導師御一行は各自宿の部屋で休息中。とは言え現在の時刻は夜中。普通ならば就寝している時間帯だ。が、薄暗い廊下を男が歩いていた。只の人間では知覚出来ない存在、天族。そして導師御一行の一人、ザビーダ。長い髪を揺らし欠伸をしながら自分の部屋へと戻っている所だった。
ザビーダは自分が寝る部屋の扉の前に着く。この時間帯ならば人間が通る事はそう無いだろう。だから気にせずにドアノブに触れて扉を開けて中に入り閉める。中は外の街灯により一部分多少見えるが、真っ暗だ。出入口の近くに電気を付けるスイッチがあるのは知っているがザビーダは付けなかった。何故なら。


(…誰か寝てやがるな)


今から寝る場所、ベッドの中に何者かがいる。しかも相手は布団の中にいて姿が一切見えない。スレイとロゼが部屋を取ってくれたのだから間違いなくここはザビーダの部屋だ。つまり誰かが間違えて中に入り寝てしまったか、はたまた悪党か。直接確認するしかない。何よりも万が一悪党ならば追い払っておいた方がいい。
ザビーダはベッドに近づく。丁度ベッドは外の街灯に照らされているから良く見えるのだ。好都合なのか不都合なのか微妙な所だが、ゆっくりと布団を捲れば。


「…実優ちゃん?」


共に旅をしている仲間の一人、実優が眠っていた。ザビーダが驚いてつい名前を呼んでしまっても反応しない所、熟睡しているのだろうか。その姿を見てザビーダはそっと捲っていた布団を再び彼女にかけた。
仲間であってもスレイやミクリオならば確実に起こしているが、相手は女性。しかも実優ならば起きた瞬間に怖がらせてしまうのは目に見えてるのだ。実優は今は多少治ったとしても元々男性恐怖症で、ザビーダには一定の距離を置いているのを彼はわかっているから、尚更。


(しっかし無防備すぎる。いくら天族だからって鍵も閉めずに寝るのはどうよ)


鍵は内側からだ。実優もザビーダと同じく天族の為そう易々と襲われたりはしないだろうが、もしもの事があったら。
ここに実優が眠っているならば彼女が本来眠る部屋は空いているだろう。そこで朝まで過ごそうかと思ったが、ザビーダが出るという事は部屋の鍵を開けたままとなる。ならば、とザビーダはベッドから距離を取り床に静かに座った。元々天族は睡眠など取らなくても問題無い。だから起きていても支障は無い。…今の状況で唯一問題があるとすればする事が無いという事だ。


「!」


不意に実優にかけられていた布団が床に落ちた。寒いだろうと音を立てない様に立ち上がり布団を実優にかけようとした…のだが。彼女の姿を見た途端ザビーダの動きが止まった。
露わになった実優は普段とは考えられない程の肌が良く見える薄着だったのだ。暗かった為視界に映らなかったが、辺りを見れば脱いだであろう服がある。余りの実優の無防備さに無意識に抑えていた欲望がこみ上げてくる。
このまま布団を掴んでいる手を離し触れればどうなるかなんて充分承知している。そんな自分の欲望に実優が傷つく事も。彼女を傷つけるのは流石にマズいと僅かに残る理性が警告している時に。


「…ザビーダ…さん?」


声が聞こえた。思わずギクリとしたのは自分に疚しい気持ちがあった証拠だ。
実優の黒い瞳がザビーダを捉える。寝起きだからか目を擦って再度瞳に映す実優にザビーダは叫ばれる準備をしていた。この状況に彼女が叫ばない訳が無い。例え逃げたとしても朝になれば女性陣に尋問されるのは確実だ。だったら今の内に怒られて楽になりたい。
適当にそんな時間では無いが、おはようなんて声をかければ無言で体を起こしザビーダの前に立つ実優。次の行動を読んでいるザビーダは苦笑した、瞬間。


