「先ぱーい!なまえ先輩!」

私の名前を大声で叫びながら嵐のごとくやってきたのは、私のことを先輩と慕ってくれるゴールドだ。彼が私の名前に先輩という敬称をつけるのは多分、私がレッドと仲が良いからだろう。いや絶対そうだ。
ちなみにそんなゴールドと出会ったきっかけはレッドだった。私は前からレッドにバトルを教わっていたんだけど、ある日ゴールドがひょっこりやってきて、「今日からオレもレッド先輩に教わるんで。よろしくッス」とか言われたっけな。もっとも、バトルセンスが皆無な私は、すぐにゴールドに先を越されてしまったのだけれども。

「なあに?ゴールド。どうかしたの?」
「今からスゲー大事なこと言うんで聞いて下さい!」
「うん?」
「オレ、なまえ先輩のこと好きッス。大好きッス!」

何の用事かと思えば。目の前にはニカッと笑うゴールドの姿があって、ええと…。

「…それ、前にも聞いたよ?」

そう、この「なまえ先輩好きです」のフレーズは初めてじゃない。ちょうどこの間の修行終わりに聞いたばかりだ。そのときも今みたいに普通すぎて、結局私の中では「レッド先輩好きッス」的な類のものなんだという結論に落ち着いた。実際、ゴールドは私にも懐いてくれているし。だから、しまい込んでいるこの気持ちは言えるわけもなく。

「だって先輩、適当に流したじゃないッスか」
「まあ…そうだねえ。流したね」

そう言えばゴールドはなんスか、それと苦笑いした。ああだめだ、どんな顔をしたらいいのか分からない。こんなこと言われたら、さ。意識せざるを得なくなるじゃない。
なんとか自然に話題を変えなければ、と私が悶々していると、ゴールドがため息と共に言葉を吐いた。

「やっぱり先輩は、レッド先輩のことが好きなんスね」
「…へ?」

なにそれ。どうして今レッドの名前が?
話の方向性を完全に見失ってしまい、上手く返事が出来ない。そんな私を、本当のことを言われて動揺していると思ったのか、ゴールドが諦めたように笑う。

「えっ、と。ちょっと待って、レッド?何の話?」
「だから、レッド先輩のことが好きだからオレの告白聞いてくれないんスよね?」
「こ、告白?」
「オレ、なまえ先輩に好きって、ちゃんと気持ち伝えたつもりなんスけど」

真っ直ぐ、だ。ついさっきまで太陽みたいな笑顔だったのに。その瞳は、私を好きだと言ったときよりもずっと真剣だった。やだな、そんな真面目な顔されるともう、しまっておけないじゃんか。

「…私の好きな人はレッドじゃないよ」
「えっ?じゃあグリーン先輩ッスか?」

心底驚いた顔をしたゴールドは、また話をとんちんかんな方向へ持っていこうとする。グリーンくんとはまた…思ってもみなかった人物名だ。

「違うよ。ていうか私グリーンくんとは数えれるくらいしか話したことないんだけど」
「じゃあまさか…シルバー、とか」

私は盛大にため息をつく。もう否定するのも面倒になってきた。多分自分の名前を避けて名前を挙げていくつもりなんだろう。よく自惚れるくせに、こういうときだけ謙虚になられても困る。

「違うってば。…あのねゴールド、ゴールドって本当に私のことが、その…好きなの?」
「はい、本気ッスよ」

また、だ。その金色が真っ直ぐすぎて、私の意識は全て搦め捕られてしまった。だから、からかってるわけじゃないの、という言葉は音にはならず飲み込むしかなかった。それに、そんな言葉よりもっと、私には言わなきゃいけない言葉がある。

「…ゴールド、」
「先輩?どうかしまし…わっ!?」

思いきり抱きついて、私はあのねと囁きかける。少しバランスを崩したものの、しっかりと受け止めてくれた彼の腕が、遠慮がちに背中に回された。

「せ、先輩…、あの…」
「ゴールドなの」
「へ…?な、なにがッスか…?」
「私の好きな人」

え、と漏れた声が耳元で聞こえる。それから少し震えた声で、じゃあどうしてこの間言ってくれなかったんスか、と私に問うた。私が、ゴールドがあまりにも普通に言うからそういう意味じゃないと思ったのと言えば、そこまで思わせぶりなことしないッスよと笑われてしまった。それもそうかと思いはしたけど、やっぱり自分に自信がなかったんだと思う。

「あ、そう言えば言ってなかったね」

ぎゅっと回していた腕をほどき、ゴールドと目を合わせる。何の脈絡もない私の言葉に、ゴールドが首を傾けた。

「私、ゴールドのこと好きよ」

笑ってそう言えば、今度は私の方が強く抱きしめられた。顔赤いんで、見ないで下さいと呟いたのと同時に、その力は一層強くなる。ああ幸せだな、ほんと。重なる体温に、どこまでも溺れていく気がした。

淡い甘い、ゆっくり沈む

―――
(20130512)
title:largo
後輩なゴールドが書きたかったんです。