約束
「大丈夫ですか?」
「名無し、もう少し警戒して…」
「困ってる人を放っておけるわけないでしょ」
何やら俯いている男性に話しかければミクリオが私に注意してくる。しかし私はお構いなくその男性に話しかけた。「全く君は本当にお人好しすぎる」と頭を抱えるミクリオに舌を出して再び男性に話しかけた。どうやらこの先のヴァーグラン森林で妙なものを見かけたらしい。
「恐らく憑魔ですわ」
「とにかく!困ってるみたいだし」
「「早速浄化しに行こう!」」
ん?と同じ言葉を発した相手をお互いに見る。私の瞳にはスレイ、スレイの瞳には私が映った。やっぱりスレイだったんだ。
「考える事は一緒だね。スレイはお人好しだなぁ」
「それ名無しには言われたくないんだけど…」
「安心しなさい。あなた達は同じくらいにお人好しよ」
エドナに呆れたように言われるし、ロゼには頷かれて私達は顔を見合わせて苦笑した。
そしていざヴァーグラン森林にいけば本当に憑魔はいて武器を構える。まずはスレイと私が先頭を切った。続けてミクリオとライラが天響術で援護してくれて憑魔は怯む。勿論見逃す訳が無い。
「地竜連牙斬!」
「散沙雨!」
一気に私とスレイが叩き込む。すると憑魔は浄化され消えた。ふうっ、と息を吐いて武器をなおす。「お疲れ名無し」と私に笑いかけるスレイに頷こうとしたのだが。
「スレイ危ないっ!…っ、い…」
「名無し!?」
「ザビーダ!」
『千の毒晶!』
スレイの後ろから新しく現れた憑魔からスレイを守り自分が攻撃を受ける。痛みに顔を歪ませながらも憑魔を見ればザビーダと神衣したロゼが憑魔を倒していてひとまず安心する。直ぐにライラ達が私に駆け寄って天響術をかけてくれている為痛みが和らぐ。
「何で庇ったんだよ!」
「庇ったのに文句言われるのはおかしいよスレイ」
「オレが名無しを守るはずだったのに…ごめん」
死ぬ訳でも無いのに今にも泣きそうなスレイに私は笑ってしまう。なんて言うんだろう、こんな状況なのに大事にされてるんだって思ったら嬉しくなる。変なの。
「約束してくれ。これからは無茶しないって」
「スレイが危なくなったら守ってしまうから、その約束は無理かな」
「名無し!」
「じゃあスレイも約束して。…ずっと、私の傍にいるって」
きっとこの約束は果たされる事はない。ミクリオに聞かされた言葉が今でも蘇る。スレイは深い眠りにつく。だから果たされる事はない。それでも約束してほしい。嫌だった。スレイが傍にいなくなるなんて考えたくない。目覚めると言っても何十年、何百年かかるかもわからないのに。傍にいてほしい。このままずっと。
私の言葉にスレイは驚いた。…でも、どこか悲しそうに笑って私の手を掴んで自分の頬にくっつける。
「…うん。約束するよ」
…ああ、やっぱり果たされない。ごめんねスレイ。そんな辛い表情をさせたかった訳じゃないのに。ごめん。
一粒の涙が頬を伝う。気づいたのか気づいていないのかスレイも「ごめん」と謝ってきた。首を振る。謝る必要なんて無い。スレイが決めた道だ、間違ってはいない。
「約束、だからねスレイ。破ったら許さないから」
「名無しも、だよ」
せめて今だけは傍にいてスレイ。こんな幼稚な約束を直ぐに破らないでほしい。…あなたが、好きだから。だから傍にいて。なんて言えばスレイは困るから、だから伝えない。そっと蓋をする。
傷を治してもらい、念のため街に戻ろうと言うミクリオに私達は頷いた。ザビーダとロゼに支えられながら歩き出す。
「…スレイ」
「言うなミクリオ。わかってるから。…ごめん、名無し。破る事になるけど、オレはーーー」
名無しが、好きだ。風の音に紛れたスレイの言葉は私には届かなかった。
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朔夜様リクエスト、テーマが"約束"でスレイ夢でした。
終盤からなんか段々シリアスになってきてなんだか変な感じですが。
スレイから言った約束は果たす事が出来ます。夢主が無茶をしない限りは。但し夢主から言った約束は書いた通り果たされる事は無いです。夢主が天族じゃない限り。夢主の設定は朔夜様に任せます。
朔夜様、5万打記念に参加していただき、ありがとうございました!気に入らなければ遠慮なく仰って下さい!
※お持ち帰りは朔夜様のみです。