『お仕置きだよ』

 
 
 
 
 
ふわりと微笑めばときめく心。話す度に舞い上がりそうになるほどに嬉しくなる。今でもそう…彼を想えば頬が緩む。会えるだけでも幸せなのに最近は毎日話していて一日一日を噛みしめる程に楽しい。


「っといけない。一人でニヤけている所を見られたら恥ずかしいし…しっかりしないと」


ルフレさんには不甲斐ない姿なんて見せたくないもの。危ない危ないと自分に軽く叱咤しながらも歩く。…遠くから声が聞こえる。この声…ルフレ、さん?
気になった私は声の方へ足を運ぶ。そこにはルフレさんと楽しそうに笑いあうルキナさんがいた。途端に胸が痛む。あ…嫌な女だな、私。たった二人が話しているだけで嫉妬してる。


「…盗み聞きは良くないし…ちょっと歩こうかな」


本音を言えば聞きたくないし見たくもなかった。醜い嫉妬を止める為にもその場から去ろうとしたのだが。


「ーーーああ、好きだよ」

「え…?」


彼の一言が鮮明に聞こえた。背中を向けていたのにもう一度振り向いてしまう。目に映ったのは少しだけ照れくさそうに頬を掻くルフレさんとその言葉に嬉しく笑うルキナさん。ルフレさんは…ルキナさんを好き、だった?なら私は失恋したの?


「っ…!」


瞳から涙が溢れる。声に出さない様に口を手で覆い今度こそ立ち去り自分の部屋へと戻った。止まらない涙、繰り返されるルフレさんの言葉。辛くて苦しくて息をするのに精一杯だった。…馬鹿だ。勝手に期待していたんだ私。ルフレさんも私の事を…なんて都合よく考えていた。


「あるわけ、ないのに…」


それから私はルフレさんに会わなくなった。ううん、避けるようになった。ちゃんと話せないし、まだ心の整理が出来ていない。彼の口からルキナさんと結ばれた事を聞くのが怖い。
会う度に張り裂けそうになるくらい胸が痛む。理由もわからず避けられているからかルフレさんが悲しい表情をする度に逃げる。なんて、自分勝手なのだろう。


「もう一週間経つんだ…」


早い事に一週間は経っていた。相変わらずため息しか出ない。幸せがなくなる、なんて言われるけど既に幸せなど無い。だけどいい加減認めないと駄目だ。ルフレさんを傷つけたくない。それに二人を祝福しないとね。
よし、頑張ろう。気を取り直して私は大きく息を吐く。大丈夫、二人を見ても祝えばいいだけ。嫉妬はしなくていいの。


「…あ」


ルキナさんとルフレさんを見つける。…ほら、いい機会じゃない。おめでとうって言わなきゃ。
足が、動かなかった。まるで金縛りにでもあっているかのよう。…無理だ。祝うなんてとても出来そうにない。そう思った私は前と同様、バレない様に去ったのだった。
ーーー冷たい噴水の飛沫が頬に当たる。私は中庭の噴水を背後にしながら一人気持ちを落ち着かせていた。まだ諦めていないなんて…どうかしてる。だけど…。


「簡単には諦められない程に…ルフレさんが、好き…」

「見つけた…!名無しさん!」

「へ…?」


突如現れたのはルフレさん。幻覚を見るなんて重症だな…とぼんやりしていてもルフレさんの姿は見えない。え、まさか本物…?
疑いながらも目を擦る。しかしどれだけ擦っても彼はいた。つまり…幻覚ではない。


「嘘、なん…きゃあ!?」

「危な…うわっ!?」


距離を取るために後ろに足を下げようとしたのだが、後ろに噴水があった事など忘れていて足が外壁に当たりバランスを崩してしまう。噴水の中へと落ちていく私を掴もうとルフレさんが手を伸ばして腕を掴んだ。だけど引き寄せるのが少し遅れたからかルフレさんまでも巻き込んでしまった。


「つ、冷た…っ!」

「…怪我は、無いかい?」


勿論痛いのもあるが何よりも冷たい。腰から下までがびしょ濡れで気分は最悪だ。しかもルフレさんまで巻き込んでしまった。それは謝ろうと目を移せば彼は落ちた時の水しぶきが頭からかかったのだろう、髪も服も濡れている。だからなのかいつも以上にカッコいい。


「ご、ごめんなさい!」

「!待ってくれ!」


謝りながら逃げる私だったけど水のせいで服が重くなり上手く動けない。いとも簡単にルフレさんの手が肩に触れる。そのまま無理矢理正面に向けさせられた。怒っているのか悲しんでいるのか読み取れない表情が私を捉える。