「遅いです!」


その言葉と共に実優がザビーダに抱きついた。それはもうしっかりと彼を離さない様に腰に腕を回してギュッと。予想外の行動にザビーダの思考が一瞬停止する。もう一度落ち着いて状況を整理してみるが、やはり信じられない状況だった。
ザビーダから実優に、ならばまだわかる。しかし今回は逆なのだ。実優からザビーダに、なんて前代未聞にも程がある。


「…実優ちゃん?何してんの?」

「ずっとザビーダさんを待っていたのに遅いからお仕置きです」

「お仕置きって…」


言わなさそうな言葉に、ありえない行動に、ザビーダは一つだけ思い当たる節があった。この宿に入る前に受付の者が天族含めて飲む方がいるのならばと好意でスレイとロゼに渡していたお酒。折角の好意を断る訳にはいかず、受け取った二人。そこから直ぐにザビーダは一度外を出た為、あのお酒の行方は知らない。だがもしも何かがあって実優が飲んでしまったならば、彼女は酔っているのだろう。でなければ色々と彼女らしくないのだ。
自分とザビーダの部屋を間違える。必ず鍵を閉めている筈が鍵を閉めない。頑なに嫌がっている露出が多く、しかも薄い服を着ている。そしていつもならザビーダを避ける実優が距離を取る所か距離を無くす為に自ら抱きついている。彼女とは思えない言動。
あげればキリがない。…とにかく、ザビーダは恐らくこう答えるだろうと予想しつつも問いかけてみた。


「実優ちゃん。酒、飲ん」

「飲んでません」


くい込み気味の否定に、ザビーダは飲んだなと確信してしまった。飲んで酔った者は隠そうとすると飲んでいないやら酔っていないやら否定する。実優のそれと一緒だろう。くい込み気味に否定したのだから、尚更だ。
さてどうしたものか。この様子だと実優は離れる気は一切無い様だ。


「酔っているからって男に抱きつくのはいけないねぇ。誘ってると勘違いされるし、それで襲われても文句言えないぜ」


実際こうして抱きしめられると実優の胸が直に肌に触れているのが嫌でもわかる。意識したくなくてもつい意識してしまうのは男だからか。
ザビーダの忠告を聞いても動かない実優。顔を伏せている為見えないが、まさかそのまま寝たというのはありえないだろう。ならば、ザビーダの言う通りになってもいいという態度をとっているのだろうか。
しかしだ。一向に動かない彼女がやはり気になりザビーダは両手で実優の肩に触れた。すると。


「ひ、あっ…!」


ビクンと大きく震えた後、実優の甘い声が部屋に響いた。一瞬、何が起きたのか理解が出来なかった。この反応は単純に驚いただけの反応では無い。漸く顔を上げた彼女の顔は赤くて、何処か息が上がっている。
―――何処かで何かの糸が切れる音がした気がした。ザビーダは勢い良く実優をベッドへ押し倒す。素早く覆い被さり逃がさない様に両手を自らの手で掴んで足は跨いで動かせなくする。


「ザビ…っ!」


有無を言わせない。言葉を発しようとする唇に重ねられて実優の瞳には目を閉じたザビーダの顔が広がる。恥ずかしくて慌てて目を閉じたが、優しい口付けではなく強引な口付けに隙間から吐息が漏れてしまう。やがて声まで漏れてしまって尚更羞恥だった。だが抑えられない。


「…ん…ふ、ぁ…」


酒のせいなのか、それとも酒なんて関係ないのかわからないが、気持ちいいと思ってしまう実優。同時になんてはしたない事をして、考えているのだろうと頭の隅で考えた刹那、ザビーダの舌が実優の口内へ侵入した。
驚きで思わず目を見開けばザビーダも目を開けていて、黒い瞳と赤い瞳に互いの顔が映る。実優が一瞬ドキンとしたのも束の間、ザビーダの舌が無意識に引っ込めていた実優の舌に触れた。そのまま絡めさせられて、最早されるがままだった。
その間も二人は見つめあっていた。実優は彼の瞳に映る自分の姿に軽蔑していた。でもどうする事も出来ない。寧ろもっと深くて身も心も溶けてしまいそうな口付けを求めてしまう。まるで自分じゃない様だった。


