あ、こっちだった…はず。

歩き続けて額に浮かんでくる汗を手のひらで拭った。本当は、そんなにすごく歩いてはいないのだけれど。頭の中で曖昧な記憶を頼りにのろのろと歩き出す。見たことない景色にげんなりする。迷子か、私は。

…うわ、やっぱりあの角、逆だったかも。

大型のモールの中をぐるぐると回る。見て判る通り、つまりは、方向音痴というやつ。一回通っただけでたどり着けるような、勘が鋭いような人が本当に羨ましい。そんなこと、言ってる場合じゃない。


実は、竜士くんと待ち合わせしているのだ。しかも、もう5分過ぎている。…これじゃ、本当に、遅刻、確実かもしれない。というか、遅刻だ。かなり前に駅には着いてたはずだったんだけどな。遅れるってメールしておかないと。呆れられると思うけれど、どうしようもない。仕方ない。ぱかりと携帯を開ける。


『title:無題
 text:多分、遅れると思う。
 …迷いました、ごめん…!』

『title:Re:
 text:今、どこや?』


「…どこって…。えと…」


唐突なメールの文面に目を瞬かせながら、周りを見渡せば、かたんかたんと降り続けるエスカレーターに2の文字。…2階。その周りの店には、派手なピンク色のイルミネーションの光る女の子が好きそうな小物がずらりと並んでいる。


『title:Re:Re:
 text:多分、2階のエスカレー
 ター前の派手なピンク色のお店
 …だと思う』


送信ボタンを押して、携帯を握り締める。電話はやっぱり苦手。妙に緊張してしまうから。本当に申し訳ない。…なんでこんな方向音痴なのかな。雰囲気ぶち壊しの上に、迷惑までかけるなんて。はあと重いため息を吐いていると、小さく手の中の携帯が震えた。


『title:Re:Re:Re:
 text:今から行くから、動くん
 やないで』


ぱたんとまた携帯を閉じれば、おいと妙に聞き慣れてしまった声に振り返る。


「…何やってるんや」

「お、お世話かけます…」


彼のあきれた顔に、やっぱり落ち込む。きっと急いで来てくれたんだろうな。体力あるし、全然表には出ていないけれど。


「ごめんね」

「別にええ。…ちゅーか、真逆やぞ真逆。しっかりしぃ」

「うん、そうは思ってるんだけど…うまくいかない」

「おん。…そうやろ、普通は」


すぐに直ったら変やろがという竜士くんにそっかと曖昧に頷く。じいと目をのぞき込まれて、竜士くんにあからさまにため息をつかれた。しゃーないなと鼻の頭をかく。手首をつかまれた。竜士くんが、目線を逸らしながら背中を向ける。


「ほら、…行くで」


ごつごつしたような大きな彼の手のひらに自分の手首が収まって優しく引っ張られる。ああ、彼は優しいななんて、じわじわと温かかった。



手を繋げばいいんじゃないかな
迷子にならないように


(そんなに彼女、方向音痴なら、坊と手ェ繋げばええんとちゃうん?)
(んなことできるか、アホ!)
(痛ァ!)
(志摩さん…)




○企画 fluffyさまに提出


20110902

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mokuji



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