の顔を交互に見た。彼女はやっぱり顔が赤くて下を俯いていた。

「わざわざ?練習なしのオフなのに?どうして?」
「あー!そんなのはどうだっていいじゃない!」
「…」

ボッと言わんかぎりの表情で無理矢理一個を渡された。その一個をモグモグと食べはじめた。
ぶっちゃけ言うと朝早かったからあまり食べていなかったから、嬉しかった。

「立向居くん頑張りすぎるから…」

そう呟いた彼女は下を向き指をもじもじさせていた。表情もどことなく悲しんでいるようだった。

「ごめん」

そう言うと彼女はハッと顔を上げて「違うよ謝らなくていいよ!私が勝手にやってることだから…」と手をパタパタ振りながら言った。
悲しそうな顔はなく頬をほんのり赤らめながら。

「…ありがとう、力出た。だから俺なんか放っておいて遊びに行って来なよ」

ふっと笑いが出た。相手に気付かれないような小さな笑いだけど。ニコッと微笑んで相手の顔を見た。すると間を置かずに「いや」と一喝した。

「いやって…」
「私は勝手にやってるの。だから立向居くんの言う事は聞かないの」

頬を膨らませながら言った彼女はどこか子供じみていて可愛かった。更に顔が綻び笑いを溢した。

「何それ」
「だから、私も一緒に練習する」
「へっ…?」

何を言うかと思えば考えもしなかった台詞。予想していなかった…いや考えもしなかったから情けない声が出た。

「遊びに行ったら立向居くん絶対無理するから…」
「無理なんて…」
「また前みたく倒れたら嫌だよ」

前…そう前に一人練習して疲れているのに無理をして倒れたことがあった。でも気付いたらベッドの上で、視界にキャプテンとホッと溜め息を吐き出した音無さんがいた。
あの時はどれだけ怒られただろう。ごめんと軽く言うと彼女に凄い勢いで怒られたのを覚えてる。涙ぐんだ顔で「心配したんだから!」と言われて初めて自分も泣きながら謝ったんだ。
過去に浸っていると彼女は自分の頬をパチンと叩きにこやかに視界に入ってきた。

「さっ!まだ一日は長いよ!やろう?」

そう言った彼女は凄く嬉しそうにボールを取り遠くに走っていった。それを見ながら「うん」と呟き手を振った。

「行っくよー!」

蹴られたボールはゆっくりと自分の手に納まった。
一日はまだ始まったばかりだ。まばゆい太陽を見て今日は暑くなりそうだなと思った。

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