元々男の人が駄目だったわたくし。それでも今は普通に触れる事も出来るし、話せる様にもなったとは思う。ですがどうしてもあの人だけは苦手だ。話しかけられるのは嬉しいのに避けてしまう。きっと生理的に無理なのだと自分の事だから理解は出来た。さ、流石に上半身裸の人は近寄る近寄らない依然に目のやり場に困ります。
…なのにこの状況はありえないわ。


「実優ちゃんどうよ?見つかったか?」


隣に来ようとする彼から一定の距離を保つ為に離れるわたくし。この光景は既に何度目かわからないのに彼は諦める所かまるでわたくしの反応を楽しむ為に近づいてくる。今だってそう。せめて服を着ていただければ…。
毛先は緑の長い銀髪、服を付着していない為必然的に外に出ている引き締まった体。軽い口調で平然とわたくしに話す彼―――ザビーダさん。わたくしはザビーダさんが初めて出会った時から苦手だった。今も…ですけど。


「つかホントにここにいるのかねぇ。バラバラになってから全然見つからないわあいつらも連絡してこないわ…」


そう、現在わたくしの周りにはザビーダさんしかいない。理由はそれぞれ別行動をしているから。ラストンベルで凱旋草海にて何か妙なものを見たと人々が噂をしていたのを聞いたわたくし達はただの噂かそれとも本当かを調べる為にここに来た。…ですが凱旋草海は広い。だから分担して探そうとスレイさんの提案にわたくし達は頷いた。
ジャンケンでペアの相手が決まりわたくしのペアは…ザビーダさんだったのだ。無理です。そう口にするのは難しい。ザビーダさんを傷つけたくないですし、皆さんにもわたくしの我侭で迷惑をかけたくないから。だからペアになったのですけど…。


「実優ちゃん、そろそろ俺様の発言に何か言ってほしいんだけど?」

「え?ご、ごめんなさい」


慌てて謝れば構わないなんて言う彼はわたくしに一体何を求めているのだろうと時々考える。まずわたくしが逆の立場なら間違いなく相手には寄りませんね。避けられている事をわかっているのに自ら近づいていく自信は無い。
このまま探索をしていても意味がないと判断したわたくし達は一旦ラストンベルに戻る事になった。スレイさん達も戻っているでしょうし。一応宿屋で集合の約束はしていましたし…。


「実優ちゃん!」

「え…きゃあっ!?」


ザビーダさんに名前を呼ばれ振り向く前に力強く腕を引っ張られた。そして彼の片方の腕に閉じ込められる。もう片方の手でいつの間にか現れていた憑魔をペンデュラムで華麗に倒した。恐らくザビーダさんはわたくしの近くにいた憑魔に気づいて守ってくれたのだろう。


「大丈夫か?」

「は、はい。あり、がとうございます」


しかし近い。近すぎます。離れたくても力はザビーダさんの方が強いから無理だ。で、ですがどうすればいいのでしょう。下に目を向ければ確実にザビーダさんの体が映る訳ですし、ですが今のままだとザビーダさんの顔が間近に…。


「俺の顔に何かついてんの?」

「きゃあああああっ!?」


不思議に思ったザビーダさんがわたくしを見て話す。更に縮まった距離とわずかにかかる吐息に思わず叫んでしまった。その叫びに驚き腕を離す彼。隙を狙って体を離し、ドキドキしている胸を落ち着かせるよう深呼吸をする。ほ、頬が熱い…。顔が赤くなっている証拠だわ。
深呼吸をしている中、からかいが混ざった笑い声が聞こえてくる。一人しかいない。ザビーダさんだ。


「いやー、本当に実優ちゃんの反応は面白いねぇ」

「お、面白いなんて…」


間違いなくからかってる。その面白いの発言に嬉しいという感情は勿論込み上がらない。寧ろ少しだけ不貞腐れてしまう。早く戻らないと色々な意味でもたないわ。
ザビーダさんに戻るよう声をかければポツリ冷たい何かがわたくしの頬に落ちてきた。雨。空を見れば太陽は白くない雲に隠れていて明らかに雨が降りそう。どうやらザビーダさんも同じ事を考えていたみたいでわたくし達は急いでラストンベルに戻ったのだった。





「実優ちゃんはこれを使いな」


なんとかラストンベルの宿屋に着く事が出来たのだが…直ぐに土砂降りに降ってきた雨に打たれたせいでわたくし達は全身が濡れてしまった。雨のせいで服が重い。ザビーダさんは髪が長い為鬱陶しそうに髪をタオルで拭いていた。途中で渡されたタオルを受け取る。…これ宿屋のタオルですよね。勝手に取ってしまって大丈夫かしら。床が濡れている事にも先程驚いているというのに。
…とは考えながらもわたくしは自らの髪を拭く。濡れたままだと風邪を引いてしまいますし。それでも謝罪だけは心の中で何度もする。


「ザビーダさん、風邪を引く前に着替えますか?スレイさん達も戻られていないみたいですし」

「ああ、そうす…」

「?…何かありました?」


流石にずぶ濡れの服を着ていると風邪を引く元。だからザビーダさんに着替えて人がいなければお風呂を貸してもらおうと思っていたのですが…ザビーダさんがわたくしを見てタオルで拭いていた手を止める。気になって何か問題でもあったのか問いかければ使ったタオルを机に投げ捨てわたくしの腕を掴んできた。突然だった為されるがまま。


「…え…?」


ぐらり視界が変わる。背中には気持ちの良いベッドの感触。…目の前にはザビーダさん。背景は天井。わたくし、今何をされて…?
状況の判断が出来ていないわたくしにザビーダさんの髪から水滴が落ちて顔にかかる。そこで漸く理解した。押し倒されていると。こうして冷静に考えているものの口から出る言葉からはとても冷静ではない。


