敵対

 
 
 
 
 
旅船ペリューン。俺は自分の仲間である奴等が一般市民を殺している場面を見ていた。血が飛び散り目を開けたまま死んでいく人。女や子供でも容赦しない。…全く嫌になるぜ。いくら何でもあいつが何をするのかを知る為にこんな残酷な場面を見るなんてな。まあ見るだけじゃないんだけど。


「ひっ…助け…」

「わりーな。今の俺は殺さないといけないんだよ」


背中を向けて逃げようとする女に剣を刺す。せめて一瞬で逝けるように的確に心臓に刺した。ドサリと地面に倒れれば地面が血で染まっていく。…こりゃあもうあいつらの元に帰れねぇな。きっとあいつらだって人を殺す俺と一緒にいるのは嫌だろうし、俺自身も嫌だから。自分が選んだ選択だ。これで良い。あいつが何をするのかを知った今、俺がする事は一つ。


「名無し…?」

「…噂をすれば、か。よっ、ルドガー」


驚いたルドガーが俺を捉える。後ろにいたミラ、ジュード、アルヴィン、それからエルも俺を見て驚く。答えは簡単、俺がここにいるとは思ってなかったからだ。いきなり皆の元から消えたと思ったら血で染まったままここにいて。驚かない訳が無い。


「あなたまさか」

「おう、当たりだミラ。俺が殺した。因みにもう何人も殺してるぜ」


俺の武器と服、側で倒れている女を見てミラは言った。素直に俺が殺ったと告げればジュードが拳を作り何でだと訊いて来た。


「俺はアルクノアの一員になったんだよ。だから殺るのは当たり前。で、お前らがここを通ろうとするのなら止めるのも当たり前」

「…それが名無しの本心なんだな?」

「ああ。悪いな、これ以上お前らに進んでほしくないんだ。特にミラには」

「え?」


アルヴィンの言葉に返しながらミラを見れば俺の一言に戸惑っているミラが見えた。…まあ俺が言ってもこいつらは絶対に歩みを止めない。仲間だったからそれくらいはわかる。だったら俺は全力で止めるまでだ。せめてミラだけども。今のミラを消させない為にも。


「エル、下がってろ」

「ルドガー…名無しと戦うの?」

「向こうが戦うつもりなんだから仕方ないでしょ」


私だって本当は嫌よ。そう小さく聞こえた呟きを俺を聞き逃さなかった。…サンキュな、ミラ。お前のその言葉が嬉しいよ。少なくとも嫌われてなかったという事だから。
武器を持つ手に力を込める。そしてルドガー達と戦った。ーーー結果、俺は負けた。地面に倒れるとルドガーは俺に謝り進んでいく。ジュードにアルヴィン、エルも俺の事を気にかけながらも進んでいった。残ったのはミラ。


「…何で私には進んでほしくないなんて言ったのよ。何で裏切ったのよ。答えなさい名無し」

「止めたかったんだよ。…理由は教えられないけどな」


出来る事なら今直ぐにでもミラを連れ去ってしまいたい。けど俺の体は指一本動かせない程にボロボロな為ただ話す事しか出来ない事がもどかしい。…だからせめて、これだけは伝えたい。


「ミラ。お前が死んだら悲しむ奴がいるって事は忘れないでくれ。言っとくけど俺は悲しむからな」

「何よそれ。まるで私が死ぬみたいな言い方じゃない」

「ムカつくだろ?だったら生きろ」


イラついたミラに俺は言う。…ごめんな。俺がどう言おうが今のミラがいなくなるのは変えられないんだ。止められなかった俺がミラを殺すようなものだな。それでも言いたい。伝えたい。


「ミラ、お前は一人じゃない。ルドガーやエル、それから俺も"お前"がミラなんだよ。だから一人だと思うな」

「…名無し」

「なんて俺らしくねーな。ほら、さっさと行け」


くっそ、なんか恥ずかしくなってきた。ミラから目を逸らせば無理矢理俺の顔を引き寄せてきた。何だよ、と言うのもつかの間ミラの唇が俺の頬に触れた。ほんの一瞬だったがポカーンと口をあけているとミラが立ち上がって。


「も、戻ったら言いたい事があるわ。それまで何処かで休んでいて」

「ちょ、待てミラ!…あーくそ、何だ今の…」

「裏切り者め」


そのまま去っていくミラを追う事など出来ない。いきなりのキスだから無性に顔が熱くなるのをどうにかしたいと思えばアルクノアの奴等の声が聞こえて胸に何かが突き刺さった。口から吐き出す血と、胸に刺さっている剣を見て俺は再びミラに謝った。
戻るも何も、ここで死んでしまうなミラ。止められなかったのは本気で悔しいが、伝えたい事は伝えた。だから俺はもういい。…贅沢言えばもう一つ伝えたかった。俺は…お前の事、が…。


「……き…だ…」

ーーー俺の言葉も、ミラが言いたかった事も、お互いに届く日は来なかった。


_____

煉月様リクエスト、テーマが"敵対"で分史ミラ夢でした。
敵対と言うべきなのかわからないのですがこんな感じで如何でしょうか。すみません、正直難しかったです。
ミラ夢なのにあまりミラと絡ませていないのが気がかりです。あとエルとも。
結局夢主も相手のキャラも死んでしまうという暗さは初めて書きました。
煉月様、5万打記念に参加していただき、ありがとうございました!気に入らなければ遠慮なく仰って下さい!

※お持ち帰りは煉月様のみです。
 
 
 
 
 

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