「っは…実優…」


口付けの合間に呼び捨てで呼ばれて、たったそれだけで胸がキュンとする実優。されるがままだった舌を今度は応える様に絡ませればザビーダの目が細まり、更に激しい口付けになる。いつの間にか実優の両手を掴んでいたザビーダの手は未だに離さない舌と同じ様に実優の指と絡ませていた。しっかりと、お互いに離さない様に。
唾液の音、ベッドの音、互いの吐息。その全てが如何に自分達がイケない事をしているのか実感させられて同時に興奮してしまう。実優の口の端から唾液が溢れてベッドへと落ちた時、漸く唇が離れた。
むせてしまう実優が落ち着いた後、ザビーダは片手を実優の顎に触れて顔を近づけ、溢れている唾液を舐める。たったそれだけなのに実優は反応してしまって全身が熱くなる。


「今の実優、厭らしい顔してるぜ」

「み、見ないで下さい」

「隠さなくていい。俺は実優のそんな所も含めて好きだからな」


空いていた手で顔を隠そうとすれば掴まれて見つめられる。ザビーダは口付けで感じた味でわかっていた。彼女は確実に酒を飲み、酔っている。だから今の口付けを受け入れてくれて自分からも求めてくれたのだろう。
一瞬酔いが覚めた実優がどんな反応をするのか考えてしまったが、もう止まる事は出来ない。本当は口付けが終われば無理にでもやめようと思っていたザビーダだったが、実優から舌を絡められた時にそんな思いなど何処かへ飛んでしまった。


「ザビーダさん。…もう一度、口付けしていただけますか…?」


こんなお願いをされるとは。酔いとは凄いものだなと関心しつつも、煽られたザビーダは今一度実優の姿を見た。無理矢理押し倒し激しい口付けを交わしたのだから仕方が無いとは思うが、髪や服が乱れている。おまけに肌は酔っているからか、それとも興奮しているからなのか、どちらにしろ熱い。普段の実優とは想像出来ない程に色っぽくて綺麗だとザビーダは思う。


「いいぜ。言っておくが後悔するなよ?」


笑ったザビーダが実優の唇を塞ぐ。お互いの体はこのまま触れていれば溶けてしまいそうな程に熱い。何度も何度も深い口付けをしながら、やがてザビーダは実優の服に手をかけた―――。











翌朝。晴れている太陽の日差しが窓により照らされている顔が少し熱い。ゆっくりと目を開けて目を擦り改めて朝かと実感する。何故か頭が少し痛い。そして昨日の記憶があやふやだった。思い出さないととは思ったが、その前に夢の内容を思い出してしまいカッと顔が熱くなる。
わ、わたくしは何故あの様な破廉恥な夢を見たの!?し、しかも相手はザビーダさんで…。いえ、それよりもわたくしは…ゆ、夢であったとしても一体何ていう行動をして…!あああ、恥ずかしくてどんな顔して皆さんにお会いしたら良いのかわからないわ!しかも嫌な程にリアルで、余計にどうすれば!?


「と、とにかく、落ち着いて水でも…」


落ち着かせたいのと頭が痛いのと両方あるが、水を飲みにベッドから重たい体を起こす。途端に冷たい空気が体を襲う。薄着ではないはずなのに…と一旦自分の姿を見て驚愕した。本当にわたくしなのかなんて疑ってしまう程に薄着だった。辺りを見れば脱いだであろう服があるが、脱いだ覚えは無い。
そ、そもそもここはわたくしが寝ていた部屋…?どうもそうには見えない。だが実際に違う部屋ならばなんて事をしているのだろう。一刻も早く出なければならない。


「お、落ち着かないと…。昨日は確か」

「俺と熱い夜を過ごした、だろ?」

「!?きっ…!?」


不意に後ろから抱きしめられて叫ぼうとした口を手で塞がれた。そのまま再びベッドに横向きに寝転がされてしまう。片腕とはいえ力強く抱きしめられている為身動き出来ない。口も手で塞がれているから助けを求める事すら出来ない。まさに絶体絶命の状況だった。
完全に身を固くしているわたくしに謝りながら塞いでいる手を離してくれて口が開放される。しかし今度は両腕で抱きしめられてしまった。
…一応、相手が誰かというのは声でわかっている。ただこうして抱きしめられるのは未だに慣れない。それに今の自分は薄着だからかいつもより彼の体の熱や感触が伝わって胸のドキドキが止まらなくなる。


