『諦めんな!』

 
 
 
 
 
救いの塔。俺達はそこにいた。が、現在周りには自分以外誰もいない。俺はロイド達を先に行かす為に自ら囮になり、大量にいる魔物に立ち向かった。結果かなり時間はかかったが、一匹残らず蹴散らす事は出来た。全く…一人で大丈夫だなんてカッコつけるんじゃなかったぜ。
汗を拭って息を深く吐く。いや疲れたわけじゃない、ただ息を吐きたかっただけだからな。と一人漫才して武器であるハンマーを肩に乗せる。


「休憩してる場合じゃねぇな。さっさと行くか」


よいしょとな。お爺ちゃん発言しながら俺は倒れている魔物で埋め尽くされている地面を蹴る。しまった、サイカトリスをするの忘れてた!!…そう後悔しながらも足を動かした。
魔物が現れたら俺の世界で好きだった曲を歌いながら倒し、ただただ走る。確か皆バラバラになるんだよなー。俺リーガルより先に別れたし、早く行かないと間に合わなくないか。


「ちょ、それは困るな!俺だってジーニアス達と一緒に登場したいし!くっそー!何でもっと速く走れないんだー!」


せっかくこの世界にトリップしたんだからあの感動シーンの場面に間に合いたいだろ!ゲームではわからなかったけど、実際のロイドは泣いてるかもしれねーじゃん!?多分それ見たらもらい泣きしそうで嫌だけど面白いから見たいじゃん!?
わーぎゃー騒ぎながらも走るスピードを緩めない自分自身を褒めたい。ああ…考えたら一番俺が楽な残り方だったんだなぁ…。流石に皆みたいにならないか。つか俺別れる時ロイドと話してないし。親友と思ってたのに何も言ってくれないなんて酷いと思わないか皆さん。


「せめてユグドラシルの戦いには間に合いたいぞー。頑張れ、俺!」


一人虚しく声に出しながらも気づけば…何この崖。やっべぇ、話すのに夢中すぎて全然前見てなかった。よく俺ここで止まったな。危うくこのまま真っ暗で見えない下に落ちる所だったわ。おっかしいなー、何処かで道間違えたか?弱ったなー。
頭を掻いていると、突然真っ暗で何も見えない真下から大きい音が聞こえた。爆発音。俺は目を細める。


「まさかロイド達が戦ってるのか…?」


それだったら早くいかないとまずいだろ!俺の出番無くなる!マーテルがまってる(ギャグじゃないぞ)んだから!とか勝手に想像しておいて違うかったら俺泣くかも。泣いても見捨てないで、読んでいる皆さん。


「とまあ冗談はここまで、っと!」


言葉と共に崖から飛び降りた。おお、結構高さあるなー。ビュンビュン風が当たって…アニメだったら絶対イケメーンに描かれてるシーンだな。でも実際の俺は髪が全て上に向いているからかなり恥ずかしいんだが!意外に髪はきちんとしたい派なんだよ、俺は!誰得だよこれ!
心の中で文句を言いながらも俺は着地出来る地面を確認して俺はハンマーを横の壁に刺して勢いを殺す。怪我もなく着地出来た事にひとまず安心してどうしよっかなーと考える。慎重に考える、なんて俺らしくないが命は大事だしな。


「仮にロイド達とユグドラシルが戦っているのなら俺は直ぐ様出ないとマーテルまってるが出てくるから俺の出るタイミングが無くなるわけだし…。が、これでもしロイド達じゃなくエンジェル野郎だったらだるいし…」

「ロイド、危ない!」


ブツブツ口にしていると不意に聞こえたのはジーニアスの声。再び聞こえた爆発音と共に仲間がやられる声がした。眩しい光が場所を知らせてくれている為、俺はそこへ走る。一応どうなっているか確認する為に腰を低くしながら見る。そこにはユグドラシルと…やられているロイド達がいた。見た感じ戦っているのだろう。…てかこの角度的に…俺もしかしてジーニアス達が現れた所に立ってるのか?


「嘘だろ、俺まだ何言うか決めてねぇ…!」


真下に仲間がやられているというのにそんな事を考える俺は随分冷たい奴だと思うだろう。俺が悠長に考える事が出来るのは…確かに仲間はやられているが、一人だけ立っている奴がいた。ロイド。俺は勿論皆を信じてるけど、一番親友のロイドを信じている。絶対諦めないのが取り柄っぽいロイドなら大丈夫。とりあえず何を言うか決めてから出ないとキマらないしな。さて、何言うか決め…。


「っ…!」

「所詮その程度か。笑わせてくれる」


ロイドの剣がユグドラシルに弾かれた。弾くと同時にユグドラシルは二発、三発と軽く赤子を捻るよう簡単にロイドに与える。口から吐き出す血と共にロイドは膝を地面につけた。あれ、結構ピンチ?皆懸命にロイドを守ろうと体を動かしているけど、あいつはここで終わる様な奴じゃねーだろ。どうせまた諦めないって立ち上がって…。


「ここまで、なのか…!コレットも救えず、こんな所で終わるのかよっ…!」

「は?」


悔しく吐き捨てる様に小さく呟くロイドの声がやけに鮮明に聞こえたから思わず口が悪くなる。ロイドの奴、何言ってんだ?
ユグドラシルがロイドに向かって手をかざす。攻撃されると唇を噛む仕草まではっきり見えた。


