…じょ、状況がイマイチわかっていないわ。と、とにかくわたくしは森の中で倒れて次に目覚めたらここにいた。直ぐ近くに男性がいて驚いたわたくしは走った。するとわたくしを追っていた薄らと水色がかった銀髪の男性は別の人の名前を呼んで。その呼ばれた男性がわたくしを引き寄せて抱きしめてきた。そう、抱きし、め…。
「…?大丈夫?」
「っ、っ〜!?いやあああああっ!」
「いっ、ぶっ!?」
ようやく理解したわたくしは男性に抱きしめられているという事に叫び、抱きしめている男性に二発ビンタをしてしまう。バチンバチンと鈍い音が響いたがビンタのおかげで男性が離れてくれた。もう一人の水色がかった銀髪の男性は焦げ茶色の髪の男性に大丈夫かと声をかけていた。頬を抑えながら焦げ茶色の髪の男性は答えると水色がかった銀髪の男性はわたくしを睨みながら近づいてくる。
「君、いい加減に…」
「わっ、わたくしに近寄らないで!」
「ミクリオ。オレなら平気だって」
「だけどスレイ」
ミクリオ?スレイ?…聞いた事がある名前。ううん、考えている暇なんて無いわ。今は逃げないと。男の人となんて話したくない、怖い…!
彼らに背中を向け今すぐにでも逃げようと走ろうとすればそこには女性が数人いた。い、一体何処から現れたの!?
「スレイ、ミクリオ。ちゃんと彼女をジイジの所まで連れていきなさいと言ったじゃない。ジイジが遅いと言っていたわ」
一人の女性が少し怒った表情で言えばスレイ、と言われている焦げ茶色の髪の男性は謝りながら頭を掻く。ミクリオ、と言われている水色がかった銀髪の男性は訳を話そうとするがスレイさんが言わなくていいと止める。
「彼女泣いているじゃない」
「え?…あ」
「ご、ごめん!オレそんなつもりじゃ…」
まさか自分が泣いているとは思ってなくて驚いているとスレイさんが申し訳なさそうにこちらに近づいてきたから慌てて距離をとる。「怖い?」と女性に訊かれて戸惑いながらも頷けば目を細めて微笑んでくれて。するとわたくしの足にスリッパのようなものを履かせてくれた。今までわたくしが裸足だったからだろう。
「この子は私達が連れていくわ。スレイとミクリオもついてくるのよ」
言うやいなや数人の女性はわたくしの手を引いて歩いていく。風が気持ちよく吹く中困惑しながらもなんとかついていき、周りを見れば…崖だという事に気づいた。わたくしはあのままだと崖に落ちる所だったの?だからスレイさんとミクリオさんはわたくしを止めてくれたの?
後ろを振り向けばわたくし達から距離をとってミクリオさんと歩いていたスレイさんと目が合った。ニコリと笑うスレイさんにわたくしは直ぐ様正面を向く。わ、笑いかけられても困るわ…!
「ねえ、あなた名前は?」
「…え、ええっと…実優ですが…」
「実優ね。もしかして男の子が駄目?」
「はい…。あまり男の人と話した事が無かったので」
だからスレイとミクリオにあんなに怯えていたのかと納得する女性達。自分と同じ性別なら大丈夫な為他愛ない会話をしながら歩いていく。ここは高山の山頂らしい。それにしても何て美しいのだろう。一見落ちると思えば怖いがこうして落ち着いて見ると崖の下には雲が広がり、所々山が雲を突き抜け立っていて素晴らしい景色だ。絵を描く事を考えたらここに本当にトリップしたのならここで良かったと思える。絵を描く事を考えたら、ですが。
門のようなものを潜ればわたくしの目には小規模な集落が映った。恐らく女性達はこの集落の人達なんだと見れば一人の女性が言う。
「ここはイズチの杜よ」
『イズチの杜っていうのは、私達の好きなスレイとミクリオが住んでいてー…』
不意に二人の友達がいつも言っていた名前を思い出す。…ごめんなさい二人共。どうやらわたくしはあなた達の大好きなゲームの世界にトリップした様ですわ。
この時わたくしはお母様が読んでくれた本の少女と同じ事になっているんだとついに認めてしまったのだった。