「どうして僕を避けるんだ?何かしたのなら言ってくれ」

「…放っておいて下さい!私より恋人のルキナさんの方へ行けばいいじゃないですか!」


抑えていた感情が…止まらない。涙さえ出てきて視界がぼやける。今彼はどう思っているのだろう。
しばらく沈黙が続いた。それを破ったのはルフレさん。戸惑った声で言う。恋人のルキナさんとはどういう事だと。とぼけるつもりなのかと思った私は辛くなるからあまり口にしたくはなかったのだけど告げる。


「この前ルキナさんに好きだって言ってたじゃないですか…」

「き、聞いていたのかい?」


小さく頷けば「困ったな…」と頬を染めるルフレさん。目をそらしたい。今の彼を見たくない…。
ルフレさんは咳払いをした後私に訂正の言葉をかける。ルキナさんとは恋人同士でも何でもないと。だったら私が聞いたのは一体何と訊き返せば。


「名無しさんの話をしていたんだ」

「私の、ですか?」

「ルキナは全てわかっていたみたいで僕は彼女が好きなのかと訊ねられて…名無しさんが好きだと言っただけだよ」


ーーー胸のドキドキでルフレさんの声が聞き取れなかった。それでも彼はもう一度言う。今度ははっきりと、自分の気持ちを打ち明ける様に。


「名無しさん。僕は君が好きだ」

「ル、フレ…さ…」


何も考えられなくなる。彼から注がれる視線も言葉も全てが私の思考を停止させる。好きだと全身で言われているみたいで噴水の中かと疑う程に体が熱くなっていた。
私も自分の気持ちを伝えてもいいのだろうか。ううん、伝えたい。隠していたこの想いを…彼に。


「私もあなたが、ルフレさんが…好きです」


あれだけ避けていた私をまだ受け入れてくれるのだろうか。ほんの少し不安になる。が、その不安を取り除いてくれたのは彼。お礼を言いながら嬉しく笑うルフレさんは私を受け入れてくれたのだ。
良く考えれば私達は噴水の中で告白をしている。ム、ムードが無い…。


「は、早く上がりましょうか。服も乾かさないと…」

「名無しさん」


出ようとすれば水の音でルフレさんが動いたのがわかった。振り向いた所でルフレさんの手が私の後頭部に回り引き寄せられる。次の瞬間、唇を塞がれた。突然すぎて目を伏せていない私は至近距離で彼の綺麗な顔を見ているわけで。離そうとしても回された手が離してくれない。


「…ど、して…」


ようやく離してくれたものの頭は真っ白だ。なんとか出た言葉が問いかけ。先程のキスのせいか力が抜けてしまって逃げる事も無理だ。ルフレさんは一瞬顔を背ける。


「誤解させたのは僕だけど…名無しさんは避けていたから」


しかし直ぐに私に視線を戻す。それと同時に頬に触れてきて。濡れていて冷たい手に驚いてしまい肩が跳ねる。ーーールフレさんは意地悪く笑った。


「お仕置きだよ」

「え、待っ…んんっ!?」


私の言葉など聞かず再びキスをされる。この後彼のお仕置きで何回も何回もキスをされたのだった。…因みに周りにいた人々がバカップルと見ていた事を知らされたのは別の話。


ーーーーー

ぬねこ様リクエスト、言ってほしい言葉はルフレの『お仕置きだよ』でルフレ(男)夢でした。
内容は…簡単に申し上げますとルフレがルキナに告白していると誤解した夢主がルフレを避け、後にルフレが誤解を解き夢主に告白。噴水から出る前にルフレが夢主にキスをして誤解とはいえ避けていたからこの言葉を…でした!ぬねこ様、色々と変更をさせていただきありがとうございました。
普段奥手の感じですがやる時はやるルフレさん。今回は結構積極的にしたつもりです。意外に手がはや(ry
最後のお仕置きの部分は夢主羨ましい…とか思いながら執筆していました←
間違いなく見ていた人達は冷めた目でしたでしょうね。果たしてルフレは人がいる事を知ってて見せつける為にその場でしたのか、それとも知らずにしたのか…そこはぬねこ様のご想像にお任せで!
それではぬねこ様、三周年企画に参加していただきありがとうございました!これからも管理人共々、『黒猫の鈴』を宜しくお願いします!

※お持ち帰りはぬねこ様のみです。




 

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