「諦めろ」

「…ざけんな」


いつもいつも俺に諦めるなと言ってきた本人がこんな事で諦めてどうするんだよ。お前そんな男じゃないだろうが。もしも俺とお前が逆の立場だったら絶対こう言うだろ。だから俺も同じ事を言ってやる。普段言われている仕返しだ。
腰を低くしていたのをやめて背筋を伸ばす。俺の姿が完全に見える所まで…ゲームでジーニアス達が立っていた所まで歩き俺は息を吸って大声で言った。


「諦めんな!」


俺の経った一言にただ一人除いてほぼ全員が驚いた表情で見ていた。一人除く、に当てはまるのはロイド。俺の姿を見るなり口角を上げている。なーに笑ってんだこの馬鹿。俺怒ってるんだぞ。…まあ、それはともかく。


「キマっただろ…俺」

「馬鹿な事を言っていないで…名無し!」

「消えるがいい」


ドヤ顔でポーズも決める俺にリフィルさんの焦る声を出す。次にはロイドの目の前にいたユグドラシルがいて、瞬間移動かと頭の中で理解する。つか眩しいなおい。キラキラしすぎだろ。あれか、イケメン特有のキラキラか。…っと、そうじゃねぇな。


「生憎簡単に消える訳にはいかないな」

「何!?」


さっきと同等、相手に伸ばすユグドラシルの手に自らの手を重ねる。予想外の行動に一瞬動きを止めた隙を狙い、一発ハンマーを当てた。いやー、いい仕事したわ。
吹き飛ばされるユグドラシルを他所に、俺はようやくその場から飛び降りて皆に近づいた。あー、これ戦う前に戻した方が良さそうか?うーむ。
どうしたものかと悩む俺に皆が生きてて良かったと声をかけてくれる。…俺も、皆が生きてて良かったと心から思うよ。なんか俺が泣きそうだわ。


「名無し!」

「おいこらロイド!何お前諦めようと…ぶっ!」


近づいてきたと思ったら殴られた。…はぁ!?何で俺が殴られないといけないんだよ!わからん、もう親友の考えてる事がわかりません先生!
言葉にすらならない怒りにとりあえず睨む俺。しかしロイドも何故か怒っていた。一体お前は何に対して憤怒しているんだと一旦話を聞くために怒りを鎮めて訊く。


「もっと早くにここに着いていただろ!名無しの事だから、カッコよくキメたくて来なかったんじゃないのか!?」

「…流石俺の親友。よくわかってる」


包み隠さず素直にそうだと頷けばさらにもう一回殴られた。しかもロイドだけじゃなくいつの間にか立ち上がっていた他の皆にまで叩かれたり魔法を唱えられたりされた。お、お前らやられてたんじゃないのか!
…どうやらロイドはわざと諦める素振り見せたらしい。俺を現す為に。だからってな…俺が出なかったら死んでたんだぞと少し呆れた様に言えばロイドお得意の真っ直ぐな言葉で。


「名無しなら必ず来て俺達を助けてくれるって信じてたからな」

「…そりゃあどうも」


全くこの男は恥じらいというものを知らないのか。よく軽々と言えるわ。そこは尊敬するよ、本当。別にロイドみたいに言いたい訳じゃないけどさ。
戦闘中だというのに和気あいあいと再会を喜ぶよう喋る俺達だが、ユグドラシルが瓦礫から出てくる。だから皆の顔が一気に引き締まった。そう、問題はここからだ。負ける気など更々ないけど。


「俺の力であいつと戦う前の状態に出来るけど…どうする?」

「当然いらないさ!だよな、皆!」


仲間に笑えば笑い返す。つまり他の皆もロイドと同じでいらないという事。俺も予想はしていたからフッと笑ってしまう。…だと思ったよ。正直俺もあの力を使いたくなかったんだよな。人間離れした力を使うのは抵抗があるし。
ハンマーを構える。ユグドラシルは殺意を込めた目で俺達を見ていた。ありゃ、さっきの一撃で怒ったか。


「よし、いくぜ!」

「お前らバテるなよー。あとは…」

「「絶対に諦めるな!」」


偶然にも同じ言葉を吐いた俺達を顔を見合わせる。そして何も言わずにただ頷いて仲間を見る。当たり前だとそれぞれ合図を出す皆が頼もしく感じる。まあ元々頼もしかったけど。


「んじゃ囚われのコレットを助けますか、親友のロイド!」

「ああ!頼むぜ相棒!」


隣に並んだロイドと頼もしい仲間を信頼し、俺達はユグドラシルに再度挑んだのだった。

ーーーーー

蓮月様のリクエスト、言ってほしい言葉は夢主で『諦めんな!』でロイド友情夢でした。
内容は…仲間が諦めてロイドにトドメをさそうとしている時にジーニアス達が現れた所から言葉を放ち、ユグドラシルに一撃を食らわせる。可能ならば契約しているクロノスの力を使ってほしい、との事でしたが…申し訳ございません、その力は書きませんでした。
というのも、いくら契約しているとはいえ普通に使えたらただのチートじゃないですか。トリップ夢主でも人間ですし。なので触れるのは触れて使わずに。すみません。
夢主も好き勝手執筆させていただきすみませんでした。
それでは蓮月様、三周年企画に参加していただきありがとうございました。
これからも『黒猫の鈴』を宜しくお願いします。

※お持ち帰りは蓮月様のみです。
 
 
 
 
 

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