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お姫様と魔法使い(1/2)





普段は悩むことなんて滅多にない姉が難しい顔をしている。
これは何かあるのかも知れないと妹のロゼが声をかけると意外な言葉が返ってきた。

「名無しを着飾ってあげようかと思ってるの。前にチラッとだけ、私みたいな格好気になる様なこと言ってたし。」

「え、それマジ!?」

あの名無しが…!?とロゼは驚きの声を上げる。
普段は肌を露出することを極端に嫌がり、全力で拒否するのが名無しである。
一体名無しに何があったんだと問えば、あまりにも単純で明解な答えが返ってきた。

「男の目を気にしてるらしいのよ。」

「男の…?ってか、それって…」

「ええ。ロゼが思った相手で間違いないわよ?」

どうやらこの姉妹に名無しの想い人はバレバレのようだ。

「でもさ〜、スレイは見た目で判断するような奴じゃないっしょ!」

「私もそう言ったんだけど…純粋な乙女の願いを叶えるのも悪くないかなって!」

「だったら、スレイに直接好み聞けば良くない?」

ナイスな提案にノワールは早速スレイに突撃していった…



「え?名無しに似合いそうな格好?」

「そう!一番仲良さげなスレイ君なら名無しに似合う格好分かるんじゃないかと思ってね。」

こんな事を言っているが本心は『スレイ君の好みを暴いてやる!』と言う野次馬根性丸出しなのだが、そんな事を思っているなんて知らないスレイは真面目に答える。

「う〜ん…名無しは今のままで充分可愛いと思うけど…あ!」

途中で何かを思い付いたのかを赤らめ、それを見逃すノワールではないので食い付く。
始めは話すことを躊躇っていたが『早く吐きなさい!』と言うノワールの無言の圧力に負け、渋々話す…

「うふふ…良いこと聞いちゃった〜♪」

思わぬ収穫を得たノワールはスレイにお礼を言い、早速行動に移す。
しかし店を見て回っても中々イメージ通りの服が見つからない。
どれもこれも微妙にノワールが考えている物と違う。
ならば仕方無いとノワールは最終手段を取った。
そして数日後…



「名無し、貴女にあげたいドレスがあるんだけど…受け取ってくれる?」

「まぁ!ありがとうございます、ノワールさん!早速着てみても宜しいですか?」

プレゼントは幾つになっても嬉しいもので名無しはウキウキしながら着替えに部屋に行く。
すると部屋に入ってすぐに真っ赤な顔した名無しが扉から顔を覗かせた。

「コレを着るのですかっ!?」

「うん!」

「ですがっ…わたくしには、ハードルが…」

「名無しの為に作ったのに…」

「作った!?このドレスをノワールさんが!?」

思わぬ一言に貰ったドレスとノワール、交互に視線を向ける名無し。
これを着るのはちょっと恥ずかしい…でも折角作ってくれたのに着ないのは失礼かもしれない…けど恥ずかしい!
と、ぐるぐる堂々巡りしていたが、やっぱり作ってくれたのに着ないのは失礼だろうと腹を括り、着ると言う選択を名無しはした。
それならば髪型もメイクもやってあげるわね、とノワールは嬉々として腕を奮った。



「これが…わたくし?」

着ているドレスは青から黒へと綺麗なグラデーションになっており、キラキラ光るラインストーンが散りばめられて夜空のように見える。
そして足が見えるように大胆なスリットが前に入っているが、露出は最低限に留められている為名無しの綺麗な色白の肌を際立たせている。
またノワールにより目がぱっちりするようにアイラインを引かれ、唇はほんのり桜色に仕上げられ、髪は右側に纏めてアップにされている為、普段より大人びて見える。

「うんうん!元が良いから、ちょっと手を加えるだけで綺麗になるわね。」

「ノワールさん、ありがとうございます!どうお礼をしたら良いのか…」

「お礼なんて要らないわよ。私が勝手にした事だし。」

「ですが…」

「どうしてもって言うならその格好でスレイ君とデートしてくれれば私は満足よ?」

ーコンコン

『名無しが呼んでるって聞いてきたんだけど…入っても大丈夫?』

「えっ!?な…、スレイさんっ!?呼んだ覚えは…まさかっ!」

噂をすればなんとやら…呼んだ覚えは無いのに呼ばれたと言うスレイの言に、ばっとノワールを見れば、それはそれは良い笑顔のノワールがいて、計られたのだと名無しは悟る。

「この様な姿で出歩くなんて、恥ずかしいですっ…!」

「貴女は天族なんだし、普通の人には見えないから大丈夫大丈夫っ!」

「うぅ…それはそうですけれど…スレイさんにこの格好を見せるなんて…っ!」

「もう…!」

このまま放っておいたらスレイに見せることなく終わるだろうと思ったノワールは、名無しの制止を聞かずにドアへと向かい開け放つ。

「あれ?ノワールも一緒にいたんだ?」

「うん。あのねスレイ君…」



その日…導師の隣にはとても綺麗でお姫様の様な天族がいたと、天族を知覚出来る少数の街人の間で持ちきりだったが、当人達はそんなことは知らずに街中を仲睦まじく歩いていた。

「名無し…その格好似合ってるよ。」

「本当、ですか…?変じゃありませんか?」

「全然!確かにいつもの名無しと違ってて、最初見たときは驚いちゃったけど…変なんかじゃないよ。」

「そうですか…良かった。」

ふんわりとはにかみながら言う名無しにスレイは己の顔に熱が集まるのを感じたが、何とかやり過ごし言葉を紡ぐ。

「ああ〜…えっと、名無しは行きたい所とか無いの?」

「いえ、特には…スレイさんと一緒にいられれば、わたくしは満足です。」

「…っ!?!?」

嘘偽りの無い真っ直ぐな澄んだ瞳でとんでもない殺し文句を言われてしまい、今度こそスレイは朱に染まり黙りこんでしまい、名無しはスレイの事をにこにこしながら見ていたと言う…。




 




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