アイテムの補充や非常食の買い足し。それと一時の休憩を兼ねてわたくし達は各自それぞれの休憩の仕方でレディレイクにいた。とは言え、買物が出来るの人間はスレイさんとロゼさんのみ。わたくしは買物の予定など無かったが、ロゼさんにたまには女性陣で買物しないかと誘われ、現在雑貨屋にいる。
わたくしはロゼさん達とは違って買いたい物がない為、少し中を見回っていた。色々な装飾品があって凄いと感心しつつも、一つのネックレスを見て足を止める。中心には紫の宝石が輝いていた。


「ミクリオさんの瞳みたいだわ。綺麗」


…なんて、思わず呟いてしまい恥ずかしくなった。周りに人はいるものの自分は天族な訳だから聞かれたとはそうそうならないが、やはりいたたまれなくなる。慌てて足を動かしてロゼさん達の所に戻った。何も言われなかった所、幸い顔は赤くなってなかった様だ。安心して息を吐いた。
ある程度買物も終わり、ロゼさんに買っていただいたアイスを皆さんと食べながら歩く。こうして歩きながら食べる事に慣れた自分がいてもう随分長い事旅をしているのだと実感していた。


「ところで実優さん。少し質問があるのですが」

「はい。何ですか?」


冷たいアイスを全て食べ終えれば不意にライラさんに声をかけられて返す。何か気にかかる様な行動をしていたのだろうか…と悩めばライラさんが口にする。


「先程ネックレスを熱心に見つめていましたが…もしかしてミクリオさんの事を?」

「えっ…!?」


まさか見られていたとは。寧ろ見ていたとしても訊かれるとは思っていなく、片方の手で持っていた荷物を地面に落としてしまった。幸い人があまりいない所を歩いていた為、邪魔になる事は無かったが、落とすくらいに動揺したのと図星だったのと両方わかってしまっただろう。…証拠にエドナさんに動揺しすぎと指摘されたわ…。
慌てて謝りながら再び荷物を持てばライラさんは心底楽しそうに目を輝かせてわたくしに詰め寄る。


「やはりそうなのですね!?」

「ち、ちが、違います!ただ綺麗だと思っただけで!」

「あのさ実優、そんな顔真っ赤にして否定しても説得力ないよ」


ご最も過ぎるロゼさんの言葉に何も言えなくなった。顔が熱い為、間違いなく顔は赤いとは自覚している。が、素直に言える訳がなく必死に否定する事しか出来ない。ですがこの状況…ライラさんから逃れる事は絶対出来ない。
助けてほしい、とロゼさんとエドナさんに目で伝え様と見つめたが。


「てかさ、実優とミクリオって所謂恋人同士なんでしょ?もうそれらしい事した?」

「馬鹿ね。惚気を聞く必要なんてないわ」

「いいえ!是非お聞かせ下さい!一体あのミクリオさんがどのように実優さんをリードしているのか!気になりますわ!」


二人共ライラさんと同じ様になってしまった。ロゼさんはいつも通りさらりと。エドナさんは口と態度は興味無い様ですが、先に行かない所気になるという事でしょう。三人とも色々口にしていますが、一番はライラさんの気迫が凄い。
隠しても無駄なのは雰囲気でわかる。だからわたくしも観念して思った事を告げた。


「何もしていません」

「またまた〜。白状しろって」

「ですから、事実を告げてますよ?まずロゼさんの言う"それらしい事"って何ですか?」


肘でわたくしの腕をツンツンするロゼさんに首を傾げながら告げれば、ピシ、と凍った音が聴こえた気がした。隣にいるロゼさんは完全に動きが止まっている。何事かと残りの二人を見れば呆然とわたくしを見ていた。
一体どうしたのかわからず、ロゼさんに声をかければ次には肩を掴まれる。驚きで悲鳴を上げれば今度はライラさんまで大声で本気ですかと叫ばれてこれにも驚きながら頷く。