「あ、あの…ザビーダさん?どうしてここに?」

「どうしてってここは俺様の部屋だからな。夜中に部屋に入ったら実優ちゃんが寝てたんだぜ」


ひとまず叫ぶのは抑えて質問すればあっさりと返されて、余りの自分の間抜けさに一瞬眩暈がした。まさか違う部屋で寝ていたなんて信じられない。
謝罪して直ぐに出ていきますと告げても緩まない腕。まるで逃がさない様に拘束されているみたい。こうして密着していると心臓の音がザビーダさんに伝わっていないか心配になる。


「実優ちゃんに質問。昨日酒飲んだ?」

「え?…いいえ、わたくしはお酒なんて飲まないです」


まずわたくしは今は天族だが元は人間。人間でいうとまだ未成年。だから飲めないですし、飲もうとも思わない。何故そのような質問をされるのだろう。
疑問に思っていれば頭の痛みが増した。思い出せと言われている感覚だった。ザビーダさんにももう一度昨日の宿からの自分の行動を思い返してみな、なんて告げられてあやふやだった記憶を思い出す為に軽く息を吐いた。
スレイさん達と別れて夜も遅かったから直ぐに就寝したはず。あの時は確かにわたくしが就寝する部屋だった。ならばそこからここの部屋に来るまでの経緯がある。


「…確か一度目が覚めてしまって、それから………あっ!?」


思い出してしまった。あの時、部屋に戻る前にスレイさんとロゼさんが受付の方に好意で頂いたお酒をわたくしはロゼさんに朝まで預かっておいてほしいと頼まれて承諾した。お酒の瓶を持って部屋に入った。そして万が一割ったら大事なのでテーブルに置いた。…近くにお客様のコップがあるのが全く見えていなかった。これが駄目だったのね。
就寝してから一度目が覚めたわたくしは喉が乾いていた。電気もつけずに何か飲み物を、と真っ先に瞳に映ったのはお酒の瓶…だったのですが、寝起きだったので頭が回っておらず、お酒だという事をすっかり忘れてしまいコップに注ぎ飲んでしまったのだ。


「そこからの記憶は完全に無いです。恐らく一口喉に通した時点で酔ったのだと思います。…ほ、本当にザビーダさんには迷惑ばかりで…申し訳ないです…」


恥ずかしくてもう声を出すのもやっとな程だった。お酒を飲んだ後はもう言わなくてもわかる。酔ったわたくしはフラフラと部屋から出てきっと偶然隣でしかも空いていたザビーダさんの部屋に入って服を脱ぎ、今の薄着のまま寝たのだろう。なんという失態。まさか寝起きとはいえ間違えてお酒を飲むなんて。その時の自分を恨むわ。
不甲斐なさに顔を上げる事が出来ず少し俯きながら黙っていると後ろから聞こえたのは笑い声。ザビーダさんが笑いながらわたくしを慰めてくれる。


「迷惑なんて思ってないって。寧ろ俺にとっては嬉しい間違いだったからな」


迷惑と思われていない事には安心したが、彼の発言にどう返事するべきなのかわからず言葉に困る。お礼は言ったものの、微妙に疑問符がついているお礼に対しても笑われてしまった。
とにかくわたくしがザビーダさんの部屋にいた原因は判明した。ならばもう滞在する必要は無いだろう。既に朝だから旅の準備をしなければならない。何よりも薄着は落ち着かない。更に言えばこの姿でザビーダさんに抱きしめられているといつも以上に恥ずかしくて何度叫びそうになったのだろうか。せめてザビーダさんが上半身裸で無ければ良いが、普段と変わらないままだ。そろそろ我慢の限界だった。


