しばらくするとナッツさんとマイセンさんが戻ってきた。ナッツさんはわたくしに一度自分の家へ来ないかと誘う。何でも、他の皆さんもわたくしが気になっているみたいで直ぐに話したいらしい。は、話したいだなんて…緊張するわ…。
「スレイも片付けとかあるでしょ?」
「オレの家そこまで汚くないよ、ナッツ」
「本とか散らかってるくせに」
ムッとしながらスレイさんは言うが、マイセンさんに言われ「あ!」と今思い出したかのように声を上げる。だけどあれは自分がいつでも読める様に置いているだけだと否定するスレイさんにミクリオさんが意地悪く笑いながら告げる。
「家が散らかっている人はそうやって理由をつけて否定する。つまりスレイは…」
「ミクリオだって読んでるだろ!」
「僕は誰かさんと違って読んだら元に戻すから」
中々の自慢顔でスレイさんに言うミクリオさん。反抗できないのか、うっ…ともごもご口を動かすスレイさん。お二人の仲は本当に見ていて微笑ましいとは思う。
マイセンさんが「そこまでな」とミクリオさんを宥めればナッツさんが手を合わせて「そうだ!」とわたくしを見る。
「まずは服を着替えないとね。そのドレスも可愛いけどボロボロだし破れているから…」
「ああ、そうじゃの。頼むぞナッツ」
「ええ。…それに、スレイ達も実優を直視できないものね?」
「「ナ、ナッツ!」」
ジイジさんの言葉にナッツさんは頷いたが、次の瞬間口に手を当ててふふっとスレイさんとミクリオさんを見て笑いながら言う。すると同時にまるでやめてくれと訴える様に声を出すお二人の顔は少しだけ赤い。一体何がなんだかわかっていないわたくしにマイセンさんはさらりと告げた。
「要するにな、この二人は実優の破れているドレスからチラチラ見える素肌を見て顔を赤くしてるんだ」
「えっ!?」
「まあ二人とも思春期だもの。仕方ないとは思うけど…ねぇ?」
面白そうに笑うナッツさんから目をそらし、お二人を見れば先程よりも顔が赤くなっていた。だ、だからあの時…わたくしが立ち上がった時に座ってほしいと言ったの?
スレイさんとミクリオさんの反応を見てこちらまで急激に恥ずかしくなってきた。今まで何も気にしていなかったのが嘘みたいで、今はとてつもなく着替えたい。
「ナッツ。からかうのはやめんか」
「ごめんなさい。でも面白くて…」
「スレイ達も顔を赤くしてないでさっさと行くぞ。俺達が出ないと実優が動けないだろうし」
ほらほら、とスレイさんとミクリオさんを無理矢理立ち上がらせてわたくしに手を振るマイセンさん。スレイさんとミクリオさんはなるべくわたくしを見ないように立ち止まり声をかけてきた。
「じゃ、じゃあ…また後で」
「その…ごめん。色々と…」
「…い、いえ。こちらこそ、ごめんなさい」
スレイさんとミクリオさんは悪くないのに謝られたからこちらまで謝ってしまう。軽く笑いながら出ていくお二人の背中を見ながらわたくしは息を吐いた。まだ顔が熱いわ。これからお二人と何度も顔を合わせるというのに…わたくし大丈夫かしら。
「さて、私達も行きましょうか」
「あ、はい。お願いします」
「実優に似合う服を皆持ってきてくれているみたいだから安心して」
微笑むナッツさんにわたくしは少し安心する。自分で服を選ぶなんてした事がなかったから。いつもメイド達に任せていた事だもの。だからもし自分で選んでと言われたら困る所だったわ。
「実優、皆に良い服を着せてもらうのじゃぞ」
「はい。ありがとうございます、ジイジさん」
「何かスレイ達の事で困った事があれば遠慮せずワシに言えば良い。叱ってやるからの」
「そ、そこまでは大丈夫です」
冗談じゃと口角を上げるジイジさん。じょ、冗談には聞こえなかったのですけど。でも触れないでおこう。
ジイジさんに一度だけお辞儀をしてわたくしはナッツさんの後ろについていったのだった。