「あたしも恋愛とかさぱらんけどさ、フィルによると恋人繋ぎ?とか色々するんでしょ」

「実優さんはもうミクリオさんに触れるのも触れられるのも平気なのでしょう?だったら恋人繋ぎなんてとっくに」

「?恋人繋ぎとは一体…」


全然わからない。恋愛面はお母様から聞いたりしていたが、知らない事の方が圧倒的に多い。恋人繋ぎという単語を言われてもピンとこないが、恋人がする事なのだろう。
ますます頭に『?』が浮かぶわたくしを見てエドナさんがため息をついた後、あなた達は何をしてるのと冷たい目で見られてしまう。


「んー、じゃあキスは?」

「キっ…!?は、破廉恥です!そんな行為絶対しないですからっ!」

「…流石にミボに同情するわね」

「いえ、実優さんもですがミクリオさんも積極性が…」


頭を横に振りながら否定するわたくしを一目映せば今度は三人で輪を作り何かコソコソと話しだす。…キス、なんて出来るはずがない。唇と唇を重ねてどうするのだろう。仮に理由があったとしてもわたくしには無理よ。
考えただけでも顔が尚更熱くなる。少しでも冷まさせ様と手でパタパタ仰いでいれば、不意に三人がわたくしに目を向けた為肩が跳ねる。


「実優。あなたからミボに攻めなさい」

「…はい?」

「その方がいいかもね。ミクリオがリードするのってあんまり考えられないし。だから実優から言おう!」


親指を立ててわたくしなら出来ると笑顔で言われるが、一体何の事だろう。状況が呑み込めないわたくしにライラさんが細かく説明してくれた。
…どうやら恋人同士になって随分経っているのにキスの一つもしていない、ましてや恋人繋ぎ?というのをしていない、その他諸々"恋人ならでは"の行為を全くしていないのはありえない事らしい。


「先程ロゼさんが仰った通りミクリオさんが実優さんをリードするのは難しいと思いますわ。実優さんを気遣っているのでしょうが…」

「けどこのままじゃ二人共何も進展しないしないじゃん?」

「あなたから頼めばイチコロよ。そこでミボが照れて逃げればワタシがお仕置きしてあげるわ。ほら、断る理由が無いでしょ?」


寧ろ断るな、という思いがヒシヒシと伝わってくるのですが。でもわたくしから頼むなんて羞恥でおかしくなりそうですし、万が一口にしたとしても逃げるのは間違いなくわたくしだ。簡単に想像出来てしまう。
…わたくしはミクリオさんの傍にいられるだけで、話しているだけで幸せになる。胸が暖かくなる。でも、ミクリオさんはどうなのだろう。本当は普通の恋人同士がする事をしたいと思っているのだろうか。もしも我慢しているのならば、いつか愛想を尽かされるかもしれない。


「え、ちょ、実優!?何でそんな暗い顔してんの!?」

「ミクリオさんにいつか愛想を尽かされるのでしょうか…」

「大丈夫ですよ。ミクリオさんが実優さんから離れるなんて考えられませんわ」


明らかに沈んだ表情なのだろう。お二人が元気づけようと告げてくれているのはわかるが、一度考えてしまった事は、それが重要ならば尚更早々忘れる様な自分ではない。笑って強がる余裕すらない。
暫くしてエドナさんが痺れを切らしたのか、宿屋に戻るわよと傘を広げる。話していたので忘れていたが、ここはレディレイクの街中だ。ロゼさん以外は天族である為見えはしないが、周りからするとロゼさんが一人で話している事になる。だから宿屋に向かって歩き始める。するとエドナさんがポツリとわたくしに謝罪した。きっと自分達のせいでと考えているのだろう。


「わたくしの方こそ、ごめんなさい。三人ともわたくしの事を想って言って下さってるのに…」

「謝んなって。暗い顔してたらミクリオに心配されるよ。…って、原因はあたしらか…」

「僕が何だって?」


前方から声が聞こえた。顔を横に向けていたわたくしは正面に戻すと、そこには腕を組んで険しい表情で立っているミクリオさん。先程まで彼の話をしていたから直視出来ず、思わず目を逸らしてしまう。が、こんなわたくしとは違い、ライラさんは両手を合わせてミクリオさんに詰め寄った。隣にいたエドナさんは傘をくるくると回しながら、丁度良い所に来たなんて口にする。それはロゼさんも思っていた様で。


