食事を終え、外に出る準備が出来たわたくしは先にスレイさんの家から出ていた。スレイさんは少し時間がかかるみたいで、先に外に出てていいと言われたのでこうして待っている。暖かい日差し。わたくしがいた世界と変わらないものだ。空気も美味しくて、何より朝から周りにメイド達がいない。それだけは感謝したい所だわ。


「実優…と言ったかな?」

「!」


不意に声をかけられ体と目を向ければ男性陣がいた。マイセンさん以外のイズチに住む男性の方々。男の人に囲まれているという事に体に力が入る。だ、駄目。きちんと挨拶しなくては。
震える手を見せたくないので後ろで手を組み返事をする。しかし皆さんはマイセンさんとナッツさんからわたくしが住む事になったと報告を受けたと同時に、わたくしが異性が苦手だという事も聞いていたらしい。だから気づいた皆さんが一歩後ろに下がってくれた。


「記憶が無いんだってな。困った事があったら言ってくれよ」

「…あ…、ありがとうございます…!」


嬉しいのにわたくしは笑えていない。ここまで大勢の男の人が目の前にいるとやはり良い方々だとわかっていても怖い。流石に対処しなければこの先過ごせない気がした。…す、少しずつ慣れていきたい…。少しずつ、ですけど…。
今何をしているのかと質問される。スレイさんを待っていると正直に答えれば、一人の男の人が楽しそうにニヤニヤしながらわたくしに問う。


「デートか?良いねぇ、若いもんは!」

「デ…!?」

「出会った次の日にデートか。スレイも中々手が早いな」


次々とデートをするのかと話を進めていく皆さんに否定する事が出来ない。と言うよりも、"デート"という言葉が何度も頭の中で繰り返されていて何も言えないのが正しい。男の人と女の人が一緒に出かける事をデートと言うのよね?つまり今からわたくしとスレイさんはデートをするという事になるのかしら?
…い、いえ、違うわ!だってあくまでナッツさんに呼ばれているから行くだけで、お出かけではなく…!あ、でも、その前にスレイさんにイズチを案内してもらう訳ですし、これはお出かけに…デデデ、デートになっ…!?


「…皆、実優をからかわないでくれ。困っているだろう?」

「!」


どうする事も出来ず軽く混乱状態に陥っているわたくしの耳に届いたのは聞き覚えのある声。目を向ければ…腕を組んだままイズチの皆さんを見ているミクリオさんがいた。昨日の拒絶を思い出す。だけど…先程の発言はわたくしを助けてくれる言葉だ。


「ほほう…ミクリオは片想いポジションか?」

「だとしたら報われない可能性が高いが…頑張れ!」


何故かわたくしとスレイさんとミクリオさんで三角関係になっていると誤解している皆さんにミクリオさんは慌てて否定するが、その顔は何処か赤い。…と思うわたくしも段々頬が熱くなってくる。それが尚更面白いのかからかってくる皆さんにもうどうすれば良いのかわからない。


「一体どちらの未来の彼女になるのか楽しみだなぁ」

「み、未来の彼女!?」

「頼むからこれ以上口を開かないでくれ…」


額に手を当てて懇願するミクリオさんの言葉は届かない。寧ろヒートアップしていく一方。…こういう恋愛話って女の人が盛り上がるものだと思っていたのだけれど違うみたい。男の人も…もしかしたらイズチの皆さんにだけかも知れないけれど、盛り上がるのね。…単純に面白がっているだけにも見えますが。
とにかくこの状況を何とかしなければとぼんやり考えていたらミクリオさんと目が合った。すると彼は困った様に笑う。耐えてくれ。そう言われている気がして頷こうとした途端、スレイさんの家の扉が開いた。…タ、タイミングが悪い気が…。


「ミクリオ?それに皆も何してるんだ?」

「何で君はまた…」

「スレイ!今からデートだってな」


彼が家から出た途端、ミクリオさんの顔が険しくなり、皆さんはスレイさんに詰め寄っていく。質問攻めされているスレイさんは状況についていけてないみたいで、恐らく『?』で一杯だろう。最早止める事を諦めているわたくしとミクリオさんは黙って見ているだけだ。しかしあれから時間が経っている。ナッツさんに怒られそうだわ。


「…良くわからないけどさ、デートじゃないよ。出かけるだけだから」

「照れるな照れるな!可愛い未来の彼女をエスコートするんだぞ」

「ライバルであるミクリオはどうするつもりだ?略奪愛?」

「だから僕は…!」


再び三角関係の話になりミクリオさんが誤解を解こうとする。ど、どうしましょう。本当にこのままでは話が終わらない気が…。
自分が何か出来る訳でもないのに、どうにか出来ないのかと悩んでいれば少し離れているスレイさんと目が合った。すると彼は微笑み、わたくしの方へ歩いてくる。え、え…?


「ごめん、時間が無いからまた後で!行こう実優」

「スレイさ…!?」

「スレイ!」


目の前に来た瞬間手を取られた。そのまま走っていくスレイさんに引っ張られてわたくしも走る事になる。走る事自体に問題があるのではなく、スレイさんに手を取られているのに問題があった。男の人と手をつなぐなんて…!ですが時間が無いのは事実だから振り払う訳にはいかないし、ああもうわからないわ!
つないでいる手が視界に入り、思わず目を逸らす。ミクリオさん達から離れているのを感じつつ、わたくしとスレイさんは走り続けたのだった。




 
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