『私は君の力になりたい』
戦いたくない。そんな想いがこみ上げて武器を落としてしまう。音で我に返った私は直ぐに拾ったがまた落としてしまう。武器を取れば目の前でスタンと剣を交わしている彼…リオンと戦う事になる。そんなの、嫌っ…!
「名無し、無理しなくていいわ」
「ルーティ…」
上から聞こえてきた声に涙ぐむ。彼女は私の気持ちを知っているからか優しく言ってくる。戦う事も皆を援護する事も出来ない私はまるで他人事の様にこの戦いを傍観するだけ。…でも。
「リオン…何で…」
私達が戦う理由はない。リオンだって命令されたからだ。それでも向かってくるリオンの表情は辛そうだった。私達と戦いたくないと物語っている。それでも私達に歯向かってくるのは…マリアンさんの為?…だとしても、お願いだからそんな顔をしないで。胸が痛むから、涙が出るから。
ーーー結果的に私達が勝った。それでも彼は剣を離しはしない。
「たとえ何度生まれ変わっても、必ず、同じ道を選ぶ」
「もういい、もういいからやめてっ!私は…私達は戦いたくない!」
どれだけ嘆こうが泣こうが彼には伝わらない。一瞬目が合ったけど…直ぐに目を伏せて厳しい目で私達を見た。動いたのは金髪の男性ーーースタン。彼は戦意が無いことを示す様に剣をしまった。そして言う。何故自分一人で抱えるのかと。
「友達ってのは苦しい時に助け合うもんなんだぞ…!どうしてそれがわからないんだよ!」
一歩一歩未だに剣を下ろしていないリオンに近づく。皆が危険だと止めるがスタンは止まらない。…大丈夫、スタンならリオンを止めれる。まだ間に合う。お願いリオン、これ以上剣を振るわないで。祈る気持ちで二人を見ているとやがてリオンの腕が下がった。
「リオン!わかってくれたんだな!」
「っ…良かった!」
「なっ…名無し!?何をして…」
「散々人を心配させた罰。スタンも言ってたけど、君は何でも一人で抱えすぎ」
涙は溢れて視界が潤む。だけど抱きしめている腕は離したくない。皆が見ていようがリオンの存在を確かめたいから。照れているのか体に力が入っているし言葉は少し慌てている風に聞こえるけど…決してリオンも私の事を離そうとはしない。
しばらくすると今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきてリオンから体を離す。
「ご、ごめん」
私ったら何してるの!?いくら嬉しかったからってリオンの事も気にせず抱きしめるなんて…!もう立ち去りたい…。
何気なくリオンを見れば私から顔を背けていた。頬が染まっているのが瞳に映ってますます恥ずかしくなる。後ろから誰かからかいの言葉を言ってるみたいだけど正直聞き取る余裕すらない。
一方スタンはもう一度リオンに近づいて手を差しのべる。仲直りの証、ってとこかな?彼もスタンの手を握った瞬間だった。突然地響きがして。この海底洞窟が崩壊するという事。しかも次には水が流れる音が聞こえた。ここに海水が流れているらしい。
「早く脱出しないと!」
ウッドロウがチェルシーに私達が来た道を見てくる様に指示をするが、チェルシーは直ぐに戻ってきて。どうやら塞がれていて戻れないらしい。万事休す…そう誰もが思った時、リオンが指をさした。非常用リフトがあるらしい。希望が見えたスタン達はそこに足を運ぶのだけど…私はいけなかった。嫌な予感がした。
「何をしている名無し。時間が無いのだぞ」
「わかってる、わかってるけど…リオンも来るよね?」
咄嗟にリオンの手を掴む。ここにいる彼が消える気がして不安になっていく。震えているのが伝わったからかリオンが握り返してくれるのに一向に不安は取れない。早く行けと私の背中を押す。胸を抑えながらもゆっくり歩いていく。…駄目、やっぱり行くのならリオンも一緒に。
振り向けばリオンは私とは違う方へ向かっていった。その先にはレバーが見える。つまりリフトを動かすのには誰かがレバーを引かなければならないという事。彼は自分を犠牲にして私達を助けるつもりなんだ。
「そんなの嫌!」
気づいた私は後ろからリオンを引き止めた。驚いた表情で私をスタン達の所へ行けと言うリオンに首を振る。絶対に行かない。そういう意味を込めて。私とリオンを見てスタンがこっちに来いと叫ぶ。そうだ、まずは言い合いをしている時間があるのならスタン達を脱出させないと。
「皆!私はリオンと必ず脱出するから先に行って!」
「何言ってるんだ!二人も早く…」
「大丈夫、私を信じて」
言うやいなや私は今はリオンの背後にあるレバーを引いた。ガタンと音がしてリフトが上へ上がっていく。洞窟だからか私達を呼ぶスタンの声がやけに響いた。…必ず戻るよ、君達の所に。
「貴様は馬鹿か!何のつもりでこっちに来たんだ!」
「私は君の力になりたい」
単純に好きだからっていうのもある。だけどそれよりも私はリオンを死なせたくない。離れたくない。リオンの力になれるのなら例え死が近づいてきていたとしても喜んでなろう。君の為なら命だってかけられる。だから今ここにいるのだから。
