特等席

 
 
 
 
 
今日は野宿。色々と回っていたら時間が遅くなり、街まで帰る気力すら無かったからだ。とにかく一旦ご飯にしようと考えた私達は持っていた食材で簡単な物を作る。そしてそれぞれ座ったのだが。


「…おい。いつまでこの状態のつもりだ名無し」

「そりゃあいつまでも」

「ふざけんな!」


デコピンされた。痛いなぁと思いながら額をおさえるが離れるつもりはなかった。座るとなると私は絶対にデゼルの隣に座ってくっつく。相手が食べていようが私には関係ない。


「ロゼ、こいつと場所を変われ」

「絶対退かないから。わかってるでしょロゼ」


ロゼを見ればはいはいと言うようにため息をついて再び止めていた手を動かし食べ始めた。そんなロゼにデゼルは舌打ちをして、なら自分がと立ち上がった。しかし当然ながら私もくっつきながら一緒に立ち上がって少しの間。デゼルが怒った。あ、既に怒ってたからまた、かな?どちらにしろ怒られた。


「名無し、離れてあげたら?デゼル困ってるし」

「やだ。スレイもこの場所取ろうとしているでしょ。でもここは私の特等席だから!」


スレイに言えば「仲良しだなぁ」と笑ってくる。ふふふ、漸く私とデゼルの仲の良さに気づいたか。まあ私達はラブラブカップルですから。どーよ羨ましいでしょ皆。とか決めてたらエドナに鋭いツッコミを入れられた。


「あなた達まだ付き合ってないでしょ」

「当たり前だ。俺がこいつと付き合うなんて確実にない」

「ちょっとは夢を見させてくれませんかね?」


つかデゼルまで便乗しなくていいわ。真顔で的確に言ってくる二人につい私まで真顔で返してしまったわ。別にいいじゃん言うくらい!本当にデゼルの恋人にならなくても言うならタダでしょ!タダより良いものなんてないよ!?


「付き合ってられないな…。僕は先に寝るよ。おやすみ」

「私もお先に失礼しますわ」

「ちょ、皆ひど…って直ぐに寝るなあああああ!何なのこれ!新手の虐め!?」


全員が寝る体制に入り私の事など完全にスルーして寝た。残されたのは私とデゼル。理由はどうあれ二人きりだね、なんて少し恥ずかしいものの伝えたらデゼルが消えた。あまりにも突然すぎて「は?」と口が悪くなってしまう私。え、デゼルは何処にいったの。いくら私と離れたくて消えたとしても普通に心配するよ!?


「早く寝ろ」

「…なっ、木の上…だと…!?」


声が聞こえた方に顔を向ければデゼルは木の上にいた。あーもう、流石に私でも木の上は無理。無理にでも登ろうとしたら絶対煩いから皆起きるだろうし。仕方なく私はデゼルがいる木に背中を預けて座り目をつぶった。


『じゃあな。そのままでガンバレよ』


ーーー夢を見た。今までに見せた事がない笑顔でロゼに優しく話しかけていて、霞んでいた瞳は綺麗になっているデゼルが何処かに行ってしまう夢。まるでもう会えないといった表情の彼に私は必死に手を伸ばす。でも届かない。名前を呼んでも遠くなる一方で。やだ、いかないで…!デゼルがいなくなるなんて私っ…!


「名無し」

「…あっ…デ…ゼ、ル…」


目を開ければ目の前にデゼルがいた。どうやら私は魘されていたらしい。気になったデゼルはわざわざ降りて私の傍に来てくれたみたいだ。…最悪だ。デゼルがいなくなる夢なんて見たくなかった。


「魘されていたなんてよっぽど悪い夢見てたんだね私。でも夢の内容全く覚えてないけど!」


笑顔を作って嘘をつく。覚えてない訳が無い。今でも鮮明に思い出す。だからこそデゼルの傍にいるのは嫌だった。今デゼルの傍にいたら絶対に泣いてしまう。泣くなんて意地でも嫌だ。デゼルから距離をとって歩き一人で座った。時刻はまだ夜中。なのにすっかり夢のせいで目が覚めてしまい寝れなかった。はぁ、と深いため息をついて俯いた瞬間。


「…デゼル?」


気配を感じて隣を見ればデゼルがいた。何で?と訊いても答えないデゼルに変な所で優しくするのはやめてほしいと思った。心配してくれてるのだろうけど、この状況で優しくされると本当に泣いてしまうから。膝を抱えて俯けば頭に触れたのは大きい手。乱暴で、でもどこか優しさがある撫で方に動けない。


「お前は馬鹿か」

「…何急に。言われなくてもわかってるし」


いつもより冷たく言ってしまうのは嘘を言うのを諦めたから。デゼルには既にバレているみたいだし。顔を上げないまま声が震えない様に言えばまたデゼルの声が聞こえた。


「俺の隣に来い。…その為に名無しが言う"特等席"があるんだろうが」

「!」


デゼルの言葉に漸く顔を上げればこちらを見るデゼルが映った。…あーあ、本当ずるい。こんな事言われたら泣くに決まってる。その証拠に涙が頬を伝っていくし。とりあえず本人が言ったんだから甘えさせていただく。隣にいるデゼルに泣きながらもくっつけば嫌がらない。


「わかった。じゃあ辛い時でもこの特等席に来るね」

「そうしろ」

「…ありがとう、デゼル」


あの夢は何だったのかは知らない。…今はただ、この特等席にいて幸せを感じていよう。あれはただの夢だと思わせるように。…いなくならないでね、デゼル。


_____

key様リクエスト、テーマが"特等席"でデゼル夢でした。
悪夢を見た夢主を心配して傍にいてくれるデゼル。いつも言う特等席は何なんだと伝えるデゼル。結局は夢主の言う特等席が満更でもないデゼルです。
そして夢主に対する扱いが酷い仲間達。ですがまあ何だかんだで応援しているのです、スレイ達も。
key様、5万打記念に参加していただき、ありがとうございました!気に入らなければ遠慮なく仰って下さい!

※お持ち帰りはkey様のみです。
 
 
 
 
 

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