「ザ、ザビーダさ…!?何をっ…」

「実優ちゃんが悪い」


彼の言葉に黙ってしまう。いつもの声ではなく低い声に何も返せない。せっかく避けられているとわかっていても話しかけてくれているのに、わたくしは全く変わらない。怒るのが当たり前 だ。
目頭が熱くなるわたくしを見てザビーダさんが目を見開いた。そして否定する。わたくしが考えている事は違うと。怒ってもいないらしい。安心はしたが、なら何故こんな事をされているのだろうか。


「濡れているから下着が透け」

「!!」


全て言い終わる前に言いたい事を悟ったわたくしは咄嗟に手で体を隠す。き、気づかなかった。なんて恥ずかしい…!穴があったら入りたい。まさに今の気持ちにピッタリだ。
一方ザビーダさんは必死に隠す姿を見て楽しそうに笑う。その瞳は…獲物を狙う瞳。ゆっくりザビーダさんの片手がわたくしの手に触れる。


「そんな事されたら余計に煽るだけってわかってんの?」

「っ!」


片手でわたくしの両手を上にあげられ縛る様に掴まれた。隠していた体が再び露にされて、体勢も体勢なだけに更に頬が熱くなり胸の鼓動が一層速くなった。掴まれている手に、跨がれていて動かせない足。抵抗は出来ない。動かせれるのは口だけ。だけどーーー。


「実優」


不意にザビーダさんの顔がわたくしに近づき耳元で囁かれる甘い声にゾクゾクして。たった名前を呼ばれただけと言うのに呼び捨てだったからかもう目の前の彼の事しか考えられない。
少し体を離してわたくしを見つめる瞳は先程の瞳とは違う。不思議そうにわたくしを見つめる瞳だ。


「抵抗はしないのか?」

「て、抵抗なんて力の差で無理です」


包み隠さず告げれば「そりゃそうだな」なんて笑うザビーダさん。しかし直ぐに表情を変えて、なら続きをしていいのかと言う。相変わらず緩まない手の強さ。離れるつもりはないと語る彼の表情。わたくしも抵抗する気は無かった。


「わたくしはザビーダさんの事を信じていますから」


女の人が好きでも、からかって楽しむ人でも、決して無理矢理相手を傷つける事はしない人だとわたくしは信じている。彼は本当は優しい人だから。その優しさは今日一日でもわかる程に。
…なんて内心では思っているのですが、やはりドキドキは止まらないですし寧ろこれ以上何かされたり先程みたいに囁かれたりされたら、もう…。


「…ザビーダさん?」


彼から溢れたのは笑い声。何がおかしかったのか。到底訳がわからないわたくしにザビーダさんは謝りながらもわたくしの上から体を離した。必然的に開放された手と足を使って体を起こす。未だに笑っているザビーダさんに首を傾げるしかなかった。


「実優ちゃんの言葉が嬉しくてつい」

「…だったら何故笑うのですか」


これは馬鹿にされているのでしょうか。何だかムッとしてしまって冷ややかな目で彼を見る。ザビーダさんはなんとかと言った表情で笑いを止めてわたくしの唇に人差し指を当てる。今のは二人だけの内緒。大人っぽい表情で言う彼にドキドキしながらも頷く。そ、そもそも皆さんに言える訳がないです。


「あと純粋な実優ちゃんに一応警告しておくぜ。男ってのは狼なんだ。だからさっきの言葉でもっと…」

「もっと…?」

「ま、こういうのはゆっくり教えるかね。とにかく一旦着替えたらどうよ?また俺にそういう気にさせるつもりかい?」


またそういう気にさせる原因があるのかと思ったわたくしはザビーダさんを見る。すると彼は意地悪くわたくしに顔を近づけて「だからこれ」と体に指をさす。ハッと気づいたわたくしはザビーダさんの体を突き飛ばし手で隠しながらも立ち上がった。


「は、破廉恥です!」

「今のは実優ちゃんが誘っ…」

「もう知りません!」


扉を勢いよく閉め、先に濡れた体を暖める為に風呂場に足を動かす。…服は濡れていて冷たいはずなのに一切冷たさを感じない。熱が冷めないのはザビーダさんのせいだ。意識したくなくてもしてしまう自分が嫌だわ…!
この後お風呂から出たらタイミング良くスレイさん達も戻ってきたのですが。


「…えっと、何かあった?」

「あなた達明らかに何かあったオーラを出しすぎ」


以前よりも更に酷くなった距離の遠さにスレイさんとエドナさんが一早く訊いてくる。しかしザビーダさんは至って普通の表情で二人に答えた。


「何もないって。な、実優ちゃん」

「は、はい…」

「いや絶対何かあったでしょ!何も無かったらこんな遠くないって!」


彼がこちらに近づけば、わたくしは一歩距離を取る。そんなわたくし達を見てロゼさんが声を上げたのだが言えない。口が避けても言えない。…それに、ザビーダさんと約束もしましたし。


「ザビーダさんが原因ですわ」

「俺様に何も訊かず決めつけんの!?」

「一歩ザビーダが近づけば一歩実優が遠のく。嫌われたものだな、ザビーダ」

「ミク坊喧嘩売ってる?」


この後皆さんから何があったのか質問攻めされたのだが意地でも答えなかったわたくし達だった。結局数日後わたくしとザビーダさんの距離は元の距離に戻ったのだった。近づける日は遠くない、のかな?










近づきたい
(体じゃなくて、心も)



 
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -