しばらくしてジイジさんが戻ってきた。元の位置に座り皆さんに伝えて来たとわたくしに告げる。どうやら皆さんはわたくしが住む事を快く受け入れてくれたみたいだ。後でお礼を言いに行かなくては。
「後は住む所じゃの。流石にワシの家でいいとは言えん」
「確かにね。同性と過ごした方がいいと僕も思う」
ジイジさんの言葉にミクリオさんが同意する。「初めは馴染めないと思うけど…」とわたくしを心配しているのか困った顔で見てくるミクリオさんに大丈夫と伝える。実際に彼の言う通り馴染むまで時間はかかるだろう。それでもわたくしはここの皆さんに頼るしかないのだ。それに一緒に暮らす事を許して下さる時点でわたくしは恵まれているもの。
…でも、ジイジさんとミクリオさんは本当に優しいですわね。わたくしが男の人が苦手だとわかっていて同性と過ごした方がいいと言って下さっているのだから。
「皆実優の事を歓迎しているのだろう?だったらさっき実優が話していた彼女達の中の誰かに…」
「ジイジ、ミクリオ」
ミクリオさんが腕を組んで真剣に考えている途中、その前から考えていたスレイさんが口を開いた。お二人がスレイさんを見る。ところがスレイさんはお二人の名前を呼んだ筈なのにわたくしを見ていて何故か目を逸らせない。そして彼はわたくしに笑って言う。
「実優さえ良ければオレの家で暮らさない?」
ーーーと。
突然誰も話さなくなった為スレイさんは疑問に思っているのか首を傾げている。まるで変な事を言ったのかとわたくし達に訴える様に。ポカーンと口を開けるわたくしだが、次に発せられたジイジさんとミクリオさんの声にようやく頭が回りだす。
「スレイ!君はまた何を言って!」
「だってオレとだったら実優は気をつかわなくていいかなって思ったから」
「実優は男が苦手だと踏まえて言っているんじゃろうな、スレイ」
「うん、わかってるよジイジ。けどオレは実優ともっと話したい。きっと何かの縁だしさ!」
引くつもりは無いスレイさんにジイジさんとミクリオさんは頭をかかえる。一方わたくしはスレイさんの言葉が頭の中でぐるぐると回って言葉を発する事が出来ない。…スレイさんの家で…?それはつまり、男の人と、スレイさんと二人きり、という事よね…?
「実優!?顔が赤いけど大丈夫!?」
「だ、大丈夫ですから、こ…こちらに来ないで下さると嬉しいです…」
わたくしを心配してくれるのは嬉しい。だけど今の状況でこちらに来られたら余計に困るもの。自分自身顔が赤いのは頬の熱さでわかる。変に胸がドキドキして言葉を紡ぐのに精一杯だった。スレイさんはわたくしの言葉を聞いて謝り腰をおろした。こほん、とミクリオさんが咳をして「話を戻すよ」と告げる。
「スレイは冗談じゃないんだね?」
「冗談なんて言うわけないだろ、ミクリオ。オレは本気。あ、でも実優が嫌ならオレは構わないから」
変に気をつかわないでいいと笑うスレイさん。嫌、という訳じゃない。ただわたくしは男の人と二人で暮らすという事が駄目な訳で。きっとこれはスレイさんなりの気づかいという事は理解できる。わたくしはこのイズチの杜の中でもまだスレイさん達と話している方だから彼は言って下さったのだろう。
「わ、わたくしは…」
「いいんじゃない?」
そこで聞こえたのはわたくしをイズチの杜まで連れていって下さった女性の一人の声だった。隣には赤い髪の男性がいた。