捧げ物 | ナノ

20XX.XX.XX 00:00
(座談会でもしてみましょうか。(1))

とある休日。誠凛高校バスケ部一年、火神大我はイラついていた。何故か。それは、自分の周囲に鎮座している、する予定の言わば変人達のせいである。

「火神くん。珍しいですね、火神くんが目の前にある食べ物にがっつかないなんて。
調子が悪いんですか?」

「がっつくって、俺が食い意地悪いみたいに言うんじゃねーよ!!このメンツにイラついんだ。
ったく、何でコイツらと座談会なんだよ!!つか、座談会ってなんだよ!!?」

と、言われた黒子は火神をとりあえずなだめた後、意図ありげに集められたメンバーを眺める。メンバーと言っても、まだ時間ではないためポツリポツリと空席が目立つ上、本当に来るとは思えない所もあった。向かいには火神と同じ様に露骨な程嫌な顔をして本を読む緑のメガネがいる。

ー秀徳高校バスケ部一年、緑間真太郎である。

黒縁のメガネのガラスの向こうから瞳を細め、「フンッ。」と一瞥してから読みかけであった本を、白いテーブルクロスが掛かっている長机に伏せこちらを見やるなり口を開く。

「そんな事も知らないのか。
座談会とは"何人かが集まって、ある問題について各自の意見や感想を述べ合う会のことで、形式ばらないで話し合うことを目的とする"と、言うことなのだよ。」

眈々と、まるで辞書のような説明の後、文句を言いつつ伏せていた本を起こしそれにまた目を落とした。

轟々と吹き付ける嵐のような彼の言葉に終始ついて行けず、キョトンとしている火神。彼は、「けいしきばら…って、紫原の親戚かなんかか?」と、隣の黒子に尋ねる。

そして、それに対し黒子はと言えば「それはないです。」とバッサリと切り捨て、火神に懇切丁寧に説明した。緑間はそんなやり取りに頭を抱えたくなる気持ちを抑え、その気持ちを溜息に乗せた。

当の本人である火神は、うんうんと頷きながら話を聞いていたが、本当に理解したかどうかは…まさに火神のみぞしると言った所か。

「つかさ、お前もこの手紙が届いたのか?」

火神はそう言って、ひらひらと白い何の変哲もない封筒を泳がせ、目の前の彼に見せた。

緑はまた読んでいた本を閉じて、彼の手元で泳がされている封筒を見やり、自分の鞄からそれと同じものを取り出して机に置いた。

差出人不明の手紙。それはキセキの世代と火神の自宅に郵送された謎の手紙。中には、開催場所を記した地図とこの座談会の内容が書かれたA4サイズ程の紙が、三つ折りではさまっていたのだ。

いかにも怪しい雰囲気を漂わせるそれは、これと言って何かがあった訳ではない。ただ、差出人不明という点と、唐突な座談会と言うのが問題なのだ。

「緑間くんは何故来たんですか。」

「コレを企画した奴に、一言言おうと思っただけなのだよ。」

……相当ご立腹の緑間様であった。

それにしても会話が弾まない。いや、弾むはずがない。何故ならばこの面子だからだ。自分から話す事はほとんどない黒子と、堅物の緑間。そして、緑間とはソリが会わない火神。

こんな面子で座談会をさせようと言う程、きっと企画者もバカではないはず。……、多分。

お互いに言葉を交わさず、あと20分こんな無言の沈黙が続くのかと思われたその時。奥にある木製の扉から光が差した。

「こんにちは…。」

おずおずと顔を出したのは、誠凛高校バスケ部一年橙宮彼方であった。唯一の常識人兼、華の女子だ。

「えっと、座談会って…。ここだよね、黒子くん。」

「そうだと思います。」

その返事に安心したらしい彼女は、ホッと息を吐くと緑間の隣の空席に座り床に鞄を置いた。緑間の方は、特に気にしていないのかまだ本を読んでいる。

「真ちゃん…、英語の本とか読めるの?」

そんな彼の本を覗き込みながら、彼女は問いかけた。一度メガネを掛け直すと、彼は本を読みながらその問いに答える。

「大して難しくないものだからな。」

「へぇ…。あ、そう言えば…。おは朝用雑貨の棚の隣に本棚あったね。」

彼女が懐かしむ様な笑みを浮かべた後火神が考え込み、何か重要な事に気が付いたらしい。勢いよく机を叩くと、椅子から立ち上がり彼方に指差す。

「ちょっと待てよ、橙宮。お前コイツの家に行ったことがあんのか!?」

と、顔を赤くして叫んだ。

そんな指摘にキョトンとする彼女は「あるけど…。」とつぶやく様な声を出した後、呆気に取られていた。

「火神くん。顔が赤くなってますよ。」

「うっせーよ!!つか、お前らそう言う関係だったのか!?」

横の黒子に一言言ってから、何故か興奮気味の火神は変な考えを始めている。

「は?」

そんな彼の発言に、訳が分からないと言った顔で呆れる彼女。そんな彼女の表情を、どう捉えたらそのような考えに至るのか至極理解出来ないが、"そう言う関係"が分かっていないと思った火神。

今でも赤い顔を、蒸発するのでは無いかと言う位に更に赤くして再び叫ぶ。

「だから!!お前らか、か、か……っ、カップルだったのかよ!!!?」

訪れた沈黙。この場の火神以外の人物はそんな事無いのは百も承知だ。しかも何故カップルでどもる。

「バ火神、お前…。本当にバカなんだね。ただ、勉強教えてもらいに行っただけなんだけど。
いつまでも中2男子思考はおやめなさい。」

「火神くん、色々とあり得ません。」

「お前の脳内はどうかしてるのだよ。」

と、口々に罵られた後。火神は黙った。

何であれ、自分の行き過ぎた勘違いがこんな悲劇を生んだのだから。もう何も喋るまいと、今日この場では喋るまいと決めた。

そんな決意を決めた火神を他所に、彼女達は話を再開する。

「それにしてもね。
私さ、火神って相当なウブって言うのが意外だったんだけど。」

用意されていたマジバのシェイク片手に、先程の火神の失言を弄るかのような発言をする彼女。それを皮切りに、火神を弄る話へと変貌を遂げたのだった。

「女の人でどもってましたよね。
さっきのカップルでどもるのもそうですけど、」

「ほら、アレクサンドロ・ガルシアさんって美人な師匠さんいたのにね…。」

何かに憐れむかのような目で、チラリと火神を見てからシェイクを飲む。それにしても、チクタクと時を刻む時計を見やれば今は12時50分。約束の時間まであと10分。

この調子なら、暇せず座談会を迎えられそうだ。

そんな時、再び奥の扉から光が差したのだった…。

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