高熱と記憶が飛んだ俺

ノーグ湿原。生憎の雨に打たれながらベルベット達は仲間の一人のせいで仕方なくこの場所にいた。目的の業魔を探す為に。しかし一向に見つからない。かれこれ何時間雨に打たれたのだろうか。


「本当にいるのかえ?儂は疲れたぞ〜」

「そもそも情報が少なすぎる」


何故この頼みを受けたのか。その目は受けた本人に向けられる。しかし当の本人は何だと首を傾げていた。あたかもこの状況を理解していないかの様に。アイゼンが眉をひそめるのも全く気にしていない。性格上仕方が無いとは思うが、流石に無責任すぎるなとロクロウが笑いながら言っていた。


「じゃあサボるか?」

「駄目です!人からの頼みを直接断るのではなく、サボるだなんて…!絶対に許しませんよ!」


即座に提案を幼馴染みに断られたこの頼みを受けた張本人…名無し。仮にも彼は幼馴染み、エレノアと同じ対魔士。…なのだが、昔から彼は責任感というのが無い。正にエレノアと正反対な名無し。
だがこのままでは埒があかない。どうしようかとライフィセットが悩む。とにかく、と口を開いたのはベルベット。


「一旦戻るわよ。雨が止んでから探した方がいいわ」

「…そうですね。風邪を引く前にレニードに戻りましょう」


その提案に断る者はいなかった。踵を返しレニードに戻る為に歩く。名無しも勿論後に続いた…のだが、視界が霞む。直ぐにクリアになるのだが、やはり今日の自分は変だと思う名無し。時折視界が霞んだり、現在進行形で体が重いしだるい。今はまだ業魔との戦いの中でそれが発症していないのが救いだ。昨日は特に悪い物は食べてないし、飲んだりもしていない。だからその内治るだろうと呑気に考える名無しにエレノアが気づき声をかける。


「何かあったのですか?」

「いや。ところでエレノア、知ってるか?下着透けてる」

「なっ…!?」

「冗談。見えてたらラッキーだったけど。特に胸」


さらりととんでもない冗談と本音を吐く名無しにエレノアの顔が赤くなったり青くなったりと忙しい。名無しは相変わらず胸が好きな為残念そうにしていた。
またあなたはそんな発言ばかり―――なんて怒ろうとしたが、不意に頭にタオルをかけられる。名無しが鞄の中から出したタオルだ。


「俺はいらない。エレノアは女なんだし少しでも雨を防ぐ様に使えば?」


突然女扱いをされてエレノアの胸が騒ぎ出す。しかも名無しは言葉を発しながら濡れた自身の髪を手でかきあげていた。その仕草が、名無しが、カッコよくて見惚れる。元々名無しは性格はあれだとしてもカッコいい。昔から良く女に囲まれている事が多いのだ。今回のも囲まれた女に頼まれたのが原因だった。


(今回の女の胸も違うかった。…こう、もっと衝撃が来るような胸とはいつ出会うのか)


対魔士の身である名無しは断る事など簡単には出来ない。が、彼は受けるといった次の瞬間依頼主の女の胸を触った。交換条件だという様に。当然その後散々ボコボコにされたのだ。もう幾度も繰り返した行為。しかし名無しは絶対にめげる事は無い。今まで彼に近づいて話してきた女で触った事がないのは二人だけだ。
そんな名無しは受けた依頼をする気は無かったのだが、エレノアが最低な行為をしたのだからせめて依頼をこなして謝りにいけと口煩く言う為今に至る。まさかベルベット達まで文句言いつつも付いてきてくれるとは思いもよらなかったが。


「エレノア!名無し!」


前方からライフィセットの声。慌ただしく名前を呼ぶ声に何かあったのかと目を向ければ仲間の前には業魔がいた。その業魔を見て名無しが指を指す。どうやら多少聞いていた情報と一致しているらしい。あれが例の業魔だと告げる名無しにエレノアが武器を構える。


「名無し、行きますよ!」

「っ、……了解」


駆けるエレノアに続こうとすれば体が上手くついていかない。反応が遅れつつも無理に名無しは走ったのだった。
業魔はウィッチとトロルだった。素早く動き魔法を唱えるウィッチと、動きが遅かったとしても凄まじい攻撃力を持つ業魔に名無し達は苦戦していた。何度も戦っていて戦法がわかっていたとしても数が多すぎると圧倒的にこちらの方が不利だった。


