いやでも何故わたくしなの。長い夢を見たいなんて誰でも思う時は思うでしょうし、寧ろあの友人二人組はいつもいつもトリップしたいと言っていたのだからあの二人でいいでしょう。しかも何故わざわざ友達が好きなゲームにトリップなのかしら。神様の気まぐれって恐ろしい。…というかわたくしはずっとゲームのキャラの人達と話しているのですわね。ならわたくしもゲームのキャラの一員になったという事?ま、まさかそんなはずは…。
頭の中でツッコミ…と言っていいのか愚痴と言うべきなのか困るが色々と言っていると女性達がわたくしを不思議そうに見ていた。


「あ…ごめんなさい」

「構わないわ。さ、ジイジの家は一番奥よ」

「ジイジ、さんって…このイズチの杜の長老さんですか?」

「ええ。ジイジがあなたに会いたがっているから。…スレイ、ミクリオ!彼女を案内してあげて!」


女性がスレイさんとミクリオさんに呼びかければこちらに走ってきた。わたくしを心配してくれたのかポンと肩を叩く女性に何とか逃げたくなる衝動を抑える。目の前に来たスレイさんとミクリオさんが頷けば女性達はお二人に何かを告げて。そして笑顔で「またね」と自分の家に戻っていく。取り残されたわたくしはどうすればいいのかと思っていた。目の前に男の人がいる、そう考えれば尚更逃げたくなるがここの長老さんがわたくしに会いたがっていると言うのなら行かなくてはならない。が、一人で行ける訳も無く、つまりは彼らに頼らなければならない。ただでさえ男の人が苦手なのに話しかけるなんてもっと無理だわ。
沈黙が訪れる。周りを見ればやはり女性達だけじゃなく、スレイさんとミクリオさん以外の男性達もいて。慌てて地面に目を向けても視線を感じてしまって体が震えてきた。


「大丈夫、皆は君を敵視している訳じゃないから」

「え…?」

「だから怯えなくていい」


スレイさんとミクリオさんの言葉に顔を上げれば周りの人達が家に戻っていった。もしかして怒らせたのでは…と思っていたらスレイさんが笑う。どうやらわたくしを警戒して見ていたのではなくて、何でも黒髪に黒い瞳の人は初めてだから人目見たかったから見ていたのだと。人目見たから戻っただけだとスレイさんとミクリオさんがまるでわたくしを安心させるように言う。


「じゃあオレ達は先に行くから後ろからついてきて」

「君が何とも思わないぐらいに距離をとっていいから」


スレイさんとミクリオさんがゆっくりと前を歩いていく。恐らく先程の女性達からわたくしが男性が苦手だという事を聞いて気を使ってくれたのだろう。…でも例え聞いたとしても彼らは優しい。わたくしが崖に向かって走っていった時だって彼らは止めてくれて、スレイさんにはビンタをしたというのにスレイさんは怒らないし、逆にミクリオさんは少し怒っていたが今は平然とわたくしに話しかけてくれている。


「…ありがとう、ございます…」


初めてお父様や執事以外の男の人にお礼を言った。きっと彼らには届いていないが、わたくしにとっては大きな事だった。…いつかきちんと彼らの隣に並んで言える日が来るのかな、なんて密かに思っている自分にも驚いていた。
スレイさんとミクリオさんから距離をとって歩けば奥に他の家よりも大きい家があった。これが長老さんの家なんだと歩きながらも見ていればスレイさんが「ここがジイジの家!」と言ってミクリオさんと共に入っていく。わたくしは長老さんの家の扉の前に立つと一旦息を吐いて。


「失礼します」


中に入ったのだった。
 
 
 
 
 
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