「失礼します、実優様」


自分の部屋に入れば直ぐに制服からひらひらなドレスに着替えさせられる。制服は雨のせいで濡れたと誤魔化した。…いつもは髪の毛を引っ張られたりとか愚痴を言われたりとかだったから良かったけど今回は雨が降らなかったら確実にお母様やお父様、執事やメイド達にバレていた。雨に感謝しないと。絶対に皆に知られたくない。わたくし自身言いたくもないもの。知られたら同じ身分が通う学校に行かされる。そんなのは嫌だわ。
ベッドに座り毛布の中に入れば一気に体が重く感じた。不思議に思っているとメイドが気づいて体温計を持って測ってきた。見れば完全に熱。水をかけられた挙句、雨でもっと濡れたまま帰ってきたからだろう。熱だとわかった途端寝転ぶ。


「このままだと明日は無理ですね。奥様と旦那様に伝えておきます」

「ええ…お願い。わたくしが治るまでは入らないでと伝えて。当然あなた達も入らないで。移したくないから」

「ですが」

「熱の時ぐらい一人にして」


移したくないから嫌だというのもあるが、こちらが本音だった。家の中だといつも誰かが傍についている。友達ならいい。だけど執事とメイドが傍にいると嫌でもわたくしがお嬢様だと実感させられる。だから例え妬まれようが意地悪されようが学校にいた方がいい。
メイドはわたくしには良く分からない表情をし、タオルを置いて「失礼しました」と頭を下げて出ていった。


「…きつく言いすぎたかしら」


わたくしらしくない、と思った。普段なら本音なんて言わない。嫌々ながらも大人しく執事やメイドがやる事にされるがままだった。…原因は今日の先輩と先輩の彼氏かはわからないけど水をかけてきた男性だと思う。基本的に先輩方はわたくしには言うだけで済んでいた。少なくとも今日みたいな行為はしなかった。きっとお母様やお父様にバレたら何かされると恐れているからだろう。しかし今回の先輩は余程わたくしの事が嫌だったのか手をあげようとし、更には男性を呼んで水をかけてきた。自分が望んであの学校を選んだのだから文句を言う筋合いなどわたくしには無い。だから何も言わない。だけど。


「やっぱり男の人は苦手だわ…」


お父様や執事以外の男性とは出来れば関わりたくもないし話したくもない。幼い頃からお父様や執事以外の男性が苦手だったから。わたくしに話しかけて来なかったら何も思わないのだけどあの男性はわたくしにものを言ってきたし、近くにいたから本当に駄目だった。男性が苦手だったから女子校にしたのに。


「…疲れた」


喜ばしい事に熱だから明日は何も出来ない、わたくしが言ったから人も入ってこないのだからゆっくり休もう。目を閉じて意識が遠のくまま思う。たまには長い夢を見てみたい。このまま熱が治るまで眠り続けたいと。


「ーーーこれは、夢?」


今思えば、わたくしはあなたに会う為に長い夢を見たいと願ったのかも知れない。…なんて、思ってしまうわたくしをあなたは笑うのかな。
ーーーさあ、長い様で短い夢の物語を始めようか。
 
 
 
 
 
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