「最近は少し寒くなってきましたね」 いつの間にか夏が過ぎ去って、吹き抜ける風が冷たくなってきた。ついこの間まで「暑いね」なんてチュチュに話しかけていたのに、僕たちをくすぐるそれはすっかり秋のものになってしまって。ぶるり、一つ身震いする。 「そうだなあ、そろそろ半袖じゃきついかな」 「えっ?あ、レッドさんまだ半袖でしたね。そろそろというより、もう十分寒いと思うんですけど…」 「んー、このくらいならまだ平気だよ。ほら」 え、と声が零れる。レッドさんが「ほら」と言ったのと同時に、その大きな手が僕の頬に触れた。じわりじわり、温かくなる。僕はというと、数秒間フリーズした後、案の定ショートした。 「レ、レレレレッドさん…!?」 「ん?どうした?それにしても、イエロー冷たいなー」 「そ、そうですかね…」 とくんとくん、少しずつ心臓が主張を始める。それは速くなることはなく、確実に、ゆっくりと刻まれていく。レッドさんに触れられているところが熱くて、そこから伝染していくように体が火照る。さっき寒くて身震いしたのが嘘みたいだ。 「!イエロー…?」 レッドさんの手に、自分の手を重ねてみた。レッドさんは少しだけ驚いたような顔をする。 「レッドさん、あったかいですね」 「俺は年中温いからな。冬でも手とかあったかいんだぜ?」 「ふふっ、レッドさんらしいです」 重ねた手はそのままで、僕たちは笑い合う。どうかもう少しだけ、このまま。そう思ったからか、無意識に重ねた手に力がこもる。しばらくの間ぎゅっと握り、温もりを抱き締める。それから名残惜しさを感じながら手を離すと、その動作につられるようにレッドさんの手も僕から離れていった。僕の頬にはまだ微かに、レッドさんの温もりが残っている。 「レッドさんは、秋は好きですか?」 「秋?うーんそうだな、別に嫌いではないけど…」 「けど?」 「ちょっと、寂しくなる季節だよな」 分かります、と僕は小さく笑う。 通り過ぎた冷たい風が、まだ秋の色に染まっていない葉っぱを揺らしていく。そんな小さな事でさえも、なんだか寂しく思えてしまった。 「そろそろ帰ろっか」 レッドさんがそう言うと、僕はこくりと頷いた。日も暮れてきたし、ちょっとこの薄着じゃ寒いかも。先ほどと同じように僕はまた身震いをして、そっと頬に触れてみた。もうそこには、レッドさんの体温は感じられない。 「あ、あのっレッドさん!」 「ん、なんだ?」 あれ、僕、何で呼び止めたんだっけ。……あ、そっか。 すっかり冷えてしまった頬にもう一度だけ触れて、言った。 「手、繋いでもいいですか?」 「へっ?いいけど…急にどうした?」 「えへへ、なんだか寂しい気分なんで、レッドさんが恋しくなっちゃいました」 僕がへらりとしていると、レッドさんは少し照れたような素振りをした後、柔らかく笑って言う。 「イエロー、それは反則」 「レッドさんなんていつも反則ばかりじゃないですか」 「え?そんなことないと思うんだけどなあ」 言いながら、レッドさんは僕の手を握ってくれた。指先から伝わる温度がひどく心地いい。愛しさで満たされていたそんなとき、レッドさんがふいに口を開いた。 「やっぱり、イエローといると秋でも全然寂しくないや」 だからずっと側にいてくれよ、なんて。 やっぱり反則ですよ、レッドさん。 愛しい温度差 ――― (20121020) 最近寒くなってきましたね。 |