「実優は異性に慣れないと駄目だと私は思うし、スレイの家で暮らしてみたら?困った事があるなら私や皆が相談にのるから」
藍色の髪をポニーテールにしている女性がわたくしに言う。自己紹介がまだだったとわたくしに近づいて名を言う女性。この方はナッツさんという名前で、隣にいる赤髪の人はマイセンさんというらしい。ジイジさんがわたくしが男性が苦手だという事を伝えてくれていたからかある程度距離をとって「これからよろしくな」とわたくしに笑うマイセンさんに頭を下げる。
「だ、だけどやっぱり二人で暮らすなんて色々と…」
「ミクリオ、お前はスレイの親か」
「…何にせよ決めるのは実優じゃ。好きにしたら良い」
マイセンさんの言葉にミクリオさんが「誰がスレイの親だ!」と怒っているのを聞きながらわたくしは再度考える。そしてある疑問が湧く。仮にわたくしが帰る事が出来なかった場合、どうするのかと。帰れない、と考えると怖くなるが最悪の事だってあるわ。だから訊く事にした。
「あの…万が一わたくしが帰る事が出来なかったら、スレイさんはどうするつもりなのですか…?」
わたくしが本当にスレイさんの家にお邪魔すると考えると流石にスレイさんの家にずっと住むのは駄目ですよね。彼もきっとわたくしと同じ年くらいですし知り合ったばかりの異性と住むなど嫌でしょう。そ、それにわたくしも住ませてもらう方だとしても恥ずかしいものですし…。
「大丈夫、その事も考えてるから!」
あれこれ考えていればスレイさんがニッと明るく笑う。ジイジさんが感心しながらキセルをふかしているのに対しミクリオさんは何処か怪しみながらもナッツさんから頂いた水が入っているコップに口をつける。
ナッツさんとマイセンさんが訊く。その考えは何かと。スレイさんはわたくしを見てはっきりと言った。
「そうなったとしたら…オレが実優の事、責任を取るよ」
「え…」
スレイさんの発言に全員が固まった。しかし当の本人は至って普通で今の状況に理解出来ていない様で首を傾げる。わたくしもスレイさんの言葉に一瞬思考が停止したが直ぐに理解出来た為息を呑んだ。それと同時に顔が熱くなってきて思わず目を逸らした。
「皆固まってるけど…オレおかしい事言った?」
「スレイの事だから意味をわからず言ってるんだろうけどな。実優の事も考えてやれよ」
「スレイったら大胆発言ね」
呆れながら言うマイセンさんに対し、ナッツさんはクスクスと笑いながらスレイさんに言う。「何が大胆発言なんだ?」と腕を組みナッツさんの言葉に考えている所を見ると、本当に深い意味はなく言ったのだとわかる。だけどそうだとしても、先程の言葉は物凄く恥ずかしい…!
「ごめん実優。スレイはこんな奴なんだ」
「い、いえ…大丈夫です」
「どういう意味だよ、ミクリオ」
「そのままの意味だろう?」とため息をつきながら言うミクリオさんにスレイさんは納得がいかないのか、ミクリオさんに詰め寄る。二人のじゃれ合い?を見ながら本当に仲良しだわ…と思った。
「それで実優、どうするつもりじゃ?」
「わたくしは…」
スレイさんとミクリオさんがわたくし達の会話を聞いてこちらを見る。ナッツさんとマイセンさんもわたくしを見ていた。全員が見ている中、緊張しながらも。
「ーーースレイさんの所で…暮らしたい、です」
そう、告げた。