「ヴォイドラグーン!」

「ロクロウ!」

「応っ!」


ライフィセットによる聖隷術によりまとまったウィッチとトロルにベルベットとロクロウの技が決まる。消える業魔を名無しはボーッと見ていた。武器を持っているが一歩も動かず。
動く事が出来ない。先程の症状が悪化しているのか益々視界が霞んで武器を持つのがやっとな程に力が入らない。一体どうしたのかと名無しは自分に問いかけていた。


「戦闘中に何をぼんやりしている!」

「いかん!避けるのじゃ!」


アイゼンに叱咤され、マギルゥにも注意されるが思考が停止している名無しは一切動く事なく、気づけば後ろにはトロル。咄嗟にライフィセットとマギルゥが聖隷術を唱え、近くにいたエレノアがトロルの攻撃を防ごうと走るが、完全に他の業魔に気を取られていた為少しばかり反応が遅れていた。漸く気づいた名無しも振り向いたがそれすら遅い。
名無しの体に命中した攻撃はいとも簡単に名無しを吹き飛ばす。武器で防ぐ事すらしていない攻撃に悲鳴をあげながら名無しの体は木に叩きつけられる。


「名無し!」

「ライフィセット!アイゼン!」

「わかってる!」


ベルベットとロクロウ、そしてマギルゥが業魔を引きつける中他の三人は名無しに駆け寄る。辛うじて意識はあるものの、出血が酷く全身が痛む。指一つ動かせない名無しを見てエレノアの視界が涙で歪む。


(…ああ、わかった。だからこんな状態だったのか)


エレノアが自身の名前を必死に呼ぶ声も、ライフィセットとアイゼンが唱える声も、全てが遠のく。恐らく意識を失うのだろう。だがそれよりも名無しは目を伏せて自分に起きていた症状の事を考えていた。気づいてしまったのだ。体が重いのも視界が霞むのも反応が遅れたのも、全て。


(ーーー熱のせい、か)


そこで意識は、途切れた。





名無しが目を覚ますと白い天井が映る。ふかふかのベッドに寝転んでいる名無しは寝転びながら窓に目を向けると微かに外が見える為、どうやら時刻は夜中でバンエルティア号の部屋だという事はわかった。恐らく運ばれたのだろう。額に乗せられているタオルを手で取り体を起こす。聖隷術で治してくれたのか、痛みはない。あるのは怠さ。どうやら熱は引いていない様で名無しは面倒だと一度タオルを机に置く。すると。


「…起きたのね。気分は?」


食事を持ってきたベルベットが部屋に入ってきた。名無しを見て安心したのか一瞬安堵する表情を見せるものの、直ぐに戻して問いかける。名無しは熱が酷いだけだと返す。
あの後ベルベット達は業魔の大群を一掃させたらしい。これで問題は無いだろうと告げる彼女に名無しはお礼を言った。しかしベルベットはお礼なら自分以外に言えと告げるのだ。


「エレノアなんて心配でさっきまで起きてた。あたしが代わるって言っても全然聞かないし」

「もう夜中だろう。寝てれば良かったのに」

「出来る訳ないじゃない。エレノアは名無しが大事なんだから」


そう言うベルベットの表情が何故か暗くなったのに名無しは気づかない。まず名無しからすると自分の睡眠時間まで削ってまで看病する必要があるのかと悩んでいた。が、結局意味がわからず考える事をやめたが。
じゃあベルベットも戻ればと告げる彼にベルベットは断る。どうせ食事もしないつもりでしょと目を細め見つめるとハッキリ肯定する名無しにため息をつく。


「だから戻らない。あんたに無理矢理食べさせるまでね」

「別に食べなくても元気だろ。まず食欲ない」


名無しは素晴らしい程正直な為、嘘ではないのだろう。が、何も食べないという選択肢はベルベットにはなかった。無理にでも食べさせる、という選択のみだ。
拒否しようが抵抗しようが絶対に食べさせるからとベルベットに名無しはじゃあ、なんて人差し指を立てる。次に口にする言葉に嫌な予感を感じた。


「ベルベットが胸を触らせてくれるなら食べ」

「喰らうわよ」


全て言い終えなくてもわかったベルベットはくい込み気味に睨みながら言った…のだが、直ぐに後悔した。そう、何故なら彼はベルベットの"喰らう"という言葉に異常に反応してしまうから。


「…やっぱりいいな、ベルベットのそれは。凄いゾクゾクするし堪らない。なあ、本当に喰らってくれよ」


ベルベットは名無しとは違う意味でゾクゾクした。寒気が止まらなくなる。初めてこの言葉を発言した時、誰が名無しがそういう反応をすると予想しただろうか。エレノアも知らず、しかもベルベット限定。ベルベットにとって迷惑にも程がある問題だった。
そもそも喰らうというのは死ぬという事にほぼ等しいのをわかっているはずなのに喰らってくれと頼む名無し。一度死にたい願望でもあるのかなんて問えば否定された。…単純に興奮するから、だった。こんな事を言われてしまえば迂闊に喰らうやら名無しを興奮させる様な言葉を言える訳がない。


