放課後になった。今日は平日の終わりの為明日は休日。しかしわたくしにとっては平日が休日だった。何故なら本当の休日の時間はほとんどダンスや食事のマナー、更にはピアノや色々といかにもお嬢様がやるような事を教えられるからだ。逃げるなど出来ない。お母様がいつか出会う殿方に恥じない様な女になりなさいと口を酸っぱく言ってくるからだ。だからわたくしは嫌なものばかりされる休日が嫌だった。だったら平日に学校へ行って家に帰って寝るだけの生活の方が全然良い。もしくは絵を描きたい。


「なんて考えてても仕方ないですけど…」


こんな事ここにいる生徒からしたら羨ましがる人は羨ましがるだろう。代わってほしいものだ。
いつもの二人は今日は部活だからと一緒に帰れない。だから余計に気分が沈んでいく。深いため息をついた。運が良かったのか悪いのかわからないがクラスの皆はもう教室にはいなかった。わたくしも早く帰ろう。ずっとここにいたら執事達が迎えに来る。それだけは絶対に嫌だもの。鞄を持った瞬間。


「ねーえ、お嬢様ー?ちょっと来てくれない?」


不意に教室の扉から声が聞こえた。そちらに顔を向ければ…制服のリボンが三年の色の為わたくしの先輩だと直ぐに理解する。…やっぱり早く帰れば良かった、と後悔しても遅い。逃げるなんて不可能だ。ここで逃げれたとしても次の週にされる。だったら早めに用事を済ませた方が早いと毎度の事ながら思ったわたくしは鞄を持ったまま先輩についていった。


「毎回言うけどさー。何でお嬢様がいるわけ?早く出てってくれない?目障りなの」


ついていって着いた場所は学校から出て少し離れた所にある子供が遊ぶ公園。だけど今は誰もいない公園。良かった、と思う。この様な光景を子供に見せたくなどない。空を見れば雨が降りそう。…しまった、傘を忘れてしまったわ。早く話を聞いて帰らないと本当に執事達が心配して迎えに来る。


「ちょっと!聞いてるのあんた!」

「え?ああ、すみません。何です?」

「いい気にならないで!お嬢様の分際で!」


先輩の手が上がってわたくしを叩こうと振り落としてきた。反射的に目をつぶってしまったのだが直ぐに驚きのあまり目をあけてしまった。冷たい何かが上から降ってきたのだ。おかげでわたくしは全身びしょ濡れになった。何事かと思いそのまま動けないでいると。


「びしょ濡れのお嬢様ー!いやー、少しは可愛くなったじゃん」


不意に聞こえた声にピクリと肩がはねる。男性、だ…!近くにいるとわかったわたくしは直ぐ様距離を取る。すると持っているバケツを揺らしながら面白そうにわたくしを見る男性。恐らくバケツに水を入れてわたくしに落としてきたのだろう。
先輩が男性に抱きついてわたくしを睨む。「この程度で許してあげるわ」と本格的に雨が降る前に先輩は男性と何処かへ行ってしまった。わたくしは先輩と男性の姿が見えなくなるのを待った。空から降るポツポツと落ちる雨がやけに冷たく感じる。


「…わたくしだって、好きでお嬢様になった訳じゃないのに」


言い返すなどはしないがあの様にされた時は何度も今の言葉を発してしまう。確かに先輩からしたらお嬢様が同じ学校にいるのは嫌かもしれない。だけどわたくしだって周りが自分と似たような立場がいる学校にいるのは嫌だ。わたくし自身お嬢様というのが嫌いだもの。お嬢様、という立場をやめたい。しかし所詮は叶うわけのない夢みたいなものだ。


「…帰ろう」


段々と雨の勢いが強くなってきた。結局帰る時にわたくしが予想した通り本格的に降り始めてただでさえ濡れている制服が余計に濡れてしまった。寒いと感じながら家に着けば今にでもわたくしを迎えに行く為か車に乗る執事達が見えた。しかしわたくしの姿を捉えると直ぐに家の中に入らされたのだった。
 
 
 
 
 
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