触れ合う肌とスケベ大魔王にされた俺


皆今頃温泉でのんびりしているだろうか。一人男部屋で残っている俺はそんな事を考えていた。何故一緒に入らなかったか。簡単だ、他の人と入るのが苦手だから。そりゃあ男同志なんだから問題なんて無いだろうが、何ていうか…妙に恥ずかしい。だから全員が帰ってきてから一人で入ろうと思っている。


「ああでも、支度くらいはしないと」


ベッドに寝転んでいた体を起こし、服とタオル等用意していると扉が開かれる。スレイとミクリオだ。ザビーダがいない事が気にかかるが、とりあえず置いておき二人に誰も入っていないのか確認する。肯定する二人の言葉を聞いて支度した物を持ちながら部屋から出て向かうのは温泉。誰もいないなら気にしなくて済むし、多少はゆっくり出来るだろう。


「…あ、ザビーダ」

「名無し。今から入んの?」

「うん、まあ。ザビーダは?」


俺の問いに首を振るザビーダ。俺に気を使って、ではなくただ単に今は入る気がないという事か。どの道俺にとっては好都合だし、何でもいいけどさ。
男湯は何処だとザビーダと会話しつつ考えていれば俺の悩みをわかってしまったザビーダがあっちだと案内してくれる。お礼を言いながらその場所に入ろうとした途端、ザビーダが心底面白そうに笑ったのが視界に映った。当然気にはなったがそのまま立ち去られてしまった為、訊くに訊けず諦めた俺は中に入ったのだった。





「やっぱり高級な所は気持ちいいな」


先に頭や体を洗いながら改めてそう思う。設備とか色々と自分の家とは全く違うから。だからなのか浴びている水が普段よりも気持ちよく感じる。
体を洗い漸く温泉の中に入れば体が一気に温まる。疲れが全て抜けていく感覚に陥り思わず力が抜けそうになったがそこは何とか堪える。


「…広いなぁ」


一人がいいとは言ったものの、こうして辺りを見れば広い。広すぎる。貸切みたいだなぁと小さく呟きながら折角だし隅々まで見ていこうと思った。湯気のせいでイマイチ視界が悪いけど。
そうしてキョロキョロしながら元いた位置から結構離れた時だった。目の前を見ていなかった俺は何かにぶつかってしまう。と言っても痛みなどは特になかった。だって、何ていうか…柔らかかったから。


「…ん、ちょっと待て。まさか人…?」


男にしては小柄な人が振り向いた途端、空気を読んだ気もするしタイミングが悪い気もするが、湯気が消えていきハッキリとその人物が見えてきた。が、これは明らかに男ではない。しかもどう見ても俺の仲間の一人にしか見えない。付け加えるとこの状況で相手が想像した通りにならば一番身の危険を感じる仲間の一人。


「名無し?」

「エドナ…!?何でここに!?」


やっぱり予想通りの相手だった。幼馴染みである彼女、エドナがいた。タオルを巻いているがエドナの綺麗な肌を見えている所は見えている訳で。俺が恥ずかしくなって目を逸らす。ていうか何でいるんだよ。ここ混浴とかそんなんじゃなくて男湯だろ?


「あなたどういうつもり?まさか覗き?寧ろ覗きしかありえない」

「ち、違う!大体何でエドナがここにいるんだ?男湯だろ」

「ワタシが悪いと言いたいの?随分と最低な男になったのね」


いやだから誤解だと口にしようとした時だった。不意に頭に過ぎったのはザビーダと別れる時に見たあの笑い。明らかに何か企んでいた笑み。まさか俺は嵌められたのでは。そう思った。つまりザビーダは俺に女湯の入口を教えたのだろう。しかも間違いなく故意で。頭を抱えたくなった。流石に度が過ぎている。…ああでも、今はザビーダじゃなくて彼女をどうにかしなければ。


「ごめん!どうやらその…間違えたみたいだ。出るよ。本当にごめんな」

「何その苦しい言い訳。あと、それが謝る態度?まさか恥ずかしいからこっちを見れないとか言うつもり?」

「だ、だってエドナだって見られるの嫌だろ?見られたいだなんて馬鹿な事は…」

「…そう。そんなにあなたはワタシを怒らせたいのね。だったらお望み通り」


すみませんでした!なんて俺の全力の謝罪の声が響いた。最後まで言わなくても大体何をされるか想像がつく。これ以上滞在する訳にはいかない。もう一度謝ってなるべく彼女を視界に入れず出ていこうとすれば。


「出ていけなんて言ってないわ」

「え?じゃあ俺はどうすれば」

「名無し」


鋭く睨まれながら名前を呼ばれてしまい口篭ってしまう。だって出ていけなんて言ってないと言われたとしても俺はどうすればいいのか正直わからない。なんか出るに出られない状態。
最終的に何故かエドナの隣にいる事になった。何故こうなったのだろう。も、もうこうなればヤケクソだ。エドナが嫌がるまで隣にいてやる。…とは思ってても実際はそんな余裕なんて一切無い。出来るのはエドナを視界に入れない事と、誰も入って来ないのを祈る事。


「…あなた、いつまで目を逸らすつもり?」

「み、見れるわけない!」

「別に体を見ろなんて言ってない」

「だとしても無理です、すみません」


というかエドナも俺の事を見ないでほしいんだが。恥ずかしいし、自慢出来る体でもないのだから。しかし懐かしいなぁ。こうして一緒に入ったのはまだ若かった時だったから。…ま、まあ、まさかこの年齢になってまで一緒に入る事になるとは思わなかったけど。
懐かしくてぼんやりと正面を見ていたら何ニヤニヤしているんだとエドナに指摘されてしまった。ニ、ニヤニヤ…。思い出していた内容が内容な為にまるで変態みたいだな、俺。


「…でも、エドナはあの時と比べて…」

「何?」

「大人になったなぁって」

「ワタシの事を子供だと思っていた訳?」


いや、違いますとも。寧ろ子供だって、只の幼馴染みだって思えれたらどれ程いいものだろう。今こうして意識しなくてもいいのだから。意識する、という事は子供じゃなくてエドナの事を一人の女性だと思っているから。
そんな事を考えている内に無意識に俺は目線をエドナに移し、濡れている髪に指で少し触れる。突然の事に目を見開く彼女を捉えつつ、俺は笑う。


「俺は今エドナに、ええっと…ドキドキ、してるよ。子供の時に見たエドナより今のエドナは凄く魅力的な女性になって、直視出来ないっていうか…何ていうか…。あああ、ごめんっ!何でもないです!」


我ながら何言っているんだ俺は!頑張って口にしたけどエドナの濡れた髪とか白い肌とかが気になってやっぱり最後まで言え…。って、また変態だと思われる事を考えてるし!ごめんなさい!
エドナに背中を向けて混乱しているのを抑えようと、冷静になれと必死に唱えていれば背中に小さな衝撃。


「…馬鹿。ちゃんと言えないのなら言わないで」

「え、あ、あの…エドナ…?」


背中を向けている為彼女の姿は見えない。でもきっとエドナは俺の背中に頭を預けている。それと手も触れている。先程より遥かに密着しているから本当にどうにかなりそうな位にドキドキして倒れてしまうかもしれない。


「名無しも…随分逞しくなったわ。お兄ちゃんの次に信頼してる」

「…あ、ありがとう。もっともっとエドナを守れる様に頑張る」

「本当、馬鹿ね。ワタシはもう名無しに守られてるわよ」


言葉と共に背中に触れている手が俺の腰に回る。最終的には後ろから抱きしめられている形になってしまい尚更ドキドキする。い、いやあの、エドナがくっついてるという事は…わ、わかりますよね!?口にしなくても皆さんわかりますよねっ!?健全な男子なんですよ、俺は!


「エドナ、この態勢はちょっと…」

「おー、広い!一人だけで堪能するなんて狡いよエドナ!…ん?もう一人いる…って、は!?」

「「あ」」


―――この後、俺とロゼの悲鳴が盛大に響いたのは言うまでもない。

―――――

いろは様からのリクエスト、幼馴染み夢主でエドナ夢、でした!
幼馴染み、という設定を活かしたくてねじ込みましたが…思い出す部分がおかしいですよね。一緒にお風呂に入っていた時って…確実にアイゼンに殴られますね←
いろは様がリクエストして下さったこの話の内容が素敵だったのでドキドキする所を入れたいと思った結果、私が執筆していてドキドキしたのはエドナが夢主を後ろから抱きしめる所です。こう…肌と肌が触れ合うって結構危ないじゃないですか。 だからドキドキしたというかなんというか…(何言っているんだこいつ)
しかしエドナからしているものの、ロゼからすれば夢主は女湯に入っている為この時点で変態扱いです。可哀想な夢主←
最後に内気な性格っぽく頑張りましたが…全然違いますよね!申し訳ございません!ツッコミとか一人漫才が多い気がしました…。

それではいろは様、企画にご参加ありがとうございました。
これからも『黒猫の鈴』を宜しく御願い致します!

※お持ち帰りはいろは様のみです。




 



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