「…なるほど。それなら何故突如森に現れたのかが納得がいく。そしてお前さんは元々人間なのじゃな」


ジイジさんに話した。わたくしは違う世界から来た人間だと。流石に寝てこの世界に来たとは言わなかったが。しかしこの世界では自分が天族という存在になっているのは予想外だったわ。
ジイジさんはわたくしの話を信じてくれた。…ただ、ジイジさんは人間をよろしく思ってはいない様子。わたくしが人間だと告げた時表情が厳しくなったから。


「実優、ワシは人間は禍をもたらすだけだと考えておる」

「…っ、はい…」


息を呑む。禍。わたくしは本当にどの世界にいても禍なんだ。わたくしが通っていた女子高だって先輩達にとってわたくしは禍だもの。自虐になりたくはないのになってしまう自分に嫌気が差す。
ジイジさんは言う。イズチの杜の皆の平和と暮らしの為に無用な侵入者は排除せねばならないと。ジイジさんの言っている事は正しい。スレイさんはきっとジイジさんやこの杜に暮らしている皆さんにとって特別。だけどわたくしは元は人間、更には違う世界から来たのだから侵入者と言われても仕方がない。
だがジイジさんは「しかしじゃ」と続けたからわたくしは俯いていた顔を上げる。


「理由もわからず何者かにここへ連れて来られ、人間から天族になった者を追い出そうとは思わん」

「え…?」

(似た者もいるしのう…)


何処か遠い目をしながら見るジイジさん。気にはなったがそれよりも先程ジイジさんの言葉が頭から離れなかった。追い出そうとは思わない?こんな違う世界から来たという得体が知れないわたくしを?


「…ちょっと待っておれ。あの盗み聞きしようとしとる二人を引っ張り出すからの。仮に今から引っ張り出す二人や他の皆に自分の事を言うのなら人間だったという事は伏せておくと良い。皆が驚くからの」

「え、あのっ…!ジイジさん…!?」


立ち上がってわたくしの後ろに周り外に出る。残されたわたくしはどうすればいいのかと慌てたが一旦ジイジさんに言われた言葉の意味を考えて落ち着く事にした。…自分の事を言うのなら。ジイジさんはわたくしの事を皆さんに言わないでいてくれるの?わたくしの事を考えて…?ジイジさんはなんて素晴らしい方なのだろう。


「…後でお礼を言わないと…」


そうポツリと呟いた瞬間だった。再びゴロゴロと雷の音が聴こえた。やっぱり天気が悪くなったのかな。…雨も降っていたら嫌だわ。眠る前の事を思い出してしまうから。
するとガチャリと扉が開いた音がして振り向けばジイジさんと…後ろにはスレイさんとミクリオさんがいた。ジイジさん曰く、どうやら二人が盗み聞きしようとしていたらしい。だから仕方なくここに連れてきたと告げるジイジさんは再びわたくしと向かい合い座る。スレイさんとミクリオさんは家に入った時と同じ配置に座る。


「盗み聞きしようとしてごめん!」

「…悪かったよ」


座ったと思ったらわたくしの方を向いて両手を合わせて謝るスレイさん、わたくしの方を見てはいないが申し訳なさそうに言うミクリオさんにわたくしは当然困った。こ、こんな時どう言えばいい?気にしないで下さい?構わないです?ど、どちらにしてもジイジさんと違って若い男性に話しかけるなんて本当駄目…!
せめて全然構わないというのは伝えたくて手を横に振った。結局お二人は何も聞いていなかったのだから特に何も思わない。


「二人を追い返したらまた隠れて聞こうとするからの。実優、二人も話に入っても良いか?」


ジイジさんの言葉にわたくしは頷いた。…怖いですが…ジイジさんはお二人の性格などわかっていてそう告げているのだから、実際にここで否定すればジイジさんの言った通りになりそうだわ。だからなんとか緊張のあまり鳴っている胸を抑える為に息を吐き頷いたのだ。


「実優。お前さんさえよければ帰れるまでイズチの杜に暮らすのはどうじゃ」

「え!?」

「ジイジ!?」


わたくしとミクリオさんは同時に口を開いてしまう。スレイさんは黙ってジイジさんを見ているだけ。ジイジさんはキセルを持ちふかしていた。
 
 
 
 
 
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