「…ところでいつから熱だったの?」


何事も無かったかの様に気を落ち着かせて話を変えた。しつこく追求してくると思っていたものの、名無しは普通に返す。熱だと気づいたのは気絶する前。だがノーグ湿原に来た時から変だったから既に発病してたと平然に答える名無しにベルベットはため息をつく。だったら早く言いなさい、と。


「どうせ今も治ってないんだから早く食べて寝たら?」

「だから食欲ない。熱だってその内…。…ああ、熱はベルベットが手伝ってくれれば治るか」

「は?何を手伝う…っ!?」


何か思いついたのかベルベットを見てそう言いながら立ち上がる名無しにベルベットが首を傾げた、瞬間。突然ベルベットの足が床につかなくなった。直ぐ傍に整った名無しの顔がある。足と背中、所々が名無しに触れられている。自分が横抱きされているという状況にベルベットは思わず頬が熱くなった。
ベルベットが暴れる前に名無しは直ぐに目的の場所へと彼女をおろす。自身が先程まで寝ていた場所ーーーベッドへ。


「何して…」

「?だからベルベットに熱下げるの手伝ってもらおうかと。えーっと…激しい運動をすれば熱が下がる、だっけ」


淡々と告げる名無しはベルベットの上へ覆いかぶさり、手は彼女の頭の左右に着き、跨る。必然的に動かせなくなった足と体制、近くなった距離、言葉、その全てがベルベットの体温を上昇させる。唯一動かせるのは手。相手に抵抗させない様に手を縛るのが一番だというのにしない名無し。わかっていないのか、彼女が抵抗しないと思っているのか、縛らなくても余裕だと思っているのか。
どれにしろベルベットにとってはどうでもいい事。寧ろ手が空いているのならばまだ名無しの下から脱出できる可能性はある。ベルベットは手に力を込めた。


「嫌ならその手で殴ったらいい。…あ、何だったら喰らえば?そっちの方が殴られるより断然いいし。ああ、考えただけで堪らない」


まるでこうなる事を望んで手を縛らなかったかの様。舌なめずりをして蕩けそうな眼差しでベルベットを見る名無し。余りの性癖に力を込めた手が緩みそうになる。
例えば殴ったとしよう。今度こそ彼はしつこく本当に喰らうまで迫って来そうだ。仮に喰らったとしよう。彼を殺してしまえばエレノアが穢れるのは目に見えてる。そうなればライフィセットが…とベルベットが躊躇う中、痺れを切らした名無しが距離を縮めてきて。


「嫌がらないのなら続けるけど。どちらにしろ俺にとっては最高だし」

「…っ…!?」


首筋に顔をうずめて舐める。ざらりとした感触がベルベットを襲い、一気に体が熱くなった。こんな行為をされた事など初めてで、ベルベットは咄嗟に唇を噛みしめる。声が出そうになるのを堪える為に。が、名無しの愛撫は止まらない。今度はさらけ出されている足をいやらしく触るのだ。


「…っ、ん…。やめ…」

「やめてほしいなら喰らってくれ。じゃないとやめない」


名無しの吐息が首筋にかかり擽ったい。足を愛撫する手が徐々に上がってくる。早く答えを出せと急かされている様。
触れられている部分が、全身が熱くて頭が朦朧とする。それは名無しが熱だから熱いのか、名無しに触れられているから自身の体が熱いのか、最早わからない。だがこのまま彼の思うがままにされるのは嫌だった。


(なん、で…こんなに、慣れてる訳?)


不意にそんな疑問が浮かぶ。何故思い浮かんだのか。それは名無しの愛撫のせいだった。流石に"激しい運動"の意味を知っているが、こんな行為は一度も無いベルベットでもわかるのだ。まるで女性がどうすれば感じるのか、喜ぶのか、全てわかっている様な慣れた愛撫が慣れているのだと語っている。
名無しはモテる。だから女性から迫られる事や胸を触る条件でこういう行為も少なからずあったのだろう。それに応えたのだろうか。


(あたしも…その女達の一員?)


