『それはアリーシャが決める事だ』

 
 
 
 
 
ボールス遺跡から戻ってきた俺達は休憩の為に宿屋にいた。加護のおかげですっかり清純になったマーリンド。もう穢れはどこにも感じない。いやー、良かった良かった。
…なんて思ってる場合じゃないか。今は他の事を考えないとな。


「変異憑魔は倒せた。けどその後が問題だったんだよな」


倒れた変異憑魔に油断していた俺達も悪かった。スレイに最後の悪あがきなのか攻撃をしようとしている事に反応が遅れた俺達。スレイを庇ってアリーシャとミクリオが代わりに攻撃を受けてしまったのだ。


『スレイ、近くにいたお前なら普通わかるだろ』


アリーシャが傷を癒されているのを見ながら俺はスレイに訊く。別に責めたかった訳じゃない。ただどうしても気になったのだ。この頃視野が狭くなったのかと疑う程に相手の攻撃を受ける回数が増えたから余計に。
答えたのはエドナだった。見えていないのではないか、と。初めは意味がわからなかった。そんな俺に説明するライラ。霊応力がスレイと同等程ではないアリーシャを従士にした反動でスレイの片目が見えなくなったのだと。…ホント、何で俺に言わないんだよバカスレイ。言ってくれたらフォローするのに。


「しかもアリーシャ…絶対聞いてたよな…」


意識を失っていたアリーシャは直ぐ目を覚ました。だが明らかに様子がおかしかった。そんな彼女を気にしつつもここまで戻ってきたんだが…様子を見にいった方がいいかもな。
行動に移すのにベッドに寝転んでいた体を起こす。一度伸びをして立ち上がろうとすればノックの音。遠慮がちのノックに誰が来たかわかった俺は相手を迎える為に扉の方へ歩き開いた。


「よっ、アリーシャ」

「あ…名無し…」


そこにいたのは俺達の仲間であり、まさに今悩みの原因だった一国のお姫様…アリーシャ。俺の姿を見ると「突然すまない」なんてぎこちなく笑った。無理矢理笑わなくていいのに。胸が痛むだろ。
俺の所に来たのは何か用があったから。推測した俺はアリーシャを部屋に入る。ベッドに座る俺と机の近くにある椅子に座るアリーシャ。しかし会話はゼロ。沈黙が続く。


「…あー、その、アリーシャ?どうしたんだ?」


ずっと沈黙は辛い。だからしびれを切らして訪ねてみた。が、アリーシャと視線が交わる事は無い。声をかけても俯いているだけで。困った俺はどうすればいいか頭を掻きながら考える。彼女は俺に相談する為に来たのだけどやっぱり躊躇っているのだろう。


「スレイの目の事か?」

「!」


自分の考えが見抜かれた事に驚いたアリーシャは顔を上げる。漸く視線が交わった事に嬉しさを感じて思わず笑みがこぼれる。アリーシャも「何でもわかるんだな、名無しは」なんて笑う。そりゃあまあ、仲間の事ならわかるよ。そう威張りたいけど実際は違う。本当に仲間の事がわかっているならスレイの目を気づいていたはずだ。つまり言い方は悪いがアリーシャがとてもわかりやすい態度を出しているからで。


「私は…スレイ達と別れようと思う。これ以上スレイの負担になりたくない。今まで何度も助けてもらったスレイに迷惑をかけたくないんだ」

「…そっか。それがアリーシャの出した答えならいいと思うぜ」


懸命な判断。今回はあの程度で済んだが、このままスレイの傍にいると最悪命を落としかねない。だから従士をやめればいい。そしてあいつから離れたらいい。きっとアリーシャはそう思ったのだろう。…けどな。


「ーーーって言うと思うかよ」

「え?」


一旦立ち上がりアリーシャの手を引く。力が入ってなかったアリーシャをこちらに引き寄せるのは簡単。そのまま自分の隣に座らせた俺は彼女の目を見る。恥じらいと戸惑いが混じった瞳。至近距離で見つめあっているから俺も結構ドキドキしているんだけど。


