現在、わたくしはある人の事が気になっていた。傍から見れば恋をしているのかと勘違いされる程に。だけどそうではない。何が気になっているのか。それは…。
スレイさんと話しながら視線を感じてそちらに目を向ければ彼と目が合う。しかし先に逸らしたのは相手の方。最近こうやって目を逸らされる事が多い。


「…実優?どうかした?」

「…いえ、何でもないです」


様子がおかしいと気づいたスレイさんが訊いてきたので今はこちらに集中する事に決める。…が、再び感じる視線。
い、一体わたくしが何をしたのでしょうか…。気づけば彼に何かしてしまったのかも知れない。万が一そうならば謝らないといけないけれど、理由が判明しなければ口だけだとなり、わたくしだって納得しないわ。…この際思いきって…!


「スレイさん。あの…」

「わかってる。オレも気になるし…任せていいか?」

「はい」


どうやらスレイさんは全部口にしなくてもわたくしが言いたい事が予想出来たみたいで促してくれる。こうして言葉にしなくても通じる事が少し嬉しい。…なんて、喜んでいる場合じゃない。スレイさんだって気にしているのだから、わたくしが何とかしなくては。原因は間違いなくわたくしなのだから。
軽くお辞儀をして彼がいる場所を確認し、歩いていく。一歩一歩確実に近づいていくわたくしから逃げる為か体の向きを変える彼だが、出来なかった。


「エ、エドナさん…協力してくれたのかしら。嬉しいですけど危ないわ」


彼が振り向けばそこにいたのはエドナさん。武器でもある傘を彼に向けてまるで逃がさない様に止めてくれている。一応当たらなくて良かったと安堵しつつ、いつの間にかわたくしは彼の後ろにいた。


「逃げるつもり?」

「…僕は別に…」

「ミクリオさん」


言い合う二人の間に入る。漸く近づけた人の名前を呼ぶ。水色がかった銀髪、紫の瞳。この世界で一番最初に出会った人ーーーミクリオさん。
わたくしに呼ばれた事で振り向いてくれるけれど、目線は合わない。何だか胸が痛むが堪えて口を開いた。遠回しに訊いても解決しないと思うし、もう正直に訊いた方が早いはず。


「ミクリオさん、わたくしが何かしたのですか?」

「え?」

「その…この頃わたくしの事を避けている様な気がして。何か気に障る事をしたのなら謝ります」


だから教えてほしい。そう頼めば「違う!」とミクリオさんが声を上げる。まさかの大声を上げるとは思ってなくて目を開いていれば謝りつつも咳払いをする彼。そして一度目を伏せて…わたくしに顔を向けてくれた。
わたくしが何かした訳では無いらしい。気にしなくていいと否定するミクリオさんに、だったら何故?と問う。するとみるみるミクリオさんの顔が赤くなっていく。


「それは、僕の感情の問題で…」

「あ、あの、ミクリオさん?顔が赤いのですが…」

「これくらいで照れるなんて…。先が思いやられるわね」

「ミクリオさん!ファイトです!」


ライラさんの声が間近に聞こえてエドナさんの隣を見るとライラさんがいた。わたくし達の話を聞いているみたい。何故か応援されているミクリオさんは尚更赤く染めながら二人に何処かに行く様懇願するが、行くつもりなど更々ないらしい。エドナさんもライラさんも面白そうだからという理由でいると今決定したらしく、拒否した。
様子から見てお二人はどうしてミクリオさんが顔を赤くしているのかわかっているよう。何だか彼の事を全然わかっていない自分が情けないわ…。


「スレイさんも気にしていました」

「…実優は随分スレイと仲が良いんだね」

「?確かにスレイさんは男性の中では話している方だとは思いますが…」


でもそれはミクリオさんも同じですよ?と首を傾げながら答える。しかしミクリオさんは納得していない表情に変える。エドナさんとライラさんから拗ねているという言葉が耳に入るが、一体何に対して拗ねているのかがわからない。でももしこれがミクリオさんがわたくしを避けていた理由ならば、わたくしは。


「ならもっとミクリオさんに話しかけても良い…ですか?」

「なっ…!?」

「やっぱりまだ男の人と話をするのは緊張しますけど、ミクリオさんならもう大丈夫ですので」


初めて出会った時。男の人が苦手だった為ミクリオさんから逃げたわたくしがこんな発言するなんて思いもしなかった。…それに、今はもっとミクリオさんに近づきたい…なんて思う。良くわからない感情。でも嫌だとは思わない。
一方わたくしの言葉を聞いた彼はまたもや顔を真っ赤に染めて何やらブツブツとひとり言を言い始めた。も、もしかして嫌だったのかしら。


「意識しているのは僕だけなのか…」

「え?」

「ああいや、何でもない。…とにかく今回は僕が悪かったよ。スレイにも不快な思いをさせた様だし謝っておく。さっきの件も僕で良ければいつでも実優の相手になるよ」


優しく微笑んでくれるミクリオさんに頬が熱くなっていく。何故か照れてしまう。顔が赤くなっていないか心配だわ。
わたくし達を見ていたエドナさんは「ミボのヘタレ」と口にしていて、ライラさんは目を輝かせている。お二人共楽しそうで良かった、のでしょうか?
問題は解決した訳だし軽くお辞儀をして背中を向ける。一応今日中にする用事があるので終わらせてしまおう。そう思ったのだが、不意に腕を掴まれた。力的に男の人だ。つまり…ミクリオさん。


「…あまりスレイと話さないでくれ」


振り向いたと同時に告げられて困惑した。先程もスレイさんの事を気にしていましたし、今も真剣な表情。…あ、もしかして…。
思わず笑ってしまうわたくしにミクリオさんが首を傾げる。ちゃんと彼が安心出来る様に微笑みながら口にした。


「大丈夫です。スレイさんがミクリオさんにとって大切な友達なのはわかっていますから」

「…ま、待ってくれ。実優、君は勘違いして…」

「奪う…って言い方は好きではないですけど、とにかくそんな事は絶対しません。だから安心して下さい」


幼い頃からずっとイズチで仲良く過ごしてきたお二人ですもの。自分以外の人と話したりするのは嫌なはず。やっぱりまだまだお二人の事をわかっていないわ。気をつけなければ。
今度こそ行きますと背中を向けて歩いていく。


「本当は嫉妬だったのに勘違いされたわね。全く実優の鈍感さには尊敬するわ。大体ミボもミボよ」

「そうですわ!実優さんにはハッキリ口にしなければ伝わりませんよ!」

「もう放っておいてくれないか…」


後ろで意気消沈しているミクリオさんに責めるエドナさんとライラさんの会話など耳に入るはずがなかった。










誤解が解ける時
(それは、彼の気持ちを知る時?)




 
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