「ザビーダさん。そろそろ、離し…」

「なあ、実優」

「っ…!」


耳元で名前を呼ばれて口を閉じてしまう。今まで意識しない様にしていたからか気づいていなかったのだ。彼の吐息が耳にかかる程に近くにいる事を。低い声で不意に呼び捨てで呼ばれて、吐息を感じて、考える事が出来ない。まるで夢と同じ状況だと思った。


「部屋に戻ってきた俺と何をしたのか、何も覚えてない?」

「何をした…?わたくしは寝ていたのでは…」

「まあやっぱりそういう反応になるわな。だったら―――」


やはりザビーダさんに何かしてしまったのか。全然記憶は無いが迷惑をかけてしまったのでしょうか…と悩む中、告げながら笑うザビーダさんの両腕が突然わたくしの体から離れた。後ろから抱きしめられて密着していた為暖かったが、離れた途端に冷たい空気が体温を下がらせる。
早く着替えなければ。そう思い体を起こそうとした時、片手をザビーダさんに掴まれた。何事かと目を見開くが、そのままわたくしは仰向けにされる。
…気づけば両手は彼に掴まれていた。足は跨がれて動かせなくなっていた。目の前にはわたくしに覆い被さる彼がいた。


「思い出させてやるよ。昨日の夜このベッドで一体何をしたのか初めから全部、な」

「…ま、まさか…」


きっと今のわたくしの表情は酷いものだろう。この状況でハッとしたわたくしは信じられない余り口に出してしまった。ザビーダさんに何かされる前に思い出した。ううん、思い出したとは違うかもしれない。
昨日、彼と何をしたのか。それはわたくしが夢だと思っていた内容。…は…破廉恥すぎる行為を、酔っていたわたくしは彼としてしまったのだ。羞恥でおかしくなりそうだった。
明らかに様子がおかしいわたくしにザビーダさんが思い出したのかと気づく。どんな内容にしろ夢だったらどれほど良かったのだろうか。


「忘れて下さい!何でもしますからお願いです、忘れて下さい!」

「別に照れる必要無くない?それに途中で実優が寝たからキス止まりな訳だし」

「…キス止まり…?」


あの夢の最後はわたくしの服にザビーダさんが触れた所で終わった。その後の行為は何もしていないという事だろうか。どうなったのか知りたい様な、知りたくない様な。
とは言えやはり気になってしまうわたくしは恐る恐るザビーダさんに訊いてみる。すると訊くなんて拷問だなと呟いた後、説明してくれた。どうやら途中でわたくしは…寝てしまったと。あの状況で寝るとは。自分の事ですがわたくしも驚く。
流石に寝ているわたくしを無理矢理襲うのはしないと笑顔で言われて、如何にわたくしは彼に大切に思われているのが伝わる。…わたくしも、ザビーダさんに伝える事が出来たなら。


「…わたくしはまだまだ子供ですわね」

「突然だな」

「本当の事ですから。あの後の行為がどういったのか詳しくは知らないですし、ザビーダさんに訊く勇気も無い子供だわ」


目を閉じて口にするわたくしにザビーダさんが否定してくれる。否定に対しては嬉しい。だけどわたくしは子供だと強調する。
…情けない。触れる事や話す事は出来ても、男性が怖いのが完全に治った訳ではないのはわかっている。だとしても仲間を…ザビーダさんをまだ少しだとしても恐れているなんて最低な態度だわ。皆さんは優しいから笑って許してくれたとしても、わたくしは嫌で。きっとザビーダさんと口付けをして終わってしまったのも、無意識に怖いと思ったから寝る事で拒否したのだろう。彼がどう捉えたのかは当然詠めないけど、鋭い彼なら薄らとわかっているはずだ。
でも、と続けて目を開けてザビーダさんを見つめる。


「いつか必ずザビーダさんの全てを受け止められる女性になります。だから、わたくしがもう少し大人になったら、その…」


大人になったら。それはわたくしが男性に対して一切恐怖心を感じなくなった時。この旅を続ければ自ずとそうなる予感はするけれど。
この先の言葉を言うのにはどれ程勇気がいるのだろうか。恥ずかしいから言えない。でも後悔しない様に告げたい。正反対の想いがぶつかり合い、やがて。