胸がモヤモヤしていく。ベルベットは少なくてもそういった女達とは違う扱いをされていると思っていた。だが今、自惚れだったと痛感させられる。現に名無しは相手の気持ちなど一切考えず、自分の為にしている。ベルベットが受け入れ様が拒もうが彼の言う通りどちらにしろ自分にとっては良いのだ。


「…ふざけないでっ!」

「!」


それは名無しがベルベットの肩に口付けて顔を上げた時だった。叩いた音が部屋に響いたのは。拒むとしても殴られる訳でもなく、かといって喰らう訳でもなく、叩くというベルベットにしては随分優しい拒み方だなと思う名無しだったが、どうも様子がおかしいベルベットが気になり、頭を切り替える。


「あたしはあんたにとって何なのよ!?あんたが軽い気持ちでしているとしても、あたしは…!」


体を震わせ、泣きそうな顔をするベルベットを名無しは無言で見ていた。珍しい光景だなと如何にも思っている表情が更にベルベットを追い詰める。今の発言について深く考えていないという事だから。
ベルベットは名無しに好意を抱いていた。その事に本人は気づいていないが、嫌だったのだ。する、しないの以前に気持ちが繋がっていないのが。


「…ベルベット」


名前を呼ぶと名無しは顔を近づける。あと数センチで唇が触れそうな距離。この状況で何をするつもりなのかと流石にベルベットも我慢の限界だった。次は確実に気絶させる勢いで殴ろうと決意した途端、名無しの体がベルベットに重くのしかかった。突然の事に固まるが、直ぐに退くように指示するものの一切動かない。


「動けない」

「はぁ!?」


どうやら本当に動けない様だった。しかし身体中の力が抜けている名無しはかなり重たく、ベルベットも上手く身動き出来ないのだ。
なんとか名無しの体と自分の体を起こしたベルベットは直ぐに名無しをベッドに寝転がせて冷えたタオルを用意し額に乗せる。呼吸が荒い。手で首に触れるとここに運んだ時に触れたよりも明らかに熱かった。


「熱が上がったのね」

「…まあ、何度か興奮したし…」

「変な事しようとするからよ。全く…」


ベルベットは内心安心していた。あのまま続けられるのは絶対に嫌だったから。
結局名無しにとって自分は、名無しに群がる女性の中の一人という存在だったのだろう。あの言葉に深い意味は無いと思っているのが何よりの証拠だ。もしも思っているのならば何言ってくれるはず。それすらもないのだ。
余計な事を考えなくていいと一度頭を横に振り、タオルを冷やす為に手で持ち部屋から出ようするベルベットだったが。


「ベルベット」


いつも以上にか細い声で名を呼ぶ名無しに足を止めて振り返る。さっきの件だけど、と話す名無しにベルベットの心臓が跳ねる。まさか口にするつもりなのだろうか。彼の性格上包み隠さず、軽い気持ちだったーーーなんて言われるのが嫌で、逃げたい衝動に駆られる。だが聞きたくないとは言わない。今の気持ちを口にするともっと嫌になるからだ。だからタオルを持っている手を強くするだけで抑える。


「俺、本気だったから」

「…え?」

「多分わかったと思うけど、どうでもいい女に迫られたり胸を触る条件で何度かああいうのした事がある。直ぐに黙らせれるし、それで胸が触れるなら何でもいいと思ってたし。流石に最後までは無いけど」


相変わらず顔色一つ変えず告げる名無しの言葉にベルベットは複雑な表情を見せていた。予想通り行為をしていた事の怒りと、最後までは無かったという安心と、様々な感情が混ざり合う。


「でもベルベットは本気で奪おうと思った。こんな事思ったのはあんたが初めてだ」


その言葉がベルベットの胸の鼓動を加速させる。まるで自分が特別な存在と告げられているみたいで。そんな事あるはずがない、自惚れるなと言い聞かせても名無しが語る。


「それに俺、いつもなら真っ先に胸を触るけど普段嫌がるベルベットを思い出して触れなかった。こんな事もベルベットが初めてなんだ」


言われてみればそうだ。あれ程胸を触らせろと毎日しつこく言ってくる名無しが、あの時一切触っていなかった事に気づく。
何もかもあんたが初めてーーーと告げられてベルベットの顔が赤くなるのは言うまでもなかった。


「…要するに、俺…は…」

「…名無し?」


その言葉が続く事は無かった。目を閉じて寝息を立てる名無しにベルベットはため息をつく。このタイミングで寝るか。そう思ったが相手は病人。きっと無理をしていたのだろう。…多少自業自得な気もするが、そこは気にせずベルベットは名無しに近づき、そっと額に触れる。


「最後まで言いなさいよね」


自惚れても、いいのだろうか。名無しにとって自分は他の女性達と違うと思われていると良いのだろうか。いつか答えを訊ける日が来る事を夢見つつ、ベルベットは今度こそ部屋から出た。





