『後のことは俺に任せてお前はお前らしくやれ』

 
 
 
 
 
今日も相変わらず日差しが強い。別に構いはしないがこうも眩しいと戦闘の時に上を見上げる事が中々厳しくなる。上空から迫られたらどうするべきか歩きながら考えれば隣にミクリオがやってきた。珍しい。


「名無し、何かあったのか?随分難しい顔をしているけど」

「ん…まあ、気にするな」


自分で言うのも何だが口数が少ない俺は淡々と返す。誰かに相談する事でもないし、まず解決出来ることでも無い。だから気にするなと言ったのだ。ミクリオもだったらいいと先を歩く。俺も考えていても仕方が無いと足を動かした瞬間だった。


「名無し」

「いてっ…」


何故だか背中を叩かれた。体がよろめくが足で支える。この声といい、この行動といい、一人しかいないな。
深いため息をつきながら自分を叩いてきた相手を見る。そこには腰に手を当てて見上げる女、ロゼがいた。


「何でため息ついたし」

「別に」

「ホント喋らないなぁ」

「お前は喋りすぎだ」


ちょっとした口論が始まる。まあ直ぐに終わったのだが。改めて何か用があったのか訊けば特に何もないと返された。じゃあ何だ、俺は用もないのに叩かれたのか?…だったら凄く惨めに感じるのだが。ここは相手がロゼだからって事で気にしないでおくか。
ふと前の戦闘を思い出す。確かロゼの動きが鈍かった気がする。…腕を隠してたな。


「ちょ、何!?無言で腕を掴むな!」

「やはりな。怪我をしていたのか」


ロゼの腕を掴んで裾を上げる。そこには包帯で巻かれていた傷痕があった。消毒もしていないからか血が滲んでいる。つか不器用だな。適当に巻いているのがモロわかりなくらいに適当だ。良くこのままでいたものだな。
もういい?とロゼは引っ込めようとするが俺はそれを許さない。掴む手に力を込めて止める。


「ミクリオ達に気を遣わせない為に黙っていたつもりだろうが…それだったらもう少し丁寧にしろ」

「う、うるさいな!名無しには関係ないじゃん!」


はぁ…と頭が痛くなって俺はため息をつく。言っても聞かないのなら仕方が無い。皆が俺達に背中を向けているのを確認してロゼの巻かれている…と言っていいのかわからないが、とりあえず包帯を解く。何をするんだなんて暴れるが力は男の俺の方が強い為無駄な抵抗だ。
何も言わずに自分の鞄から応急処置様に持ち歩いていた消毒液と包帯を取り出す。消毒液を傷口に垂らせばロゼが痛さのあまり騒ぐ。


「直ぐに終わるから静かにしていろ」

「っ〜!」


大体そこまで痛む程に我慢していた方が悪い。思った事を口にするが反論はしてこない。事実だし何よりも傷にしみて痛いのだろう、反論する余裕すらないみたいだ。まあ好都合だからいいけど。
テキパキ応急処置をして最後にきっちりと包帯を巻いた。本当なら天族の皆に言えばいいんだろうけど…迷惑をかけたくないんだろうしな。


「サンキュ、名無し」

「…ん」


先程まで騒いでたわりにはお礼を言ってくるロゼにこっちが照れてしまう。何ていうか…こういう所は直球なんだよな。俺にはとても真似出来ない笑顔だし。
改めてしばらく外をブラブラしすると憑魔が現れた。それぞれ武器を取り立ち向かう。当然俺も戦っていた。しかし。


「名無しさん!?」


ライラに迫る攻撃から守ってカウンターするつもりだったが失敗。かろうじて直撃ではなかったが少し掠ってしまった。ライラが直ぐに俺の傷を治そうと天響術を唱える。気づいたロゼが俺とライラを背後にして守りながら戦うがロゼはかなり戦いにくいのだろう。素早い動きを得意とするロゼが遅く見えた。
残念ながら他の皆を呼ぶのは不可能だ。スレイ達も他の憑魔に手間取っているみたいで俺達の状況に気付かず戦っていた。


「ライラまだ!?いい加減やばく…っ!」

「ロゼさん!」


ライラもロゼを気にして集中出来なかったからかいつもより詠唱が長い。そこをロゼが早くしろと急かす為に一瞬目をこちらに向けた。が、それが仇となった。憑魔が隙を見せたとばかりに攻める。直様ロゼも短剣で塞ぐが限界だった。覚悟を決めて目をつぶる彼女を狙う憑魔に俺は。


「はぁっ!」


怪我をしているにも関わらず攻撃をした。ライラもロゼもポカーンと口を開けて動かない。予想外だったからか。だとしてもボーッとしていられるのも困る。この数を一人で蹴散らすのは到底無理だ。だからしっかりしろと叫んだ。我に返った二人は体勢を立て直す。


「ライラ、俺の怪我なら心配するな。今は治す事よりも目の前の憑魔をどうにかする事だけ考えてくれ」


ポタポタ流れる血を見るライラに諭す。不承不承ながら頷き武器を構える。後は…ロゼか。何だが見たくない気もするが、今の内に見る。怒ってる。眉間に皺を寄せてる。大方怪我人は大人しくしてろとでも言いたい訳だ。まあ言わせるつもりはないが。ロゼだって前の戦いで怪我してるのだからお互い様だ。


「背中は守る。ついでにお前が倒し損ねた奴は俺がやるから」


ロゼの背後に立つ。囲まれているのなら分かれた方が効率が良い。それに俺達は怪我を負っているわけだから尚更カバーした方がいいだろう。戦いやすくもなる。だから。


「後のことは俺に任せてお前はお前らしくやれ」


これでは俺はロゼの相棒みたいだな。別に何でもいいけど…彼女を守れるのなら。なんて俺らしくもない事を考えていたら後ろから背中を叩かれた。本日二回目。しかも俺の背後にはロゼしかいないのだから同じ相手に二回も叩かれたという事じゃないか。


「普段は無口なくせに戦闘の時は煩いなぁ、名無しは」

「…何が言いたい」


まず煩いとロゼに言われるのは腹が立つのだが。声のトーンが低くなったのに対してロゼは明るい声で笑いながら言う。頼りになると。…だから毎度ながら言葉が直球すぎるんだよ。心臓に悪い。
しっかりする為に咳払いをする。ライラに目を向ければ彼女も唱える準備は出来ているらしい。


「行こう!名無し、ちゃんと背中守ってよね!」

「わかってるから集中しろ」


相変わらずの俺とロゼの会話にライラが笑う。青春だとか目を輝かせて言ってるけど…そこまで見られると困る。
後から詳しく聞かれる事を感じながらもロゼの掛け声を合図に俺達は憑魔の大群へと立ち向かったのだった。


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相楽様リクエスト、言ってほしい言葉は夢主の『後のことは俺に任せてお前はお前らしくやれ』でロゼ夢でした。
内容は特に書かれていなかったのでこちらで考えさせていただきました。
夢主の性格がクールだけど根は優しい不器用な夢主、だったので意識しながら執筆したのですが…これはクールではない気が。すみません。
ロゼと夢主は仲がいいです。喧嘩するほど仲がいい設定。恋心ではなく仲間として守り守られって感じですね。相棒になる日も近い?←
最後に近づくにつれてライラが空気になってしまいましたが夢主とロゼの関係に一番くいつきそうなライラ。是非とも私も聞きに行きたい(?)
それでは相楽様、三周年企画に参加していただきありがとうございました!これからも管理人共々、『黒猫の鈴』を宜しくお願いします!

※お持ち帰りは相楽様のみです。




 

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