「アリーシャ。それはお前の本心かもしれない。だけどもう一個あるんじゃないか?…スレイ達と一緒に行きたい、っていう気持ちが」

「それはっ!」


勿論ある。多分そう言おうとした口を慌てて閉じるアリーシャ。言わなかったのはせっかくその気持ちを抑えていたのに口にすれば止まらなくなるからって所か。俺が彼女の立場ならどうしているのだろうか。
アリーシャは今にも泣きそうな表情で俺にどうすればいいのかと救いを求める。スレイの事を想うなら本人がどうこう言おうが従士をやめた方がいい。でもスレイと一緒にまだまだ旅もしたい。あいつの傍で穢れのない世界を見てみたい。どちらも自分の本心だから尚更葛藤するアリーシャの肩は震えていた。


「それはアリーシャが決める事だ」


まるで彼女を更に追い詰める様な言葉。しかし実際最後に決めるのはアリーシャだ。それでもまだ俺に救いを求めるのなら彼女を見捨てる。俺の言葉で左右される程の気持ちだったという事だから。
俺の顔を見ては目をそらす彼女の肩に触れてグッと自分の方へと引き寄せる。


「だけど俺は…どっちを選んでもアリーシャの気持ちを尊重するから。それだけは覚えててくれ」


彼女の瞳をしっかり見て笑う。アリーシャが一緒に旅をすると決めたのなら俺はスレイが危ない目にあわないようにフォローする。逆に旅をしないと決めたのならアリーシャと会った時にでも彼女を支えてあげたい。どちらにしろ俺はアリーシャを助けてあげたい。


「名無し…ありがとう」


吹っ切れたみたいだ。潤んでいるものの、アリーシャは涙を流そうとはしない。別に泣けばいいと思うんだけどなぁ…。まあ泣きたくないのならそれはそれでいいんだけど。
大丈夫そうだから肩から手を離せばアリーシャが立ち上がった。なんていうか慌しく?で、どこか顔が赤い。…あー、やっぱ肩を抱くのはまずかったか。


「ごめんなアリーシャ」

「い、いや…大丈夫。本当にありがとう名無し。君に頼らずもう一度考えてみるよ」

「アリーシャ!」


そそくさ部屋から出ようとドアノブに手をかけるアリーシャを慌てて止める。この言葉が彼女の選択を揺るがせるかもしれない。それでも伝えたかった。俺の想いを。


「俺はアリーシャが好きだ。何があってもお前の味方だから。遠慮なく頼ってくれ」


大した事を言えないかもしれない。だとしても俺はアリーシャの味方だし、出来る事なら支えていきたい。大切だから。…向こうは一国のお姫様だ。俺の想いを受け取る事は出来ないだろう。それは勿論承知している。それでも諦めるなんて俺はしない。
返事は返さず微笑みだけを残してアリーシャはついに出ていってしまった。俺はなんとなく口を手で覆いながらも天井を見る。


「俺がスレイだったらな…」


立場が違うからああは言ったが、例えば俺がスレイの立場だったとしよう。彼女が傷つく事になっても傍にいさせたい…そう思う。ハイランドの為と頑張っていても彼女は良い対応を受けていないのだから、尚更。


「…傍にいてくれ、なんて…言える訳ない…」


彼女の気持ちを尊重したいのに…引き止めたい。そんな欲望を抑える為に俺は無理矢理眠りについたのだった。彼女の肩を抱いた時に感じた暖かさを忘れない様に、自らの手を抱きしめて。

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レキ様リクエスト、言ってほしい言葉は夢主で『それはアリーシャが決める事だ』でアリーシャ夢でした。
内容は…ボールス遺跡で自分のせいでスレイの目が見えなくなった事に負い目を感じて一行と離れるべきか悩んで夢主に相談する、でした!
少しレキ様が書かれていた悩みとは違ってしまいましたが、アリーシャの葛藤は書けたと思います。
まあ夢主の想いは儚く散ります。結果的にアリーシャはスレイから離れますからね。
アリーシャは夢主の事を好きかどうか。曖昧にしてみましたが、そこはレキ様のご想像にお任せします←
それではレキ様、三周年企画に参加していただきありがとうございました!これからも管理人共々、『黒猫の鈴』を宜しくお願いします!

※お持ち帰りはレキ様のみです。




 

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