翌朝。ベルベットはまだ寝込んでいる名無しに食事をさせようと服を着て支度をしていた。エレノアは先に名無しの部屋に行っている。泣いていそうだなと思っていれば、マギルゥが欠伸をした後ベルベットの名を呼んだ。ずっと気になっていたのじゃが、とベルベットの肩に指を指し。


「赤くなっておるが虫にでも刺されたのかえ?」

「…は?違うーーーっ!?」


指摘されて一旦自身の指された肩を見るが確かに赤い点があった。最初は何だろうと思ったが、ふと昨日の事を思い出す。名無しの頬を叩く前に名無しが肩に口付けていた事を。原因はその口付けだとわかった時にはマギルゥも何か察したらしく。


「…どうやら昨日は"お楽しみ"だった様じゃのう?これは坊になんて説明すれば…」

「マギルゥ!後で覚えておきなさい!」


からかうマギルゥに構っている暇は無い。言うだけ言って部屋から出て真っ先に名無しとエレノアがいる部屋へと走る。
一方名無しは未だに引いていない熱とは別で面倒という表情でエレノアを見ていた。彼女は来てからずっと心配しているのだ。心配してくれるのは嬉しいが、こうも泣かれたりすると困る名無し。どうすればいいのか悩む中、勢い良く部屋の扉が開いた。二人が一斉に開けた人物を見る。そこにはお怒りの顔をしたベルベット。


「ベルベット?ノックくらいし」

「名無し。あんた、わざと言わなかったのね…?」


エレノアの言葉を無視してベルベットは名無しの近づく。何事かとエレノアは首を傾げるが、それは名無しも同じだった。何に対して怒っているのかわからず、何かしたのかと逆に問う。それが更にベルベットの怒りに触れるとも知らず。しかも。


「先に言っておくけど昨日ベルベットが来たのは覚えてるけど、そこから記憶が全く無いから」


相手は覚えていなかった。そんな馬鹿げた話があるのかと。いや、覚えていなかろうが関係ない。


「あんたが覚えていなくてもあたしはハッキリ覚えてる。責任取りなさい」

「…責任?ああ、わかった。責任取るから胸をーーー」


覚えていない為反省しろというのは無理があるが、また胸を触らせろとせがむ名無しの頭をベルベットの手が掴む。いつになく容赦ない彼女に名無しは目を見開いた。そして自分に問う。俺は一体何をしたのだろう。記憶が無いなんて勿体ない、と。…が、それよりもこの状況。もしや自分が望む通りにしてくれるのではないかなんて期待もしている。


「ちょ、名無しは病人ですよ!?」

「関係ないわ」

「大いにあります!」

「…イイな、この体勢。俺はこのまま喰らわれたい。喰われるなんて想像するだけで本気で興奮する」


興奮すると熱が上がるというのに、抑える事など知らない名無しはベルベットを見ていた。エレノアのベルベットを静止する声、ベルベットが寒気を感じながらもイラつきながら名無しを見下ろす表情、名無しの興奮している吐息、声。その全てを。


「…随分賑やかだな」

「そうじゃのう。これ坊、後ろで何をしとるんじゃ」

「だ、だってこれ盗み聞きだし…」

「しかし名無しは本当に変な奴だよなぁ。普通興奮するか?」


仲間の全員が盗み聞きしていた。そんな事は知らず、部屋の中にいる三人はひたすらモメていた。
それのせいで、いつの間にか昨日ベルベットが作った食事が空になっている事に気づく者は誰もいなかったーーー。

―――――

藍様からのリクエスト、メモにて書かれていた男主(冷静)の方でエレノアに絡みつつもベルベット夢、でした!
夢主が熱になるのと、出来れば微裏も入れてほしいとの事でしたので入れさせていただきましたが…如何だったでしょうか。
元々夢主の性格が変態ですので、普通に書いてても微裏っぽくなるかなぁとは思ってたのですが…これはどうでしょう、微裏で留まってますよね!?(まさかの質問)
ベルベットともっとイチャイチャさせたかったのですが、中々上手くいかなかったです。というよりも時系列どこだよって感じですよね。あまり深く考えていませんでした、すみません。
しかし…執筆していて思ったのですが、夢主の性格凄いですよね。これはもう仲間達(特にベルベット)が苦労するのは目に見えます。ベルベットなんて『喰らう』発言されただけで興奮されますからね。誰でしょうか、こんなやばい変態設定を考えたのは(遠い目)

それでは藍様、企画にご参加ありがとうございました。
これからも『黒猫の鈴』を宜しく御願い致します!

※お持ち帰りは藍様のみです。




 



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