05


「…俺、父さんに従うべきなのかそうじゃないのか分かんないんだ」


夜、お父さんが帰ってからぽつりとヒロトが呟いた言葉。きっと、みんなそう思ってる。自分のことしか頭にないような目で、あんなことを言われたら戸惑うに決まってる。


「従う、従わないをマキ達が決められる訳ないとおもうけどね…」

「…まあ、そうだけどさ」


お父さんが自分のために手段を選ばなくなったのは、実の息子の「吉良ヒロト」が亡くなってかららしい。でも、私たちの前でそんな姿を見せたことは無かった。いつもいつも優しくしてくれていて、あんな風に突拍子もないことを言ったのは初めてだった。


「だが、あの石を使ったとしてもサッカーでなんて征服が出来るわけないんじゃないか?」

「俺も、思ってた」


皆で黙り込んだ。ちら、と晴矢を見ると苦そうな顔してた。

「…晴矢、」

きっと、晴矢は優しいからいろいろ考えてるんだと思う。晴矢をこんなに黙らせちゃうような出来事なんて、今までなかった。これはやっぱり、真剣に考えていかなきゃいけないことなんだ。


だけど、しばらく続いた沈黙を打ち破ったのは晴矢だった。


「…俺ら、人を従えなきゃなんねーんだろ?」

「あっ、え、確かに…」


確かにそうだ。今まで考えてなかったけど、私達はまだ中学生なのに子どもも大人も抑えていかなきゃいけない。それができなきゃ征服なんていえないわけだけど、そんなのできないに決まっているから。


「多分、父さんは人に怪我させるようなことも平気でするんじゃねーかって思う」

「………、」

そうなるのは嫌だった。だから、晴矢がこうやって言ったのにすごく安心した。
「俺は、そういうのは絶対嫌だ」

晴矢ならまた、大丈夫だって言って、お父さんを止めてくれると思ってた。











「でも、父さんに認めてもらいてぇんだよ」



だからこそ晴矢がそんなこと言うなんて思ってなかった。


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