すれ違い

 
 
 
 
 
今日は大好きな人と出会う大切な日。導師だから忙しい彼と前々から決めていた日。楽しみで楽しみで子供みたいに朝早く目覚めた私はレディレイクの宿から飛び出した…のだが。ちょっと待って。良く考えたらどこで集合とか言ってなかったよね。え、どうしよう。…と、とりあえず何時かはわかっている訳だし、ブラブラしておこう。


「…ん?アリーシャだ」


そこで目に映ったのはアリーシャの姿。湖の乙女の聖堂を見上げていた。私は後ろからアリーシャに声をかけると振り向く、と同時に驚いた表情になった。


「名無し。スレイと会わなかったのか?」

「え?だって時間まだだし…」

「…先程スレイと会って名無しが何処にいるのか私に訊きに来たのだが…」

「じゃあスレイはもう来てるの!?」


こんな朝早くに!?嬉しいけど無理してなければいいなぁ。
アリーシャから聞いた私はどちらに向かって歩いていったのかを訊けば貴族街の方へ向かったみたいでアリーシャにお礼を言い直ぐに足を動かす。早く、早く会いたいっ…!
ところがだ。神様の悪戯かよくわからないが素晴らしいほどスレイと会わない。しかも人に訊く度にスレイは宿屋に向かったとか湖の乙女の聖堂に向かったとか明らかに私と反対の方にいて、いざそちらに向かえば今度は私がさっきまでいた所に向かったと言われた。


「つ、かれ…た…」


流石にずっと走っていたら疲れが凄まじい。もうとっくにスレイと会う時間は過ぎているし、気づけば夕方だし。朝から今の時間まで走っていたらお腹だってすくしそりゃあ絶対に疲れるよな。うん。…でも今はとにかくスレイに会いたいよ。疲れとかお腹がすくとか言ってられない。大体何なのこのすれ違い。少女漫画じゃないんだから早く会いたい。じゃないと。


「…っ…馬鹿、泣くな私…!」


堪えていた涙が溢れてしまった。一度涙が出れば止める事など出来るわけがない。何度も拭うがただただ手が濡れてしまうだけだ。怖いんだ。このままスレイに会えずにこの日が過ぎればまたしばらく会えなくなるから。今日だってスレイに無理言って作って貰った日なのにこんな目にあうなんて。とっくにスレイは仲間達と何処かへ行ってしまったかも知れない。
悪い事ばかり考えてしまって余計に涙が出てくる始末。聖堂の目の前で泣いていれば街の人達が心配して私に近寄ってきたが途中で踏みとどまった。理由はわからない。何?と思っていると。


「名無し!」

「!」


不意に後ろからギュッと抱きしめられた。この力強さと…何より声でわかる。ああ、大好きな彼だ。ずっとずっと、会いたかった人だ。


「やっと見つけた…。オレ、このまま会えないと思っ、て…」

「スレイ!会いたかったよっ…!」


スレイの腕の中から抜け出して正面から抱きしめれば驚いたのか動きが止まった。しかし私はスレイも私と同じ気持ちだったという事と、ようやく会えたんだと思ったらもっともっと涙が溢れていた。きっと私の顔はグチャグチャだ。私の涙で濡れるのにスレイは私を抱きしめる。


「うん、オレも会いたかった。でも何処に行っても名無しとはすれ違うから…。宿屋とかで待っててくれたら良かったのに」

「今日が終わったらしばらく会えなくなるんだよ?だから…」

「会うよ。今日会えなくても会えるまで名無しを探すつもりだったから」


顔を上げればいつになく真剣なスレイに胸が高鳴る。こ、こういう所がずるいんだよね。顔が赤くなって仕方がないよ。
スレイの顔が近づいてきて涙を止めるようにキスをしてきて擽ったい。頬に手が触れて私も目を閉じた。しかし。


「良い所悪いんだけどさ、周りを見た方がいいよ」

「ロ、ロゼ!…あ」


ロゼさんの声が聞こえて慌てて離れるものの周りには既にキャーキャー騒いでいる街の人達がいた。そうだ、ここはレディレイク。しかも聖堂の前だし皆がいるのは当たり前だ。街の人達は「何でやめたのー!?」とか「キース!キース!」と私達を見て盛り上がっていて急激に恥ずかしくなってきて私は耳を塞ぎたくなった。


「い、一旦ここを離れよう!ロゼは後で来て!」

「わかった。…二人共、ごゆっくりー?」


ロゼさんがニヤニヤしながら私達を見て見送る。スレイに手をひかれるまま走っていれば途中でスレイが止まったから私も足を止める。首を傾げていれば「名無し」と呼ばれてーーー。


「…ス、スレイ!」

「さ、さっきの続き!」


今度こそキスをされて再び走る私達。きっと両方共顔が赤かったに違いない。…すれ違いもたまには良いかもしれない。会える嬉しさが増すから。だからね、ほら。


「スレイ」

「!」


スレイを引き止めて背伸びをして私からキスをする。こんな風に自分からキスなんて絶対しないから。
更に顔を真っ赤にするスレイに私は笑ったのだった。

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神田莉璃亜様リクエスト、テーマが"すれ違い"で切甘スレイ夢でした。
まず切甘じゃないですね。本当に申し訳ないです。
肝心なテーマのすれ違いですが…何処ぞの少女漫画。いやあのですね、レディレイクって結構広いと思いますからね、こういう時もありますよ!(言い訳)
神田莉璃亜様、5万打記念に参加していただき、ありがとうございました!気に入らなければ遠慮なく仰って下さい!

※お持ち帰りは神田莉璃亜様のみです。
 
 
 
 
 

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