ナッツさんの家の前についた。皆さんは追っては来なかったものの、走った事で息を整えなければならない。胸に手を当て息を吸ったり吐いたりを繰り返し、汗を空いている手で拭う。わたくしとは反対に全く疲れていないスレイさん。男女の差…なのかしら。


「ご、ごめん実優。大丈夫?」

「は、はい…。大丈夫です」


本音を言えば大丈夫ではないけれど、口にする訳にはいかない。もう一度息を思いっきり吐きスレイさんを見る。心配をしてくれている彼に申し訳なくなるが、ここでわたくしはある事を思い出してしまった。そう、手を握られている手。どうすればいいのかわからず、目を泳がしているわたくしにスレイさんが気づき首を傾げてきた。


「スレイさん、あの」

「ん?何?」

「手が…」


多少口篭りながらも何とか伝えてみれば「あ」という言葉の後、謝りながらも手を離してくれた。スレイさんもスレイさんで照れている…のかな。頬を手で掻いていて、少し赤く染まっている。その表情でわたくしも恥ずかしくなった。先程までつながれていた手を軽く握ってみる。こんな事思ったら駄目なのに…彼の手は暖かくて、ほっとした。


「…そ、そうだ!先にナッツの所に行ってから案内しようと思って来たんだけど…良かった?」

「へ、平気です」


思い出したかの様に言う彼にわたくしも慌てて頷く。何だか良くわからない雰囲気な中、スレイさんがナッツさんの扉にノックすれば入っていいという声が中から聞こえた。扉を開けて中に入ればナッツさんが笑顔で迎えてくれる。


「おはよう実優。…二人共どうしたの?顔が赤いわよ?」

「何でもないって!な、実優?」

「は、はい!何でもないです!」


鋭いナッツさんにお互い何でもないと強調するけれど、逆にそれが怪しく感じるのか目を細めて本当かと疑ってくるナッツさん。その視線が全て読まれそうで目を逸らす。何て言うのか…ナッツさんには隠し事出来ない気がします。
スレイさんもわたくしと同じ事を思っているのか慌てて話を変えている。何故わたくしを呼んだのか。どうやらスレイさんも関係がある様でこの場にいるようにお願いしている。


「スレイ、そこに立って。実優はこっち」


何故かお互いが向き合う形になり、わたくしの後ろにはナッツさん。これから一体何をするのだろうか。何だか不安になっていくわたくしを見てスレイさんはナッツさんに何かを言おうとしたのだが、それよりも早く。


「えい」

「きゃ…!?」

「実優!」


突然背中を押された。完全に不意打ちだった為足で支える事が出来ず前に体が傾く。…が、わたくしが地面に倒れる前に目の前にいたスレイさんがわたくしの腕を掴み初めて出会った時と同様抱きとめてくれた。思わず息を呑む。
大丈夫かと声をかけられて目を合わす事なく頷いた後、我慢の限界で叫びながらスレイさんの体を押し退ける。彼は驚きつつも直ぐにわたくしに謝りながら腕から手を離してくれた。


「わ、わたくしの方こそごめんなさい」

「実優は悪くないよ。それよりナッツ!」

「ごめんなさい、実優が少しは異性に慣れたのか確かめたくて」


だからって突然過ぎたわね、と申し訳なさそうに眉を下げてわたくし達に謝ってくるナッツさん。実際スレイさんに助けられた事で怪我はしなかった訳ですし、気にしないで下さいの意味を込めて首を振る。スレイさんも言いすぎたよと先程の言葉に対して反省している。
改めて床に座りここに呼ばれた理由を話す。それはわたくしの異性が苦手だという件だった。克服したいと思っているのなら協力するとナッツさんが柔らかく微笑んでくれた。わたくしも克服出来るのならばしたい。


「実優は近くにいても駄目なの?」

「駄目というか…男の人が近くにいると緊張してしまうのです。触れるのはほんの少しくらいしか…」

「じゃあオレと握手した時は我慢してたんだよな?ありがとう、実優」


スレイさんの両手に包まれたあの時、本当は手を引っ込めたかった。きっとわたくしの手は震えていたのだろう。それは我慢していた証拠だと彼はわかってしまったのだろう。改めて感謝されて何だか恥ずかしくなる。
思ったより重症ねと口に手を当てながら呟くナッツさん。わたくし自身重症なのは充分承知している。


「うーん、じゃあ…」

「ナッツさん!隠れんぼしよう!」


突然扉が開き入ってきたのは…どう見ても男の子が二人、女の子が一人の子供。身長が低く幼い。天族ってこんな子供もいるのねなんてぼんやり考えていたらまるでわたくしの考えを読んだかの様にキッとしかも三人同時に睨まれた。子供にしては鋭い目つきで思わず狼狽える。


「言っとくけどおれ達子供じゃねーから!あんたより年取ってるからな!」

「そーよそーよ!見た目はこんなに幼いし身長も低いからって子供とか思わないでよね!私たちは立派な"お・と・な!"なんだから!失礼しちゃうわー!」

「子供扱いは許せない」


三人の発言に呆然。誰から見ても子供の三人なのに、本人達は違うと、寧ろ子供だと言うななんて反論してくる。しかしどうやら嘘ではなく、本当だからとスレイさんに言われて咄嗟に謝った。い、一体何歳なのだろう。わたくしより年上だったら複雑というか…。
活発的な男の子、女の子がリュウさんとセイラさん。控えめで眼鏡をかけているのがケイさんというらしい。ナッツさんがわたくしを紹介してくれる。


「ねえねえナッツさん!遊ぼーよー!」

「駄目よ。今は二人と話をしてるのだから」

「えー、いいじゃん!スレイ、一緒に遊ぼうぜ!」

「ごめんなリュウ。また今度…」


嫌だ嫌だと駄々をこねる子供の様にナッツさんとスレイさんの言葉を聞かないセイラさんとリュウさん。残されたケイさんは少し狼狽えている。どうしたものか、と考えた途端リュウさんの視線がわたくしに向けられる。鋭い視線に思わず体が跳ねた。


「お前邪魔なんだよ!」


…その言葉が嫌な程に響いた。




 
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