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桃色の頬を包む歓喜(1/2)


 
 
 
 
 
暑さ対策のため砂に埋められたコンクリート。所々から聞こえて来る流水の音。空を見上げれば曇る日などあるのかと疑いたくなるような晴天が広がっているのはストラタにあるユ・リベルテ。
ヒューバートが大統領に報告があるとのことで、オレたちは街に訪れていた。

ヒューバートが報告に外出している間、ほぼ自由行動と言ってもいい。部屋のなかでボーッとする気分ではないため、オレは宿の外に出て街の中を探索していた。
生涯で何度も来たことはあるが、前回は慌ただしくてゆっくり出来なかったのを覚えている。とくに変わったところはないと思うが、まあ暇だし……と宿の前にある噴水の流水を眺めていた。
これってどこから湧いているんだと触ったりしていると、前方に見える宿の扉が開いた。自然と誰が出て来るか視野に入って来る。見覚えのある桃色の髪が風で揺れた。
しかしオレの立ち位置が悪いからか彼女……シェリアはオレに気づくことなく市民街へと向かって行った。小さな鞄を持っていたため買い出しだろう。今日はここで休むのかなぁと思いながらオレはシェリアのあとを追うことにした。

するとオレの予想通り、シェリアは買い出しのため宿を出たようだった。メモを見ながら道具屋の前に立っている。……もちろん、というべきか、シェリアはまだオレの姿に気づいていなかった。
オレはどう声をかけようかなぁと少し悩んだのち、いつもと少し違うことをしようと、ゆっくり彼女に近づき、彼女の両目を手で覆った。突然のことに肩が跳ねるシェリア。反逆してくる前にオレはシェリアの耳元で呟いた。

「だーれだっ」

声色で分かったのか、上がっていた肩が下がる。その様子を見るとオレはぱっと彼女の目元から手を離し、後ろから隣に移動して顔を覗き込んだ。シェリアは安心したような、困ったような表現をしていた。

「もぅ、驚かさないで頂戴」
「新しいナンパ方法」
「……それ、殴られるパターンよ?」
「え?シェリア以外にしないし」

だから安心して、と言うもこれからはしないでと怒るシェリア。少し顔が赤くなっているのは『ナンパするのはシェリアだけ』という言葉の意味を理解したからかな?つまりシェリア一筋ってことだもんな、これ。

「それで、一人で何してるんだ?買い出し?」
「ええ。時間もあるし、道具と食料が偏っているから調達しようと思って」
「ふーん。じゃあ、デートしよっか」
「え……?」
「オレも暇だし、シェリア見つけちゃったし、一人で置いて行こうとは思わないから、デート」
「……あぁ、荷物持ちね」

いや、デートだよ?確かに荷物持つけどデートだよ?
デートという言葉を認めたくないのか、荷物もちだと言い直すシェリア。そのことを弁解する前に何が必要か話し出したため、弁解することは出来なかった。
まあ一緒にいられるだけいいかぁ、とポジティブに考えながら、オレはシェリアとデート(荷物持ち)を始めるのだった。



最初に言っていた通り、グミなどの道具だけでなく食料も調達して行くため、いつの間にかオレの両手は袋で埋まっていた。
てかまずシェリア……一人でこの量買うつもりだったのか……?アスベルにでも頼めば良かったのに……。ま、オレでいいんだったらそれでいいけど。

シェリアがより安い店で商品を探し、ぐるぐると歩き回るためオレは彼女の後ろをついて行くだけの形になっていた。てかこれじゃほんとにただの荷物持ちだな……とデートの概念が崩れかけている現実に気づき、オレは眉を顰める。もっとも、シェリアが前を歩いているため気づかれることはないが。

「あとはあの店に行ったら終わりよ。まだ持てそう?」
「ああ。重さ的には大丈夫……だけど、かさ的にはそろそろキツイ」

これ以上積み上げられたら前見えなくなるんじゃないか?まあ、手さげ袋に入れてもらえれば抱えずに済むってことなんだけど……。
オレにあと一店だと伝えたシェリアはまた前を見て歩き出す。どの店かなぁと店の並びを横目で眺めていた。
そのとき、オレはあるものを見つける。

「いらっしゃい」
「えっと……これとこれ、手さげ袋に詰めてもらえますか?」

そう言うシェリアはオレが後ろをついて来ていないと気づいていなかった。まあそれは好都合なんだけどー……とオレはやることを済ませた。
少し離れた場所にいるシェリアは相変わらず買い物に集中していて、店員に買った食材を手さげ袋に入れて貰っていた。袋を受け取り、オレにそれを渡そうと振り返った瞬間、

「じゃーん!」

オレはシェリアが言葉を紡ぐより先に、桃色の花束を彼女に向かって差し出した。突然現れた大輪の花にまたもや肩が跳ねる。キョロキョロと目を泳がせたのち「これは……?」と伺うように首を傾げた。

「プレゼント。デートって言っただろ?」

なんて言いながら、ただの荷物持ち、を防ぎたかっただけだが。
シェリアにデートのつもりがなくても、オレにとってはそう。つまり、

「初デート、ってことだろ?記念にだよ」

こんなものを初デートと言っていいかは分からないが、二人で街の中を歩き回ったのは初めて。ならば渡す理由はそれなりにあるはずだ。
オレの言葉を聞いてもシェリアの表情から戸惑いが消えることはなかったが、わざわざ用意してくれたのなら……と両手で花束を受け取った。

「……花の名前を聞いてもいいかしら?」
「ん?あー、アルメニアだよ。花言葉は……」





桃色の頬を包む歓喜




 




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