「そう思ったから来た。諦めないで私と一緒に脱出しよう」
「…スタンといい、お前もつくづく呆れた奴だ」
「うん、そうだね。スタンに似てるかも」
諦めない所とかが特に、ね。笑いながら言えばリオンもほんの少し笑う。こんな状況だけど…笑いあえるのが凄く嬉しい。
さて、問題はここからね。本当に時間がない。既に海水は地面に満ちていて靴の半分が浸かっている。少しすれば大量の海水が上から落ちてくるだろう。脱出しようなんて口にするのは簡単だ。実際方法なんてある訳がない。それでも諦めない。
「ねえリオン。ちょっとごめんね」
「うっ…!?」
考えているリオンのお腹に拳を入れる。気絶する彼の体を支えて地面に座る私。…方法は一つだけある。それは私が神様に頼むという事。元々この世界にトリップしたのは神様のおかげだ。あの人は言った。私が望むのなら願いを叶えてくれると。代償に旅が終わったら元の世界に帰るという約束は無くなる。永遠にこの世界に留まる事になる。
「それでも構わない。お願い、私と彼を助けて」
瞳を閉じれば何かが私を包み込む。きっとあの人が叶えてくれた証拠。帰れなくてもいい。私はリオンの傍にいたいの。だから…。無意識に彼にキスをする。ーーーそこで意識は途切れたのだった。
ひんやりとした風が頬を撫でる。寒いはずなのに誰かの腕に抱きしめられてるみたいで暖かい。誰…?
静かに目を開ければ草原。イマイチ状況が飲み込めず周りを見れば声が聞こえた。しかも近くで。
「起きたか」
「リ、オン?何でそんな近く…って、えっ!?」
驚く程近くにリオンの顔があってようやく理解出来た。私を包む腕は彼の腕。みるみる私の顔は赤くなったのだろう、それに気づいたリオンが腕を離した。立ち上がる彼を追うように私も立ち上がる。リオンが言う。私が寒がっていたから仕方なくああしただけで勘違いするなと。わ、わかってるけど…そこまで否定されると辛いよ。
どうやらリオンも目が覚めるとここにいたらしい。流石にスタン達の所へは送ってくれないよね。だけどありがとう神様。
「お前が何かしたのか?」
「んー、どうだろ?神様が助けてくれたのかもね」
私の返答にリオンはため息をつく。でも追求してこない所、それでいいと思ったのだろう。そう、理由なんてどうでもいい。今私達が生きている事。それが重要だ。
とにかく滞在していても意味がない為、私達は近くにいる街に行く事になった。スタン達もいるかもしれない。ならば急ぐぞと先に足を動かすリオンの隣に私も慌てて並ぶ。
「リオン。生きてて良かった」
「…突然何だ」
「別に?心から思っただけ。君が傍にいてくれる事がとても嬉しいの」
だから、ね?今度はいなくならないで。微笑みながら言えばリオンが私の手を掴んできた。緩く握られた手は緊張しているのか少し汗ばんでいた。人のことは言えないだろうけど、リオンの耳は赤い。顔なんて見なくてもいいと思うほどに照れてる。
「僕ならここにいる。名無しの傍に…いる」
「うん…うんっ!」
その言葉が胸に染みて目頭が熱くなる。私は握られている手を握り返し引っ張った。突然だったからかよろめくリオンを見て笑う。すると笑うななんて言われたけどね。例えこれから先辛い事が待っていたとしても…今は幸せだから、笑い合いたい。それにどれだけ辛い事があっても彼となら乗り越えられる。
「リオン!絶対マリアンさんを助けようね!」
「…当たり前だ!僕の足を引っ張るなよ、名無し!」
気持ちの良い風を感じながら、生きている事を実感しながら、私とリオンは走る。ーーー大切な仲間に、一刻も早く会うために。
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朔夜様リクエスト、言ってほしい言葉は夢主で『私は君の力になりたい』でリオン夢でした。
内容は…リオンが救済される甘夢…でした!PS版でリクエストされたのですが、私がPS2の方しかプレイした事がない為こちらにさせていただきました。私の都合に合わせていただきありがとうございました。
初めに説明させていただきます。夢主の事です。どう救済するか悩みに悩んだ結果、夢主をトリップ夢主にして更に神様に頼むという事に…。勝手に設定をつけてしまい申し訳ございません。
リオンはですね…夢主が好きです(え)
お互い好きだけど口にはしません。寧ろ言わなくてもわかるだろって感じです、この二人。まあその内坊ちゃんは言うと思いますけども。
元の世界に戻れなくなった夢主ですが後悔は一切してないです。リオンを助けれたからいいの!みたいな。結構サバサバ。
それでは朔夜様、三周年企画に参加していただきありがとうございました!これからも管理人共々、『黒猫の鈴』を宜しくお願いします!
※お持ち帰りは朔夜様のみです。