夢を見た。

とても悲しい夢を。

胸が苦しくなって途端に目が覚める。早鐘のように心臓が鳴り響いて、ちょっと怖い。どんな出来事だったのか、どんな理由があったのかそれすら思い出すことができない。さっきまで肌で耳で目で感じていたはずだったのに。何故?所詮は、夢。そうなの?

私は人間だから、夢を見る。まあ、当たり前のことで、人間だけじゃない他の動物も夢は見るらしいけれど。それが悪い夢だったり、良い夢だったりするわけで。

私がもっと小さな時は、すっごいメルヘンな夢ばっかり見ていた気もする。現実はそんなにうまくできていない。

朝だ。

唐突にそれを思い出した。薄いグリーンのカーテンの隙間から零れる光は意外に強く、より鮮明に感じ取れた。支度しなきゃ。もそりと体を起こす。汗で引っ付いた生地に嫌気がさした。

悪い夢を見た後は、どこにも行きたくないし、行動すら起こしたくない。でも、行かなきゃいけない。ため息を尽きながら重い鞄を持った。いつもよりそれが重く感じるのは気のせいじゃないんだろうな。



ふわり風が優しく頬をなでた。慰めてくれているみたい。そう思っている自分がちょっと可笑しい。


「あれ、何しとるん?」

「…うん?」


振り返る。頭の後ろで手を組んだ志摩くんがいた。目をこすりながら笑っているところを見ると、まだ寝起きなことが分かる。ちょっと驚いたようにまじまじと志摩くんは私の顔を覗きこんだ。


「…ひどい顔やな」

「開口一番、それ?」

「んー、悪気はないで」


へらりと笑って顔の前で手を振り、心配しとるんや、俺はと続けた志摩くんに目元のうっすら残った隈を指された。


「…悪い夢見ただけだよ?」


私に浮かんだのは苦笑いで。子供っぽいよなあ、私。にこにこと笑って志摩くんが口を開いた。


「そーなん?じゃあ、俺が添い寝「け、結構です」んな、照れへんでもええのに!」

「……」


ちょっとの沈黙に、ぱちぱちと志摩くんが瞬きをする。


「ん?」

「…志摩くん、フザケスギ」


本当に女の子大好きだな、志摩くんてば。なんて片隅で思う。


「アハハ、そやなあ」


志摩くんが頭をかいてそのまままた頭の後ろで手を組んだ。ピンクの頭が揺れた。


「でも、眠れへん時はメールでも電話でもしい。いつでも待ってるでぇ」


どきん。音がする。気のせいだろうか。心臓が高鳴った気がするんだ。おかしいな。そんなことを思っているうちにひらひらと手を振って志摩くんが歩き出した。

その後ろ姿をただ私は眺めている。突如、志摩くんが振り向いて驚いたように目を見開いたあと目がゆっくり細められる。にっと笑った。


「…行かんの?」

「え、あ、行く…!」


歩み寄る。いつか彼に聞いてみたい気もする。勇気なんかこれっぽっちもないけれど。

この気持ちはなんだったっけ、志摩くん。

今吹く優しい風が彼との距離を縮めるんだ。そう思いたいのは何故だろう。



夢見がちハピネス
そんな恋であってほしい




○企画 fluffyさまに提出


20110807

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mokuji



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