「ナイスタイミング!ミクリオ、あたしらちょっと用事があったから実優の事宿屋まで送ってくれない?」

「はぁ!?唐突すぎないか!?」

「煩いわね。どうせミボもこの子を探しに来たのでしょ」


何か裏があると感じているのだろう。だけどエドナさんの言葉に黙ってしまった。図星だったのでしょうか。もし本当にミクリオさんが探しに来てくれたのならば嬉しいと思う。
結局彼に有無も言わせないまま、三人はわたくしに手を振って立ち去っていく。二人きりになったものの、何を話せばいいのかわからなかった。


「…戻ろうか」

「は、はい」


このままだとただ何も話さずに立ち尽くす所だけだと彼は思ったのだろう。わたくしも同じ様に思っていた為、否定する事もなく歩いていく。彼の隣にいてこんなにも沈んだ気持ちになったのは初めての事だった。一言も話さず、わたくし達は宿屋に戻ったのだった。





宿屋に戻ったものの、誰も戻ってきてはいなかった。先に部屋を取っていたので今日の事は深く考えない為に寝ようと思っていたのだが。


「………」

「………」


わたくしは男性陣が寝る部屋にミクリオさんと二人でベッドに座っていた。何故なら別れる時にミクリオさんに腕を掴まれたから。話がある、なんて真剣な表情で言われて断れる訳がなく今に至る訳ですが…会話は無し。沈黙が余計にこの場から逃げたくなる。が、話があるのならばきちんと聞くべきだ。


「ロゼ達に何か言われたのか?」

「…え?」


不意に問われ、反応が遅れる。先程の事を全て話すのは恥ずかしいし、何より…幻滅されそうで怖い。だから何も無いです、と口にしようとしたが出来なかった。ミクリオさんの紫の瞳に捉えられる。時々彼の目は狡いと思う。そしてそんな目で見つめられると弱いわたくしはつくづく駄目。…なんて、理解しているのに…。
結局全て話してしまった。彼の反応は特に無し。でも、心の中ではどうなのだろう。本当にミクリオさんに嫌われてしまったのでないかと不安になる。


「あ、あの、ごめんなさい。わたくしが恋愛に疎いばかりに…」

「実優」


何とかミクリオさんに嫌われない様に言葉を発しようとすれば、名を呼ばれて手を重ねられた。その後優しく包み込む様に握られて、今度は胸がドキドキと高鳴り始めてしまう。


「僕も恋愛に関してはザビーダみたいに知っている訳じゃない。だから同じだ」

「ミクリオさん…」

「だけど、その…。実優ともう少し近づけたら、とは思ってたよ」


少しだけ顔を赤く染めて言うミクリオさん。お互いが同じ気持ちだったと告げてくれた事が嬉しいのと同時に、愛想を尽かされるのではないかと勝手に不安になっていた自分自身がなんて愚かだったのだろうと思った。それは彼を信用していなかったと言っても過言ではない。
…少しでも、ほんの少しでもいい。わたくしも一歩踏み出したい。


「わ、わたくしも…。ミクリオさんと、近づきたいです」

「!」


なんて恥ずかしい言葉なのだろう。何だかとんでもない告白をしてしまった気分になり、元々俯いていただけだった顔を失礼だとは承知していたがつい背けてしまった。
近づきたいと口にしたものの、具体的にどうするかなんて自分自身わからないのに、何を口走っているのだろうか。…そうあれこれ考えているわたくしとは違って、ミクリオさんは。


「ありがとう」


お礼を言って握られている手に力が込められる。何だかわたくしばかり動揺しているみたいで少しだけ悔しいなと思いつつ顔をミクリオさんの方に向ければ、彼も彼で顔が真っ赤だった。それに…本当に意識しないと気づかないくらいだけど、握られている手が微かに震えている。緊張、しているのかしら…。
そう思うと胸が熱くなって、ミクリオさんへの愛おしさが深くなる。だから…今溢れている気持ちを伝えたい。


「好きです、ミクリオさん」

「なっ…!ふ、不意打ちは卑怯だろう!」


尚更顔を赤くするミクリオさんを見て笑えば、空いている手で自身の口を覆った後、気恥ずかしそうに目を逸らしてわたくしと同じ感情を伝えてくれる。ーーー僕も好きだよ、と。







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