※学パロ


放課後、高校生だったら友達と遊びに行ったり部活をしたり、…ああ、あとデートね。まあそういったことをして過ごすのが普通だと思う。一般論で言えば、の話だけど。

あたしの放課後はと言えば、所謂一般論≠ノは当てはまらない。
当たり前じゃない、一般論なんかで語られてやる気はないわ。

ちなみに部活には入ってない。
男バスとか、何度かマネージャーに誘われたけど断った。あたしにはあんまりそういうの向いてないもの。

あたしは放課後、毎日教室で過ごしている。1人で。特に何をするわけでもなく。
ただ、自分の席で座ってるだけ。
たまに先生が来る時があるけど、その時は課題をやってるふりをして誤魔化す。そうすれば先生は「頑張れよ」と声をかけて帰っていくだけだから。

ふと、携帯を弄っていた手を止めて時計に目をやる。

(5時45分…、もうすぐかしら)

教室は夕日が差し込んでオレンジに染まっている。この雰囲気、好きな人と2人きりだったら素敵だけれど、やっぱり1人だと寂しいわね。

無意識にため息を零した時、廊下に足音が響いた。それはだんだん近づいてくる。

(…あ、)

自然と背筋が伸びる。心臓がうるさくなる。…もう、ちょっとは静かにしてよ。

足音がピタッと止み、教室のドアが開く。入ってきた人物は確認せずとも分かる。なんてたって、あたしの放課後は、彼と。

「…なんだ、またお前か」
「あら、あたしがいたら悪いの?」
「…別にそうは言ってない」

彼と、グリーンと、少しでも会話を交わすためにあるのよ。

グリーンは生徒会の仕事やら部活やらで学校に遅くまで残っているから、いつもこれくらいの時間になったら教室に荷物を取りにくる。
あたしがこうでもしないと、彼との接点がないわけで。
ちなみにグリーンの「また」という言葉が示している通り、あたし達は毎日この時間に顔を会わしている。勿論、あたしが必死になっているからだけど。

「…前から気になっていたんだが、」

彼から話を振られるとは思っていなくて、思わずドキッとする。
意識してない素振りをするために弄っていた携帯から目を離し、彼と初めて目を合わせた。

「なあに?」
「何で毎日用事もないのにこんな時間まで残ってるんだ。お前、部活も入ってないだろう」
「秘密よ、ひ み つ」
「何だそれは」

あたしが部活に入ってないことを彼が知っていてくれてる。
たったそれだけのことが、嬉しくて嬉しくてたまらない。ああ、あたしって本当に一途だわ。

「そういうあなたこそ、どうしていつも教室に戻ってくるの?」
「…見て分からないか?荷物を取りに来てるんだが」
「それよ、それ。どうして荷物一緒に持って行かないの?そっちの方が早く帰れるのに」
「…お前には関係ない」

あらそう、と言うのと同時に鞄を持って席から立った。ある程度会話をすると帰るのがお約束。

「…帰るのか?」
「ええ」
「お前、これからもずっとこの時間まで残るつもりなのか」
「ええ、そうよ」

何が言いたいんだろうと思い、振り返る。グリーンは相変わらずの冷めた口調で言った。

「日も暮れてるから危ないだろう。用がないなら早く帰ったらどうなんだ」
「……誰のせいだと思ってるのよ」

グリーンには届かないくらいの声量で呟く。ほんとに、あたしの気も知らないでそんなこと言わないでほしいわ。
案の定聞こえなかったらしいグリーンは、眉間にしわをよせていた。

「…悪い、聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「大体、あなたが荷物なんか置かなきゃあたしだってさっさと帰るわよ」
「…何?どういう意味だ」
「分かんないなら別にいい」
「……全く、誰のせいだと思ってるんだ」
「?今何か言った?」
「…別に」
「あっそ。じゃあね」

そう一言言うと、踵を返して教室を出た。結局、今日も何も言えなかった。教室に残された彼をちらっと見やり、小さく吐き捨てる。

「……いい加減、気づきなさいよね、ばか」

その後、彼が残された自分の荷物を見てこう言ったのを、あたしは知らない。

「…いい加減気づけ、ばか」

好きとかまだ言えない

――
(20121020)
お互いに必死な2人