「愛して、いただけますか?」


ハッキリと口にした。途端にザビーダさんに掴まれている両手が開放される。彼の片手はわたくしの顔の隣につき、もう片方の手はわたくしの顎にそっと触れる。指で唇を撫でられて胸が盛大に高鳴る。


「実優は俺を煽るのが上手いねぇ」

「煽っ…!?そんなつもりなど、んっ…!」


口付けで遮られる。夜の様な激しいものとは違って、反対の優しい口付け。甘くて眩暈がする。繰り返されると破廉恥だと思う気持ちが強くなる。…なのに、止まらない。もっともっと触れていてほしい。そんなわたくしの卑しい欲が出てくる。


「言われなくても愛すつもりだけどな。…で?可愛い事言ってくれたけど、結局俺の事どう思ってんの?」

「そ、それは」

「ちゃんと言葉にしてくれないとわからないぜ」


絶対にわかっているのに…!反論したとしてもこの時のザビーダさんは折れない。わたくしが折れるしかない。
両手を伸ばしてザビーダさんの背中に触れてみる。軽く抱きしめる様にしながら彼に微笑んで。


「わたくしは、ザビーダさんの事を…」


突然扉が開かれた。驚きで慌てて口を閉じてわたくしは目を向ければミクリオさんが立っていた。が、ミクリオさんは一向に動かない。固まっていた。
ミクリオさんの瞳にはどう映っているのだろうか。その答えは…直ぐに武器を持った彼の口から述べられた。


「わざわざスレイに鍵を借りに行ってもらって起こしに来たのに、まさか実優を襲っているなんて」

「今いい所なんだ、邪魔するなよ」

「するに決まっているだろう。実優から離れてくれ」


でなければ天響術を放つ。冗談ではない発言にザビーダさんが悪い訳じゃないと訂正しようとした途端、今度はロゼさんが中に入ってきた。どうやらミクリオさんの様子が変だったから追いかけてきた様だった。タイミングが悪い…!
ロゼさんもわたくしとザビーダさんを見て絶句した後、武器を持った。流石に二人は駄目だ。ザビーダさんも同じ事を思ったらしく、ベッドから降りた。


「ミクリオさん、ロゼさん。落ち着いて下さい。これはわたくしが…」

「ちょ、実優!?何でそんな薄着…!」


わたくしも説得を試みたのがいけなかった。お二人を何としてでも止めようとするのに必死で自分の服装など気にもせず、ベッドから降りて立ち上がった。完全に全身を見たミクリオさんが咄嗟に頬を赤くして目を逸らし、ロゼさんが声を上げる。その声に我に返ったわたくしは叫びながら床にある服を掴んで隠した。


「言い訳は?まあもう何を言っても止めないけど、一応訊いとく」

「ロゼちゃん、ここは宿だぜ?武器なんて物騒なものはしまい…」

「ミクリオ」

「ああ」


二人の体が輝く。この光は神衣する時の光。流石にそれはないと嘆くもののもう遅い。弓を構えたロゼさんが容赦なく放つ。
部屋にはザビーダさんの悲鳴とわたくしの静止の声が響いたのだった。後に駆けつけてきたスレイさん達が更にザビーダさんを責める、そんなある意味激しい朝だった。

―――――

ミカエ様リクエスト、お酒で酔った夢主にザビーダが理性を失う夢でした!
可能ならば微裏or甘々で、とのリクエストでしたが…両方入れてみた結果長くなってしまいました。読みづらくて申し訳ございません。
最初は少し微裏要素を入れるだけで終わらせるつもりが(個人的には)結構がっつりになっていますね。まあ…ザビーダも抑えられなかったのでしょう←
この夢主とザビーダのカップルは大人な恋を目指しているつもりなのですが、後半から大人の恋とは何ぞや…!となり、只のバカップルになった気がします。

それではミカエ様、リクエストありがとうございました!
また今回の様な企画をした時は気楽に参加して下さいませ!


※お持ち帰りはミカエ様のみです。




 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -