見ていた三人とドキドキな私


昨日は宿屋にて泊まる事になった。そんな翌朝の事。起きてから皆に顔を見せても大丈夫の様に顔を洗ったり服が乱れていないかチェックしたりと確認してから自分の部屋を出て階段を降りる。テーブルの周りに座るのは私の仲間達。そして仲間の一人であるエルちゃんが私を見て笑顔で「おはよう」と言ってくれて私も微笑んで返し皆に近づいていった。一人一人きちんとメモに書いてある『おはようございます』というのを見せながら笑顔を向ければ返してくれる。


「もう少しで朝食を持ってきてくれるの」

「この時間暇ね。ルカでも弄ろっかなー」

「あ、それええなぁイリア姉ちゃん。名無し姉ちゃんもどう?」

「えええっ!?名無しまで巻き込まないでよエル!」


今にも涙を流しそうなルカに私はしないよという意味を込めて首を横に振る。ホッと息を吐くルカに少しだけ不貞腐れてみる。私がするとでも思っていたの?なんてわざと問いかけてみれば違う違うと必死に首を横に振るルカ。ああ、きっとこの反応が面白いんだなんて頭の隅で考えつつもう一度見回すと一人足りない。まだ寝ているのかと思っていればコンウェイさんに「彼は外だよ」と言われた。


「ねえ名無し。良かったらスパーダ君を呼んで来てくれない?」


呼ぶくらいならと頷きアンジュさんの頼みを受ける。外に出る途中、視界に映ったイリアとエルちゃんが何か企んでいる表情だったのを気にしつつも彼の元へ向かう。いくら何でも遠くには行っていないだろう。そうは思いつつ探していれば人影が無い所に着いてしまった。詳しい場所を聞いておけば良かったなんて後悔しても遅い。
一度戻ろうと後ろに振り向いた、瞬間だった。何かに当たってしまい思わず体が後ろによろける。足で支えつつ、一体何に当たったのか確認すれば見慣れた服装が目に映った。見上げれば私が探していた人が立っていた。


「何してんだよ名無し。声かけても全然気づかねぇし、何かあったのか?」


若草色の髪に今にも落ちそうなキャスケット。私を見る力強い灰色の瞳。スパーダ。どうやら彼は私を見つけた後、後ろをついてきてたみたい。普段なら人が後ろにいると気づくはずなのに気づかなった自分は余程スパーダを見つけるのに必死だったという事。は、恥ずかしい。
慌ててメモに書いて謝ったが気にしなくていいと返される。それよりも私が何をしに来たのかが引っかかるらしく、未だに問いかけてくる。


《アンジュさんに頼まれてスパーダを探してたの》

「オレを?…んだそれ、てっきりオレは男を探してんのかと…」

(?確かにスパーダは男の子だし、間違いではないけれど…)


何故少し機嫌が悪いのだろうか。困惑していれば本当にオレを探しに来たのかと険しい顔で私の両肩を掴みながら訊いてくるスパーダに私も頷く。すると先程の不機嫌から一変して嬉しそうに年相応の笑顔を見せてくるスパーダ。思わずドキドキしてしまって目を逸らしてしまった。
だったら帰ろうぜ、と私に背中を向けて前へ歩き出すスパーダに私も離れない様に足を動かす。


「歩くの早かったか?」

《ううん、違う。気にしないで》


早足で隣に来た為、自分が早かったのかと眉を下げるスパーダ。私の前に誰かが立っていると口が見えない。つまり私に話しかけていたとしても私には聞こえていない事になり、無視したと思われてしまう。だから隣に立つ事でその事態を回避出来るし…それに、スパーダの隣に立ちたい。


「!」


不意に私の前に差し出された手。その手を見た後、差し出した本人の顔を見れば少し頬が赤く染まっている。これはどういう意味なのだろう。まさか、手を繋ごう…?いや、そんな事ある訳…。
意図がわからずまじまじと手と本人を交互に見ていたら痺れを切らした彼が私の手を掴む。そのまま歩き出した。


「探しに来てくれた名無しが迷子になるのは勘弁だからな。…嫌なのかよ」


嫌なんて思うはずがない。ドキドキが止まらないけれど…このままで、歩きたい。
首を横に振って手を握り返してみる。するともっと強く手を握られてしまった。いつもこの大きくて、強くて、優しい守られているんだなんて思うと尚更胸が高鳴る。


(…カッコいいな…スパーダ)


純粋にカッコいいと思ってしまう。止まらないドキドキと、顔の熱。それは彼だけになる事だと改めて思いつつ、私は離れない様にしっかりとスパーダの手を握って皆がいる宿へと向かったのだった。





「ちょっとエル!押さないでよ!」

「だってイリア姉ちゃんの頭で見えへんねんもん」

「あらあら、これは時間の問題ね」

(…あいつら、絶対後でシメてやる!)


名無しの後を付けてきていたイリア、エル、アンジュの三人が影で見ているのがわかっていたスパーダは恥ずかしさと怒りが疼いていた。しかし手を繋いでしまったのだから仕方が無いし、何よりも言ったのは自分だ。一番の理由は離したくないだったが、それを認めるのはどうも気恥しい。


「スパーダ君ったら愛おしそうに見つめちゃって。あれだけでお腹一杯ね」

「てかスパーダってやっぱり名無しが好きなのね。わかりやすい奴」

「これは帰ったら言わなあかんなぁ」


…とまあ、実際に当たってはいるのだが好き勝手言っている三人にスパーダは後で必ずお仕置きしてやろうと心に誓ったのだった。

―――――

鏡華様からのリクエスト、LOVE SONGの番外編でスパーダとほのぼの夢、でした!
現時点で連載の方はスパーダが出てきていない為、二人のラブラブってどんな感じかなーと試行錯誤しつつも完成したのがこれです。ううーん、ほのぼの…になっていましたら幸いです。
一応スパーダは夢主に対しての恋心に自覚しており、夢主も完全に自覚はしていないが何となーくわかっている状態です。なのでスパーダは嫉妬しちゃってますね。
イリア、エル、アンジュの三人ですがこの三人はこういう恋愛事となると突っ込みですよねって事で実は見ていたというオチにしてみましたが…如何だったでしょうか?

それでは鏡華様、企画にご参加ありがとうございました。
これからも『黒猫の鈴』を宜しく御願い致します!

※お持ち帰りは鏡華様のみです。




 



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